第6話 とりあえずギルドで
俺達は王都まで入ってきた。
だが幾分勝手がよく分からないな。
ずっと屋敷とあの世で生活してたからこの世界のことがよく分からない。
後あるのは前世の記憶だが
それを参考にするなら
「とりあえず、ギルドか」
冒険者生活を楽しもうというのは幼い頃からずっと考えてた事だ。
とりあえずこれでいいだろう。
サーシャが口を開いた。
「とりあえずギルドなんですね。何がとりあえずかは分かりませんけど」
「そうなんだよ。とりあえずギルドだよ」
サーシャの手を引いてギルドに付いた俺はカウンターに向かい受付嬢に話しかけた。
「冒険者登録をしたいんだけど」
「こちらは初めての利用ですか?」
頷くと書類を渡してくる。
適当に穴を埋めて申請する。
サーシャも同じく埋める。
「こちら、ギルドカードになります」
そう言って渡して説明してくる。
初めはEランクスタートだが冒険者ポイントを溜めれば一定数貯める度に昇格試験を受けられるということ。
昇格出来ればより上位の依頼を受けられるようになるらしい。
そして最上位ランクまで辿り着くと不定期に開催される完全任意の試験を受けられるらしい。
それは
「勇者パーティを選ぶ試験ですね」
そう説明してくる彼女。
へー。なるほどね。
頷いて話半分に聞いておく。
別にそれは興味無いから。
俺が興味あるのはやっぱりハーレム生活じゃない?
金さえあれば奴隷を買って俺みたいなのでもハーレム出来るもんな。
奴隷制度サイコー。奴隷には悪いけどさ。控えめに言って最高だよ。
「おいおい、新人いつまで喋ってんだよ」
その時ドンと俺を突き飛ばす巨漢の冒険者。
「後つっかえてんだよ。用事終わったらさっさと失せな雑魚」
そう言って冒険者は俺が先程まで会話していた受付嬢に話しかける。
「ねぇ、アルマちゃんこの後空いてる?」
「い、いえ、空いてませんけど」
「じゃ、空いてる日教えてよ。俺アルマちゃんとデートしたいんだよねー」
下らない話を始める男。
それを
「ちょ、ちょっと!そんな話するためにミズキ様を突き飛ばしたんですか?!」
サーシャが文句を言う。
「あ?誰に話しかけてんの?お前」
「あなたですよ。謝ってくださいミズキ様に」
「謝れ、だぁ?ぶひゃはははは。面白いこと言うな嬢ちゃん。強気な女も好きだぜ俺は」
そう言って手を伸ばそうとする男の手を掴む。
「あ?離せよてめぇ」
「その子は俺のだよ。勝手に触れるなよ汚いんだよ」
ミズキ様♡と俺の後ろに来るサーシャ。
「死にてぇようだなぁ!てめぇ!」
体を捩って俺の方を向こうとする男だが
「び、びくともしねぇ!どうなってんだ!これ」
「さっさと出ていくと言えば離す。じゃなきゃこの豚みたいな腕、折っちまうよ?」
ダラダラと汗を流し始める男。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!!!!すいませんでしたぁぁぁぁ!!!!!」
俺は謝罪の言葉を聞けたから手を離した。
瞬間、ぴゅーんと逃げていく男。
逃げ足だけは早いようだ。
「あ、あのありがとうございました」
俺に礼を言ってくるアルマと呼ばれた受付嬢。
「いや、気にしないでいいよ」
そう言って去ろうとしたけどアルマがまた声をかけてくる。
「あ、あのもう少ししたら私は上がりなのですけど、少しお時間いただけませんか?」
と言われ、考える。
正直この世界のことも街のことも全然知らないし教えて貰ってもいいかもな。
「俺、この街初めてなんだよね。少し案内してくれないかな?」
ギルドで少し待っていると
「お、お待たせしました。行きましょうか」
アルマのその言葉に頷いて俺達は外に出ることにする。
「先程の身のこなしやはり名のある冒険者のご子息だったりするのでしょうか?」
そう聞いてくるアルマに首を横に振る。
親父は剣聖だったが変に話すのはやめとこうか。
そんなことを思いながら歩いていたらラッパの音が聞こえた。
大通りの方だった。
「何かあるのか?俺はこの街に詳しくないから分からないんだけど」
「勇者パーティが遠征から帰ってきたのではないでしょうか?興味あるなら見に行ってみますか?」
「そうだな。確かに勇者とか言われてる連中の顔くらい見てみたいな」
そう口にして俺はアルマの案内で大通りに向かった。
大通りは沢山の人で溢れていた。
その真ん中を堂々と歩いていく勇者パーティの面々。
「あれが勇者パーティですよ」
と説明してくれるアルマ。
「勇者の名前はアシュレイと言います。とても人気のある方なんですよ」
そう言われて歩いている勇者に目をやる。
確かに金髪でイケメンだ。
所謂王子様に近い風貌をしていた。
その時勇者パーティを挟んで向こう側に立っていた1人の男の子が手に持っていたボールを落としてしまっていた。
そのボールは勇者の前に転がっていき、勇者は黙って拾い上げた。
「ご、ごめんなさい!僕のボールです!」
「あはは。謝らなくたっていいさ。君は何も悪くない」
爽やかに笑う勇者。すごい人が良さそうだ。
そんな勇者の対応に沸き立つ観客たち。
「流石アシュレイ様よね!大切な凱旋だと言うのに邪魔されても爽やかに許すなんて!」
「素敵ー!!!アシュレイ様ーーー!!!」
そんな黄色い歓声が上がる中アシュレイは、しゃがんで男の子に視線を合わせて口を開いた。
「悪いのはこのボールだよ。このボールは【ポンコツくん】だからね。手から滑っちゃだめって、ちゃんと言い聞かせてあげなよ。あ、軽いジョークだからねこれ。ホントに言わないでね」
「うん!」
男の子は笑顔で返事をしていたが、俺の目は凍る。
とある言葉を聞いて嫌な記憶が蘇る。
それは思い出したくなくて蓋をしていた記憶だった。
前世の俺が少し席を外してる間に、実の兄に幼馴染の恋人をヤク漬けにされて目の前で純潔を汚された挙句、致死量を超える薬の投与で殺された。
ブチ切れた俺は兄とその後殺し合いになって死んだ。
それが俺の前世。
そんな兄でも外面だけは最高だった。
奴はスポーツも万能だったし頭も良かった。
俺が相打ちまで持ち込めたのは俺が武器を持っていたからに他ならない。
そんな兄が前世で俺の事をどう呼んでたか、それは
【ポンコツくん】だった。
今この勇者から聞こえたものと同じもの。
勇者を見つめる俺の目はただただ氷のように冷めていった。
もしこの勇者があの兄の転生体ならば生かしておけない。
確信をもてたら、俺が責任をもって何度でも殺す。
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