第31話 動く

アシュレイには既に家に帰ると伝えてあるが城内に残っていた。


「丁度この部屋はアーシェの待機してる横の部屋だよ。ちなみにここ客室だから知ってないと誰も入ってこないから」


メイルが俺の脇腹を治療しながらそう教えてくれる。


「ありがとうメイル」

「気にしないで別に」


小声で話す。

この計画を知っているのはアーシェと俺とメイルくらいだ。


レイリアが暴走してこの者を処刑なさいとか言わなくてよかった。

その時は止めるつもりだったけど。彼女の性格ならないだろう、と信じていた。


その時コンコンと部屋をノックして人が入ってきた。


「だ、大丈夫ですか?ミズキ様」


それはレイリアだった。

レイリアが俺の座るベッドまで走ってきて横に入ってきた。


「だ、大丈夫ですか?お体は。メイルにこの部屋にいると聞いてきました」

「問題ないよ」

「アーシェとは本当に面識がないのですか?」


そう聞かれて答えたのはメイルだった。


「この人女たらしだからどっかで引っ掛けてきたんでしょ。それを知らないって言ってるだけだよ」


つーんと俺から視線を反らすメイル。


「女たらしなのですか?ミズキ様は」

「何処がだよ」


笑って答える。


「俺はいつだって誠実だろうよ。俺がメイルを裏切ったことあるかい?」

「な、ないけど。で、でもしょっちゅう女の子ナンパしてるし」


ナンパした記憶なんてないけどなぁ。

漁ってみてもそんな記憶ありません。


さて、あとは待つだけだな。

そうして日付が変わるか変わらないかくらいの時間。


ガシャガシャと鎧の音が廊下から聞こえてくる。


「しっ」


俺は指に手を当てて全員に黙るように指示を出す。

特にレイリアが絶対に声を出さないように口を手で抑える。


「ちっ……めんどくせぇなぁほんと」


廊下から聞こえるのは間違いなくアシュレイの声だった。

昼間の声の感じとは違うけど。

それから女の声。


「全くだ。城内でナイフを持ち出すなど。あの聖女は何を考えているんだ。メイルはあそこまで馬鹿じゃなかったのに」

「仕方ないさ。あれは【ポンコツちゃん】なんだから。優等生のメイルちゃんと比べちゃ可哀想ってもんよ」

「本音出てるよアシュレイ」

「おっと、いけね」


軽い感じで会話しながらくるアシュレイ達。

エルザもやはりグルだったか。


俺たちの部屋の前をとおりすぎて2人の足音はアーシェの待機する部屋で止まった。


「めんどくせぇからこの部屋で殺すか。どうせ揉め事起こした女の扱いなんて適当だろうし。勝手に揉み消すだろ」


そう喋る2人。

レイリアも意味が分かっているのか驚いている様子だがいい子だ。

何も話さないし話そうともしない。


「それにしても勇者って最高だわ。剣崎達もばかだったなぁ俺が逃がしてやるって言ったら何も考えず付いてきて殺されてさぁ。タカシだってそうだ」


やっぱりこいつが殺したんだ。

理由は一切分からないけど


「さて、じゃあアーシェにも消えてもらいますか」


そう言って扉をギィーっと開ける音が聞こえた。

もう少しだ。もう少し粘る。


2人分の足音が中に入っていく。


レイリアにベッドの中で目を閉じて耳を塞いで隠れて小さくなってろ、と指示を出して俺とメイルは音を立てずに扉の前に立った。


「だ、誰?」


部屋に誰かが入ってきたのに気付いたのかアーシェが2人に声をかける。


「アシュレイだよ」

「何の用なの?アシュレイ」

「いや、なに。大した用事はないんだ。君に死んでもらうだけだから!」


剣を抜く時の音が聞こえ一瞬後。

キーーーーーーン!!!!!!

アシュレイの剣と俺のフォースシールドがぶつかり合う音。


「なっ!こ、これは!ふぉ、フォースシールド?!」


叫ぶアシュレイ。

確信を持った俺は部屋を出て直ぐに横の部屋に向かった。


「なっ……み、ミズキ?!」


俺を見て驚くアシュレイ。


「き、貴様!」

「遅い」


エルザが剣を抜こうとしたが俺はその前にジャッジソードでエルザの胸を貫いた。


「がっ……」


剣を引き抜くと倒れ込むエルザ。


その一瞬で俺のとこに戻ってくるアーシェを抱き寄せる。


「ははは……やられたよミズキ」


乾いた笑いを発するアシュレイ。


「まさかが狙いに来るのを理解してたんだな。それで俺を釣り上げたと。やるじゃないか」


本性を表したアシュレイ。

これだから最後まで人ってのは信じられないんだよな。


いくら外面は良くても内面が悪いやつなんているんだよね。


隣ではシズルに使い方を教えてもらったメイルがスマホで一部始終を録画していた。

それを見て、今更ごまかすつもりもないよと口にしていた。


「何処から騙してた?アーシェに襲わせたところか」

「そこだな」

「負けたよ俺の負けだ。まぁいいや。まさか自分を刺させるなんてな」


そう言ってアシュレイはバリンと窓を蹴破って窓枠に足をかける。


「何が目的だ?」

「そんな大それたものはねぇよ。強いて言えば俺の夢はもう叶わなくなっちまったってことだな」


なぁ、ミズキと声をかけてくるアシュレイ。


「物事には相応しい場所と瞬間があるって思わないか?聖剣の墓場で待ってる。準備を整えて仲間連れて来いよ。場所はエルザが知ってる。吐かせればいいさ」


そこで決着だ。それにお前も本調子じゃないだろ?と行って逃げていくアシュレイ。


一旦放置でいいと思う。

ここでやり合えばどれだけの被害が出るかも分からないし。


その横でメイルが傷付いたエルザを縛り上げていた。

とりあえず王様にも報告しないといけないかもしれないしな。




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