弟がクラスで浮いてる
弟がクラスで浮いているかもしれない、と母に聞いた俺は心配になって、早速翌日の休み時間に弟のクラスを覗きに行った。
入り口から様子を覗いてみると、それはもう浮いて浮いて浮きまくっていた。
具体的にいうと教室の天井に頭をぶつけながら、「あ、またホコリたまってる。下の人避けてねーゴホッゴホッ」と慣れた様子で電灯の上を掃除するくらいには浮きまくっていた。
いつから浮いていたのか考えたくもない。この慣れ具合、二週間前から……なんてもんじゃないだろう。
「カイト、おい」
呼びかけてみると、
「おー、にいちゃん」
と朗らかに返してくる。顔はよく見えない。顔がよく見えないくらい浮いてるくせになぜ朗らかなんだ。お前明らかにクラスで浮いてるんだぞ?
「おー、じゃないよ。なんでお前、そんなに浮いてるんだよ」
「それが、流行りの曲ランキングを一切知らないことがこの間バレたんだよ。それでこのザマで」
それでそこまで浮くのかよ、嘘だろ。
「でも、クラス以外では全く浮いてないんだろ?」
「まあね。でもそれはさ、兄ちゃんたちも流行りの曲なんか一切知らないからじゃない?」
「おい、やめろ」
そんなこと言われたら俺まで浮くだろ!
と注意するまでもなく、俺も少しずつ浮き始めた。ああ……なんてことだ。ヒットチャートなんか会話に入らないように気を配ってきたというのに。
みるみる俺の体は浮かんでしまい、ついには、弟と同じように、教室の天井に頭をぶつけてしまった。
「カイト、お前ふざけるなよ」
俺が低い声で言っても弟は動じず、
「やあごめん、でも大丈夫。うちはマンションの六階だから、多少浮いててもなんとか帰れるよ」
本当かよ、と言いたかったが、信じるしかなかった。現に弟は毎日帰ってきていたし、同じように帰れると信じなければ、俺と弟は暖かいベッドを永遠に失うのだ。
しかし俺の期待とは裏腹に、俺たちはどんどん浮き続けた。
おそらく『え、あの二人兄弟で浮いてる……』と引かれた結果、俺たちは浮きに浮きまくったのだろう。悲しいことだ。
そして俺たちは教室の外に、学校の外に逃げたが、体はどんどん浮く。俺たちが住んでいるマンションの六階を追い越す勢いで。
「兄ちゃん、俺たちどうなるのかな」
「どうにもならないだろ」
素直に答えた。なんせ、浮いていると「うわ、あの人たち浮いてる……」と引かれてしまうので、さらに浮いてしまうのだ。キリがない。
どんどん浮いていって、ついに雲の上に出てしまった。
と、と思ったら、体が急にふわっと落ちていって、雲に、すとん、と座れた。
「なんだこれ」
「なんだろうね、兄ちゃん」
首を傾げあっていると、巨人がやってきた。
「なんだお前さんたち、引っ越してきたのか」
そんなわけあるか、と思ったが、よくよく周りを見てみると生活するのに困らない一式の道具は揃っているようだった。だから
「はい、そうです。これからよろしくお願いします」
「兄ちゃん!?」
驚く弟に小声で、とりあえず話を合わせておけ、と言った。
「えっと……俺は兄ちゃんの弟です。これからよろしく……」
「ああ、よろしくなあ。小人を見るなんて久々だから、慣れないこともあるだろうけど楽しみだよ。一緒にいい暮らしにしていこうな」
なかなか気のいい巨人だった。雲の上、巨人、のワードから『ジャックと豆の木』を思い出すが、まあ俺たちには関係ないことだ。
「仕方ない、ここで暮らすか」
「兄ちゃん、本気?」
「だって仕方ないだろ、浮いてるんだから」
仕方なく、俺たちは雲の上で暮らし出した。
今は父さんと母さんに『ヒットチャートを知らないこと、バレても平気だよ』と手紙を書いているところだ。
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