第13.5話 【閑話】迫られました
王都に帰ってきた俺たち。スミレとシズルは2人で話をするという。
そんな2人と別れて俺はサーシャを連れて宿に戻った、という振りをした。
「まだ疑ってるのですか?ミズキ様」
「人を信用しすぎないほうがいいよ」
俺は2人をつけていた。
会話しながら歩く2人。
特に怪しいところは無い。
そのまま何も無いまま2人は俺たちの宿に向かっていた。
「何も無いのかよ。疑いすぎだったか?」
「そうなのですよ。疑い過ぎなのですよミズキ様は」
そう言ってくるサーシャ。
「1番仲間を信じていないのは俺だったのかもな」
「心配なのは分かりますけど、もう少し信じてあげましょうよ」
珍しくそんなことを言うサーシャ。
確かにその通りかもしれないな。
そうして見ていると1人の男が2人に近寄っていた。
「ねぇねぇ、君たち暇なの?」
声をかける男に答えるスミレ。
「暇ではありませんわ」
「ちょっと付き合ってくれないかなー?」
手を伸ばしてスミレの手を掴む男。
「話してくださいませんか?暇ではないと言いましたわ」
「いいからこいよ」
そう言って引っ張っていこうとする男の首に手刀を入れた。
トン。
ガクッ。
気絶する男。
自然と力の抜けた手もスミレから離れた。
「か、帰ったのではなかったのですか?ミズキ様」
「嘘だよ。ずっと監視してた。本当に信用できるのかどうか」
「当然ですわよね。昨日までシズルをいじめていた私たちですもの」
まぁそれはそうだが。
今の俺の中ではとりあえずは信用するか、と言ったところに落ち着いた。
奴隷契約は命令しなければ主人を優先して守ったりはしない。
なのにこいつは動いてシズルを守った。
つまり、自分の意思で守ったということだ。
その後サーシャ達を連れて宿に先に帰す。
スミレも近くの宿に寝泊まりすることにするようだ。
俺はギルドに用事があって立ち寄ったのだが。
「D区画にいたDランク冒険者のミズキだな?」
入るなりそう声をかけてきたルーシー。
「ん?あぁ。そうだけど」
「シバ神降臨の件について少し話を聞きたくてな」
げっ。その話かよ。
なんかとんでもない話になってるのは知ってる。
ここに来る時もシバ神が降臨したらしいぜ。みたいな会話をめちゃくちゃ聞いたから。
「あの場所にいたグンダから話を聞いた。君が矢を放ったなんて妄言を言っていたんだが」
「その話信じるのか?」
「まさか」
鼻で笑うルーシー。
俺が放ったなんて言ってもやはりどうせ信じないんだろうなというのは分かる。
ルーシーは続ける。
「あの氷はファイアを当てても溶けないし溶ける様子も見えない。本物のシバ神が降臨されたかのようだった。あの女神が放った氷の矢によって出来た矢の通り道も同じようなものだったと神話にも残っている」
そんなものをDランク冒険者である俺が放てるわけが無い。ということを言ってくるルーシー。
まぁ放ったのは俺なんだけど信じないんだろうなぁこの様子だと。
「で、どうだったの?シバ神は。神話でもとても恐ろしいものだと描かれているけど」
目をキラキラさせながらそう聞いてくるルーシーにあの世での事を思い出しながら話す。
「優しいんだよな意外と。目つき悪いけど」
「顔も見たのか?!」
「後意外と人懐っこいね」
3女神の中で1番俺にベッタリだったのは意外にもシバだったし。
「人懐っこい?あの残虐と呼ばれるシバ神が?」
まさかと笑うルーシーだけど本当のことなんだよねぇ。
まぁ言っても信じないだろうし
「まぁ、何はともあれグンダには1回休養させた方が良さそうだな。シバ神が放ったなら兎も角君が放ったなんて妄言もいいところだ。3ヶ月ほど休むことを助言しておこう。疲れているらしい」
そんなに休むことになるのか、さよならグンダさん。
「調査が面倒くさいしシバ神が放ったという事にしておくよ。なんかタマタマにタマタマが重なった結果なんでしょうと報告書には書いておこう」
職務放棄宣言するルーシー。
「いいのか?そんなテキトーで」
「シバ神が降臨して放ったより現実味あるでしょ?そっちの方が」
面倒なんだよねぇ。私こう見えても忙しいしとか言って適当に報告書を書きあげるルーシー。
「この後も徹夜で仕事だよ。仕事いっぱいあるのに調査なんてやってらんない」
そう言って報告書をカウンターの奥に投げる彼女。
本当に大変そうだな。
「手伝ってくれてもいいんだよ?」
目をキラキラさせて聞いてくる。
口ではお願いしてるけど目は手伝えと言っていた。
「いやもう帰る」
「そんな薄情な!デートしてあげるから!」
「間に合ってる」
「この私がデートしてあげるって言ってるんだけど?!ギルド内男性に話しかけられた数2位の私なんだけど?!1位はアルマ」
それあんたがギルドマスターだからだろ。
てかそれで2位なのかよ。
アルマの人気があるのかこいつが人気ないのか。
そもそもどうやって集計したんだよそれ。
そんなこと思ってたら俺の手を取ってくるルーシー。
予想外過ぎて俺は後ろに倒れた。
倒れた俺に馬乗りになってきてペロリと舌で口の周りを舐めたルーシー。
俺の頬に手を当てくる。
「実はそっちもそういう気だったんだァ?私もそろそろ初めての彼氏欲しいんだよねぇ?癒してよ私の事。かわい〜♡」
その時
「まだなの?ミズキ。みんな心配してるんだけど」
ガラッと扉を開けてギルド内に入ってきたのはメイルだった。
「な、何してんの!あんたら!」
ズカズカ入ってきてルーシーを払い除けるメイル。
「ルーシー?あんたねぇ。ミズキは私と結婚してるって知ってて手を出したの?そんなの許されないんだから」
「私はただ仕事を手伝ってって迫ったんだよ。それのお返しを前払いしようとしただけ」
「早く行こミズキ。こんな尻軽女と付き合っちゃダメだよ」
そう言って俺を引っ張っていくメイル。
「わ、私は尻軽ではないぞ!ミズキだから迫ったのだ!アルマから聞いたんだミズキって男がカッコイイって」
「うるさいのよ!尻軽!ミズキ!あんなのになっちゃだめだよ!」
そう言って助けてくれるメイル。
ありがとう。もう少しで既成事実を作られていたかもしれない。
「そ、そんなぁぁぁ。私朝まで仕事しなきゃなんだけどぉぉぉぉぉ?!!!!待ってよ私のオアシスゥゥゥゥ!!!!」
可哀想だけど頑張れとしか言いようがなかった。
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