第21話 マイナスの男


グレン洞窟と呼ばれる洞窟型のダンジョンに入っていく。


グレン洞窟は5階層で1つ1つの層がかなり大きいらしい。


今回の受験者は13名。


前回の30人からかなり人数が減っている。半分以下か。


俺達4人とタカシと呼ばれた男。それから俺たちと同じパーティで受験している4人組が2パーティ。


今回もクエスト受注まで目的地は知らされずに出たとこ勝負だった。


「皆気をつけてかかるように。これは忠告だ」


ルーシーが口を開き始めた。

今までに見せたことの無い大真面目な表情。


「ここからは平気で人が死ぬ。覚悟なき者、力無き者は去ることだ」


このテストを例え乗り越えられたとしてもBランクのクエストはそう簡単なものでは無い。


ここからだ。これはただのスタート地点に過ぎない。

ここからはどんどん人が死んでいき強い者だけが生き残る。


そう説明するルーシー。


「言ってしまえばCランクは努力すれば誰でも到達出来るがBからは違う。到達出来ない者は何をしても到達出来ない。そんな世界だ」


そう言いながら進んでいく。

サーシャとシズルが俺の服を掴んできた。


「大丈夫だよ。自分の力を出せば問題ない」


そう言ってやるとほっとする2人。

俺にこの場でかけられる言葉なんてそんなものしかない。


周囲を見ると他のパーティメンバーもそうだった。


「大丈夫だよ。僕達ならきっといける!これまで通りいけるさ!」


そんな会話が聞こえてくる。


「脱落者はなしか。いい目をしているがそれで勝てるといいがな?」


意地悪げな顔でそう口にして後は俺たちに任せると言うルーシー。


今までよりもより実戦で使える能力を測るらしく、各パーティのリーダーに探索を任せるらしい。


最初のリーダーに任せてる間にルーシーが俺の横に来た。


「Cランクテストの時の不正者。剣崎、立野の死体が出た。何か心当たりはないか?2人ともバッサリ胸を抉られて即死だった」


そう聞いてくる。

まさか疑われてるのか?俺が。


「知らないな。俺はあの後のあいつらの行動なんて知らないし。受験してた奴らだろ」


あいつらの関係を詳しくは知らないが剣崎の提案に乗って資格を剥奪された奴らだ。

それくらいしても不思議じゃない。


「いや、あの傷跡はCランク程度じゃ付けられないよ。あの中で付けられそうなのは君くらいしかいないが、他の人間だと私は見ているがな」


そう説明して俺の肩に手を置くルーシー。

どうやら表面上は疑っていないみたいだけど。


「話はそれだけだよ。クエスト前に動揺させるような事を言ったかもしれないが、頑張ってくれ」


そう言って先頭に立つリーダーの横まで歩いていくルーシー。

とりあえず今の俺に出来ることは何も無い、か。




そうして最初のリーダーの案内は続いた。


6時間後。


俺達は未だ一階層を突破出来ずにいた。

理由は道を選ぶ最初のリーダー、ヨシテルが失敗しまくっているからだ。


「ま、また行き止まりだ……」


ヨシテルが膝を着く。

それを見たタカシがヨシテルに詰め寄り、胸ぐらを掴む。


「ええ加減にせぇよお前。俺を何時間歩かせるつもりやねん」

「やめろ、タカシ」


それを止めに入るルーシー。


「テスト中だ。イライラするのも分かるが今のは減点対象だな。今は仲間だ。当たるな」

「ちっ」


舌打ちしてヨシテルを突き飛ばすと尻もちを付いた彼にタカシは唾を吐きかけた。


ベチャリ。


ヨシテルの頬に唾が付いた。


「ほんま大概にせぇよお前。何で俺がこんなトッロイだけの無能なノロマと組まなあかんねん」


それでヨシテルの心は折れたのかもしれない。


「ギルドマスター、交代して下さい。次の者に道を選ばせてください……」


尻もちを付いたまま立ち上がれないヨシテル。


「よし、じゃあ次。Bチームのミーナ。お前がやれ」

「は、はい!」


ミーナと呼ばれた少女が案内を始める。

セオリー通り風の通り方を確認したり音の反響の仕方を確認したりしながら道を選んでいくが。


4時間後。


「あ、ありましたぁ!ありましたよ!階段が!」


2階層に続く階段が目の前に現れた。


「何喜んでんねんメスブタァ!ここまで10時間やぞぉ!」


タカシの振り上げた拳を掴む。


「ひっ……」


殴られると思ったのか反射的にしゃがみ込んだミーナだが


「あ?またおめぇか、もやし」


タカシは俺を見ている。

腕を離してやる。


「減点対象。忘れてないよな?あんた今ドンケツどころか一人だけマイナスだぞ?」


俺達のポイントは基本的に加点だ。

何時間で階層を突破すれば+50点、モンスターを撃破すれば+5点というような。


現状こいつは-50点を出していた。

1人だけマイナスに踏み込んでいた。


「はぁ?知るかよ。ボスモンスター倒せば+1000くらい入るからチャラやチャラ。お前ら雑魚のゴミカスにとってはこんなチャチなポイントも惜しいかもしれんがな」


殴りたい時に好きなだけ殴ってストレス発散!

やる時にポイント稼ぐ!


それが俺の信条!

そう言ってくるタカシ。


「分かったかぁ?俺はSランク手前まで行っとんねん。そんな俺がこの中じゃいっちばんや。お前らとちゃうねん」


そう言ってミーナを蹴ろうとしたのか右足を振り上げるタカシ。


左足1本で立っているのでそれを、パンと払ってやる。

どてっと転けるタカシ。


「がっ!」


その後に俺を見てくる。


「ええでお前。俺と殺り合うつもりやねんな?怒らせたな?俺を。お前俺がどこの誰か知っとんのよな?」

「知らないよ」


そう言うと唇をぐっと噛み締めるタカシ。


「俺は暴力団【超絶怒涛ゴッドスピードタカシ組】の組長や。覚えとけやお前。略称は超ゴッタカシや」


何やねん、その略称は。


思わず心の中で突っ込んでしまった。


「ええで。お前の挑戦状受けたるで、もやし。この試験のポイントで決着でええやろ?俺に負けたら指詰めてもらうでお前。いや、命もろたるからな」


そう言ってタカシは我先にと階段を登っていった。

それを見て次にルーシーが上がり俺も上がろうとすると誰かに裾を掴まれた。


「あ、あの助けてくれてありがとうございます、凄く怖かったので嬉しかったです……でもごめんなさい私のせいで」


振り向くとミーナが顔を赤くしていた。

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