第4話 五年経過、とりあえず殺りますか

そして5年後。


俺は現実世界に帰ってきた。


『行かないでくださいっすー私の雑用係続けてくださいよー』


と、泣きながら頼んできたハーデスを押しのけて帰ってきた。

ただし条件付きだった。


『これ、どこでもハーデスちゃんです。あげますからたまには帰ってきてくださいね。後服もあげます頑張って作ったんですよ。ぐすっ』


と謎のハーデス人形とよく分からない服を押し付けられた。服の方は既に着ている。


人形の方は使うとあの城に行けるらしい。


使うことは無いと思うけど。


ちなみに1番泣いていたのはシバだった。

行かないでーと泣いていたが帰ってきた。


最後に登ってきた大穴と傾斜を見る。

ハーデスが自分からは帰してくれなかったからあの大穴を自力で登ってきた。


5年間鍛えた俺の前じゃあってないような障害だ。


「さて、とりあえず殺しに行くか。あの男は目障りだ」


ハーデス人形を懐に大事にしまって目指すはただ1つ。

親父。ステファニーの殺害だ。


森を抜けて見覚えのある家が目に入った。

門の方に歩み寄ると警備をしていた兵士2人が俺に気付く。


「何者だ。立ち去りなさい。ここは剣聖ステファニー様の自宅だ。それからそのマフラーを取りなさい。顔を見せろ」

「止まれ。怪しい者。そうだ、そこの黒髪ロングの女のお前だ」


それぞれの言葉で俺を止めようとしてくるが俺は止まらない。

周囲に他のやつはいない。俺を女だと勘違いしているようだ。


「俺は男だぞ?」


そう返してステータスを表示してやる。

最低限でいいだろう。


レベル:234


「れ、レベル234だと?!何者だ!貴様!」


色々と言ってくる兵士達。

その兵士達の前、当たらない距離で剣を横に振った。


ドンドンドンドンドン!!!!!!

俺の右側にあった森林の木が何十本も倒れた。


到底当たる距離では無かったのに、だ。

剣を振った時の衝撃で倒れたのだあれらは。


「俺はステファニーに用があるだけだ。見逃すのなら殺しはしない」


俺の斬撃で消し飛んだ木々を見つめる2人の兵士。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「ば、化け物だぁぁぁぁ!!!!!」


一目散に逃げ出した。


「それでいいんだよ」


門に近付くと足で蹴破って敷地に入っていく。

顔なんてマフラーで半分隠れてるし髪も女のように長い。


後で髪は切る予定だし顔を見られたところで問題は無い。

短くすれば雰囲気は変わるし絶対にバレない。


そのまま進んでいくと先程の木を倒れた音が聞こえたのか屋敷からステファニーが出てきた。


「誰だ?お前は」


相変わらず背も高くガタイもいい。

5年経ったとは言え俺との身長差は圧巻の一言に尽きる。


だってこいつ2メートルくらいあるんだもんな。横幅もでかいし。


「俺の顔も思い出せないのかあんたは」

「はぁ?」


顔を顰めるステファニー。


「知らぬぞ。貴様のような腑抜けた軟弱な男。似た男は知ってるがな。出来損ないのメイドとの間にできた子だ。母親に似て出来損ないだったがな。ふはははは」


急にステファニーが右手で握った剣を俺に向かって振ってくる。


ザン!!!!!!

ステファニーの右腕を剣ごと切り飛ばす。


「はえ?」


何が起きたのか分からないのかステファニーは遅れて右腕を見た。


「い、いてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


その場にしゃがみこんで傷口を抑えるステファニー。

更に剣を向ける。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!!!」


残った足と腕で懸命に後ろに下がっていく。


「や、やめてくれぇ!!何が目的だ!金か名声か?!いくらでも払う!なんでも渡す!やめてくれ!」

「俺がそんなもの欲していると思うのか?」


左手でマフラーをズラしてそのまま前髪を上げて顔を見せてやる。


「お、お前……み、ミズキか」


気付いたようだし顔をまた念の為隠す。


「ふ、復讐に来たのか?」

「復讐?初めはそう思ってたよ」


俺はこいつに母さんを殺された。

それを理解して日に日に憎悪に支配されていった。


力、ただ力を求めてハーデスの元で必死に修行した。

今のレベル200代なんてものはその成果だ。


そんな生活を送っていたが、ハーデス達は俺の中から憎しみなんていうものを取り去ってくれるくらいに俺に優しく接しくれた。


甘やかしてたとも言えるけどそんな生活。


最後ここに来る前に残ってたのは感謝の気持ち。


だから、今の俺は復讐なんて大層なもののためにこんなところに来たわけじゃない。


「世話になった人にさ出来れば1人殺してきてくれない?って言われてさ。真っ先に思い浮かんだのがお前だっただけさ」


ハーデスは言っていた。

奴隷のように扱える奴が欲しいから丁度いいのがいたら殺して送って、と。


「剣聖と呼ばれたあんたなら不足ないかなって思ってさ」

「た、頼む。やめてくれミズキ」

「何で?」

「復讐じゃないならいいじゃないか!別に!他のやつにしろ!」


そう言われてもなぁ。

送るのに殺さなきゃ行けないし。


あーもうめんどくさい。

とりあえず残ったもう一本の腕も斬り飛ばす。


「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「動くなよ」


蹴り倒して胸に足を置くと動けないようにしてからペンを取り出す。

ステファニーの額に出来損ないと書く。


「な、何を書いた?」

「こいつだよっていうサインさ。これであいつも俺が送ったものだって分かるはずだから」


そう言うと俺は剣を握り胸に突き立てた。


「そ、そんな……ミズキ……」


最後に俺の名を呼んで力尽きるステファニー。


ところで、


どうやって送るんだろう?って思っていたら突如ハーデスがよく出していた黒いモヤモヤがステファニーの下から出てきた。


それがステファニーを連れていく。


どっかで俺の事監視でもしてんのかな?とか思う。

さて、それじゃあ。


「じゃあ、念願の冒険者生活とやらでもやってみますか」





sideハーデス


一方その頃城では。

何処でもハーデスちゃんを通して送られてくるミズキの姿を3人が見ていた。


「こんなにご立派になられてミズキ。このヘルヘイム感動していますよ」

「うぅ……うわぁぁぁんミズキ帰ってきてよーー」


ミズキの行動を見ていたヘルとガチ泣きしているシバのことを見ていたハーデスだった。


それからドサッと落ちてきたステファニー。


「どこだよここ」

「ようこそあの世へ。えぇ、貴方に仕事を与えるっす。ケルベロスの餌になる仕事っす。光栄な仕事っすよ」


パチパチパチと拍手してからステファニーの髪を掴んでズルズルと引きずり窓をガラッと開けるハーデス。


「お、お前何なんだ!この高さから落とすのか?!殺す気かよ?!」

「大丈夫っす。ここじゃ死んでも蘇るんで、だからケルベロスの餌になるのも未来永劫繰り返せるんすよ。果てしなく、終わらない苦痛の旅をプレゼントっす。それにもう死んでるじゃないっすか」


そう答えたハーデスは悪魔のような笑顔をしていた。

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