第32話 お前もかよ




翌日。

王様が遺体で発見された。

死因は毒殺らしい。


「そ、そんな……お父様……」


泣きつくレイリア。


何となく何故殺されたかは分かる。

俺みたいな何処の馬の骨か分からないやつとレイリアが結婚するのだ。


きっと王様は反対したはず。

だから排除されたんだと思う。


「レイリア」


俺は彼女を後ろから抱きしめた。


「仇は取るよ。あの時のように、ぶっ殺してやるよ」


俺は立ち上がってメイル達を集める。

向かおう聖剣の墓場とやらに。




エルザに聞くとすんなり聖剣の墓場の場所を吐いた。

俺達は底なし沼を超えてその聖剣の墓場とやらにたどり着いた。


そこにアシュレイは1人で立っていた。


俺はずっと気になっていたことを聞く。


「兄貴なのか?」

「そうだよ。お前もそうなんだろう?なぁ?」


綺麗だった金髪はくすんでいた。

この場所の空気が薄汚れているからなのだろう。


「お前を初めて見た時。こいつは弟だって気付いたよ。俺は」


だから、と吐いて


「いつもお前を呼んでた呼び方【ポンコツくん】ってわざと言ったんだよ」


向こうも初めから気付いていたらしい。

何故かは分からないけど。


「そうしたらお前は俺を目指すかのように冒険者活動を始めた。その姿を見ていたら察したよ」


そんな話はどうだっていいな。


「何で俺の恋人を壊したんだ。あんたはその場のノリで人生をめちゃくちゃにする奴じゃないだろ?」


そう言うとふふふふと笑うアシュレイ。


「ははははは。確かにその場のノリじゃない。ずっと温めていた長年の恨みとか嫉妬?みたいなのがあの時爆発したんだよ」


そう言って俺を見るアシュレイ。

どういうことだ?長年の?


「なぁミズキ。お前に分かる?俺の気持ち。俺は禁断の恋をしてたんだよ」


それが俺の幼なじみなのだろうか。

そう聞くと


「いや、違う」


お前分かってなかったんだなぁと笑うアシュレイ。

それから


「俺が彼女を作ろうとしなかったの何でだと思う?」


その言葉を聞いて思う。

兄貴が恋人を連れているところを見たことがない。


それどころか女の人と話しているところもメールしているところとかも見たことがない気がする。


ずっと俺に構っていたな。

そういえば。


「俺はさぁ、同性愛者なんだよね。分かる?男が好きなんだよ」


突然のカミングアウトに場が凍る。

いきなり何の話してんだ?こいつ。


多分サーシャ達の考えと俺の考えは同じだと思う。


「誰を好きになったか分かるか?俺はお前に当てて欲しいと思ってるんだよ」


そこまで聞かれて俺は思い出す。

そういえば兄貴は何時だって俺のそばにいた。


思い出したくない記憶が頭をよぎった。

兄貴は、事ある事に俺にボディタッチしてたような気がする。


信じたくない答えが浮かび上がった。


「まさか、俺のことが好きだったのか?」

「ご名答」


そう言って笑うアシュレイ。


「信じられるかよ?同性を好きになったどころか、その相手が実の弟なんだぜ」


だから憎かったと続ける。


「お前の彼女が憎かった。普通にお前と恋愛できて結婚もして付き合えて、羨ましくて羨ましくて羨ましくて仕方なかったんだよ。女なんてどいつもこいつもクソだ」


だから、殺した。

とそう呟いた。


かつての記憶を思い出していた。


『なぁ、何でこんな女の子が好きになったんだろうな?俺の方がいいじゃん?』


俺はこのセリフ俺の幼なじみに言ったんだと思ってた。

でも違うんだ。

これは俺に向けられた言葉だった。


「あの子が死ねばお前の目は俺を見てくれるかもしれない。そう思ったら俺は気がつけばあの子を殺してた」


サーシャ達がドン引きしていた。

俺に振り向いてもらうために他人を殺す選択肢を取れるというのが理解できないのだろう。


いや、まぁ理由はそれだけじゃないだろうけどさ。


「邪魔なやつ殺して排除したのはさ、お前がそれで疑われた時に俺が優しくしたらワンチャンあるかもな?なんて思ったわけよ」


まぁ、現実はこのとおりよ、と続けるアシュレイ。


ワンチャンなかったね。残念ながら。


「いや、もういいや」


剣を抜く。

もうお話は終わりだ。


「ここで終わりにしてやるよ」


アシュレイも口を開いた。


「俺が勝てばお前を好きにしてやるよ!ミズキ!!!喰らえよ!ダークメガフレア!!!」


飛んでくる黒い炎。

アシュレイの髪は黒く染まっていて既に勇者だった頃の名残など残っていない。


これが最後の最後にみせたアシュレイの本物の姿。


「はははは!!!嫉妬が、憎悪が、負の感情が俺に力をくれる!!!!お前も闇に呑まれろ!!!!」


【ダークメガフレアを技リストに登録しました。ダークメガフレアが使用可能になりました】


その後もどんどん技を出してくるアシュレイ。


「ははははは!!どうだ?!防戦一方か?!やはりお前は俺に攻められたいようだなぁ?!俺はお前を犯してやりてぇってずっと思ってたさ!!!!」


【ダークソードを技リストに登録しました。ダークソードが使用可能になりました】

【ダークトルネードを技リストに登録しました。ダークトルネードが使用可能になりました】

【ダークサンダーを技リストに登録しました。ダークサンダーが使用可能になりました】


その後もこれか、これか!と技を繰り出してくるアシュレイに対して俺もそろそろ剣を抜く。


「ダークソード」


ザン!!!!


「ぐぅっ!」


アシュレイの左腕が飛んだ。

ダークソードは説明を読む限り攻撃力に全振りした技。


鎧など意味をなさなかった。


続く二発目で聖剣を吹き飛ばすして返す刃で、ザン!!!


「がっ!」


次は右腕が飛んだ。

そこで膝を着くアシュレイ。


「適わねぇよお前には」


呟くアシュレイ。

そんなアシュレイが遠くを見るような目をした。


「お前は俺が頑張って手にしたもんを一瞬で真似してたもんなぁ」


そう言って記憶を思い出しているらしいアシュレイ。

そんなアシュレイを見下ろしてスキルを使った。


「|裁きの千剣(ジャッジサウザンズソード)」


現れる光を放つ千の剣。

それが一斉にアシュレイの体を串刺しにしていく。


ごふっ!血を吐いて倒れる。

胸から流れでる血が地面を染めていく。


サーシャ達もアシュレイに近寄ってきたけど誰も声をかけないし俺も声をかけられなかった。


そんな中アシュレイの目は俺を見ていた。


「女は寄ってきたさ。でもいらねぇんだよ女なんて。俺が欲しかったのはお前だけなんだよ……」


そう言って息絶えるアシュレイ。

冗談だろ?って言いたかった。


「有り得ないだろ。自分の願いが叶わないからって人を平気で殺すなんて」


少なくとも前世の俺は信じられなかった。

俺はアシュレイの持っていた聖剣と鞘を回収する。


俺は去り際にもう一度アシュレイを一瞥した。


「頼むからもう蘇るなよクソ野郎」

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