第12話 クラス召喚、そういうのもあるのか

「あら、シズルじゃない」


俺たちに近寄ってきた冒険者達。

目当てはシズルらしいけど。


「知り合いか?シズル」


聞いてみたけど下を向くだけのシズル。

その中の女冒険者が話し続ける。


「でも驚いたわよ、シズルがD区画にいるなんて。味方が相当強いのかしら?」


何も言わないシズル。

緊張してるのか?分かんないけど。


「シズルとはどういう関係?」


何も話さないシズルに変わって聞いてみる。


「私はスミレと申しますわ。シズルとはクラスメイトでしたの」


スミレと名乗った女。

どこかの令嬢だろうか?そんな雰囲気だ。


「転移前のクラスメイトって事でいいのかな」

「そうですわ。私たちはクラス転移という物でこちらの世界に来たみたいなのです」


そう説明するスミレだがシズルの顔は下を向いたままだった。

今度は俺に目を向けてきた。


「お名前を教えて貰えませんか?素敵なお方」


そうやって俺に名前を聞いてくるスミレに名乗る。


「ミズキ様、と言うのですね。良ければ私たちのパーティに来ませんか?」


そう声をかけられる。


「何で?」


俺がそう聞くと意地の悪そうな顔をする。


「シズルは根暗でしょう?ミズキ様のような方には私のような高貴な女の方が相応しいと思いまして。それにあの子私達クラスメートのパーティ全てから引き取って貰えなかった残念な子でしてよ」

「そうなんだ。まぁどうでもいいよ」


そう言ってシズルを抱き寄せる。


「み、ミズキ?」


やっと顔を上げるシズルを見てから俺は続ける。


「関係は大体分かったよ」

「ならミズキ様。私のパーティに入ってくださいよ。勿論そちらの金髪の子も歓迎ですわよ」


そう言ってサーシャに目をやるスミレだが


「お前の性格が最悪なのは分かったよ」


そう言ってやる。


「な、私が最悪……?」


絶句するスミレ。

そんな女を見て続ける。


「お前のパーティは絶対にありえないよ」


そう言って去ろうとするとワナワナと手を振るわせるスミレ。


「あなたたち!何をぼさっとしているのですか?!ミズキ様を拘束して言うことを聞かせなさい!」


スミレが取り巻きの男子に命令するが、全員素人だ。


ブン!

振り回した足による蹴りで全員すっ飛んでいく。


剣や魔法を使うまでもない。


「あ、あなたたち!何をしているのですか?!」


慌てて駆け寄ろうとするスミレの腕を掴んで口を開く。


「今後二度とシズルに近付くなよ。気分が悪い」


そう言ってやってからシズルを連れて王都に戻ることにしたのだが後ろでは「お、お待ちになってください!」と声が聞こえてからドタッと転倒する音も聞こえた。




その夜


酒場の隅で食事をしていた時の事だった。


「おい、どうしてくれんだよスミレ」

「ほんとだぜ。お前が行けって言うから言ったのに、この有様だぜ?」


そう言って俺が蹴り飛ばした男2人がスミレに詰寄る。

顔には怪我をしていた。


「あなた達は私の家の剣の剣崎と盾の立野でしょう?」


シズルから聞いている、スミレの家は相当な金持ちなこと。

それからその令嬢という立場もあって学校では女王のように振舞っていたこと。


更には家族ぐるみの付き合いで、スミレの家の盾と剣と呼ばれる家系が存在していたこと。そいつらがあの剣崎と立野と呼ばれたヤツらか。


しかし


「それこの世界に来ても関係あんのか?」

「今までなんとなくで流してたけどお前に反抗しても誰も文句言わねぇからな」


その2人にすら見放されていたスミレ。


「なっ!か、帰ったら言いつけますわよ?!」

「なぁ、俺らここに来て1ヶ月。何の未来も見えないんだぜ?本当に帰れると思ってんのか?」


男にそう言われて尻もちを着くスミレ。

そんなスミレに剣崎は手に持っていた飲み物をかける。


「な、何をしますの?!」

「いつまで女王気取りだよブスが。名前も西部さいぶ すみれだもんな?裏じゃ最もブサイクな最ブスって呼ばれてんの知らねぇのかよ」


笑いながら男たちは出ていく。

皆面倒事に巻き込まれたくないから誰もスミレに声をかけない中


「こ、この私が……」


そう呟いていた。






翌日。

第二波が来たらしくまた緊急クエストが発令されていた。


配置は昨日と同じだし作戦内容も昨日と同じだ。


昨日と違うことがあるとすれば近くにスミレがいたことだ。

昨日シズルが話してくれた。スミレにいじめられてたってこと。


「ご、ごめんなさい。シズル」


作戦の途中でスミレが謝りに来た。


「え?」


シズルが呆気に取られたような顔をする。


「私が間違っていましたわ。本当にごめんなさい。心を入れ替えますわ」


そう謝る彼女。


二度と近付くなよ、という言いつけを破ってまで謝りに来た訳だが。

要観察かな?と思いながらスミレの行動を観察する。


「そ、そうなんだ」


ほっとするようなシズルに教えてやる。


「なぁ、シズル。人間ってそう簡単に変わらないんだよ。残念ながら、ね」


俺はその辺にあった腐った水が溜まった水がめの位置をシズルに教える。


「受けてきたことを返してみなよ。我慢できるんなら反省してると本当に思っていいんじゃないかな」


俺は人間がそんなに簡単に変わるわけないと思ってるけど。

それとシズルがこんなこと出来るなんて思ってない。


「いや、いいよ」


ほらね。

シズルはこういう奴だから好き放題やられる。


そう思っていたらスミレは水がめに走っていき、両手で持つと、ザバァっと頭上から被る。


「これで対等なんて言うつもりは無いですわシズル」


自ら被ってそう口にするスミレ。

自分から被るとは思っていなかったな。

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