第26話 新たな事件

「朝だぞ。夜中までキャンキャン騒ぎよって。こっちも眠れなかった」

「んん?」


エルザが俺のテントを叩く音に目を覚ます。

ふと横を見るとシズルが俺の横で座り込んで俺を見ていた。


「好きですよ♡」


その言葉で俺は理解した。

昨日の夜から1部記憶が無い。


やらかしたらしい。


何とも言えない気持ちを抱きながらシズルの手を取りテントから出る。


「やっちゃった……」


表に出ると座り込んでいるメイルの姿が目に入った。


「自業自得だけど……やっちゃったよぉ……」


座り込んでるメイルに声をかけた。


「どうしたんだよ」

「うわ〜ん」


声をかけると飛びついてくるメイル。


「あのねあのね。ほんとは私がそこから出てくる予定だったのに〜」


そんなことを言い出すメイル。


その後すぐにエルザが王都に帰るぞと言って俺たちは帰ることになったが、その間もずっとメイルはグスグス泣いてたので、よく分からないけど今度埋め合わせすると言うと泣き止んだ。




「では、私はこれで」


そう言って王城に帰っていくエルザ。

俺たちはギルドに向かったのだがギルドの周りに人集りが出来ていた。


ギルドマスター達も外に出ていたのだけどルーシーは俺に気付くと近寄ってきた。


「大変だミズキ」

「どうしたんだ?」

「タカシが殺された。剣崎達と同じ人間にやられたものと思われる」


殺された?

別にあいつの生死なんてどうでもいいけど何で急に


「心を入れ替えて頑張ってくれてた直後に起きた凄惨な事件だ。胸が痛いな」


ぐっと拳を握りしめる彼女。


「彼の母国では葬式というものを行うらしいな。彼の仲間に聞いて出来るだけ近い方法で送ってやろうと思う」


そう言って彼女は人混みの中に消えていく。

その時


「あ、あんたなんだろ?ミズキさん」


冒険者の1人が俺を振り返ってそう行ってきた。

それはギルドでたまに見かけていた顔だった。


「アンタが殺ったんだろ?あんたとタカシって人がトラブってるって聞いたんだよ俺たち」


男がそう言うと別の冒険者も口を開く。


「自首してよ自首。あの荒くれ者のタカシを殺れる人って言うとあんたくらいしか思いつかねぇよ」

「何故俺だと思う?」


俺は逆に聞き返す。


「あんた達だけなんだよ。昨日からのアリバイがないのは」

「昨日はエルザと出かけていたが。確認を取ってもらえばいい」


そう言うと納得出来なさそうな顔をしつつも黙り始める冒険者たち。

その時爽やかな声が聞こえた。


「とにかく散りなさい。見世物では無い」


そう言って現れたのはアシュレイ。

いつも通りの理想の勇者像として歩いている。


「こんな平和な街で起きた殺人事件だ。気になるのは分かるが今は帰りなさい」


勇者にそう言われたら何も言い返せないのか黙って帰っていく野次馬たち。


「大変だったねミズキ」


アシュレイが俺の肩にポンと手を置いて俺に話しかけてくる。


「君も君の仲間も何も悪くないはずなのにね。痛ましい話だ」


そう言ってアシュレイは俺達全員の顔を見た。


「君たちがここにはいられないと感じるようであれば僕が上級区画の住まいを手配するがどうする?」

「悪いな。何でも至れり尽くせりで」


さわやかに笑うアシュレイ。


「気にしないでくれ。王女様の婚約相手に選ばれるほどなんだ君は。そりゃ手を尽くすよ」




アシュレイに用意してもらったのは空き家だった。

部屋の隅々まで探してみたが怪しいところは何も無い。


やはり疑いすぎだろうか。

今日は特に何かやる気にはなれなかったがそれでも王城の訓練場に足を運んだ。


アシュレイが好きに使ってくれと言っていたから。

サーシャは俺が疑われたショックで寝込んでいる。


お前が寝込むのかよって感じだけど。

シズルはそんなサーシャの面倒を見てくれているらしい。


そうやって武器を振っている時だった。


「見てきたよ死体」


フードを被ったメイルが訓練場に入ってきた。


「どうだった?」

「ギルマスのルーシーの言った通り他殺だよ。しかもかなり腕があるね。冒険者ランクで言うとSランク相当」


そう報告してくるメイル。

確かにそうか。


タカシの奴は1度Sランクまで手が届くとかどうとか言うほどの冒険者だったし、そんな奴を殺すとなるとそれくらいは必要か。


「これからどうするの?」

「犯人を探すさ。じゃなきゃずっと疑われっぱなしだしな」


そう答えてから新技に挑戦する事にした。


「サウザンズソード」


先ずタカシからモノマネした千の剣を出してみる。


「前使ってたヤツだよね?」


頷いて続ける。


「ジャッジソード」


次はエルザからモノマネした能力。それを千の剣に載せてみる。


「す、すごい!浮いてる剣が光ってる!!!!」


メイルがそう叫ぶけど


「だめか……」


フーっとローソクのように消えていく千の剣。

ジャッジソードを載せた瞬間、もうもたないのが分かった。


「え?スキルにスキルを掛け合せるって発想がまずすごくない?」


そう聞いてくるメイル。


「私なんてこんなこと考えたことも無かったよ。1つのスキルを使うのに必死になっちゃってさ」


そう口にするメイル。

俺はその後も何とかならないかと繰り返してみたがダメそうだった。


もう少し練習が必要かな。

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