第1話 かあさんがころされた。ぼくもころされる

「ミズキ俺を失望させるなよ」


俺の名前はミズキ。


異世界転生者だ。


前世の名前は霧島きりしま 水城みずき

死亡した理由は思い出せないけど、転生者であることは分かる。


神様なんていなかったよ。

気付いたら完全では無い前世の記憶を持って見知らぬ場所に生まれていた。


チートは貰えなかった。

生まれてずっと魔法や剣の練習をしてきたけど俺は上手くならなかった。


そして迎えた12歳の誕生日。

この日は神託の儀式が行われた。


所謂自分の得手不得手が分かる儀式だった。


しかし俺に下された答えは


【ものまね士】


だった。


「ものまね士、間違いないな?ミズキ。ステータスオープンしてみろ」


父親のステファニーに確認された俺は


「す、ステータスオープン……」


力なく呟いた。

見られたくなかった。こんなステータス。


名前:ミズキ

レベル:5

ジョブ:ものまね士


体力:5

魔力:5


攻撃:5

防御:5



ワナワナと震え始めるステファニー。


「どういうことだ?この俺の息子が能無しだと?!剣聖の俺の息子がものまね士など有り得てはならない!!!!なんだ?その軟弱なジョブは」


ステファニー・ブラウン。今は引退しているが剣聖として崇められていた男。


「何かの間違いだろう?!」


俺に怒るのを辞めて母さんを殴りつける。

母さんがどたっと床に倒れた。


「貴様!これは俺の息子ではないな?!くそ!メイドになんて手を出すんじゃなかった!どこの間男の子だ!言ってみろ!」


椅子を蹴り飛ばすステファニー。

そう。俺はこの父親と妻でもないメイドとの間に生まれた子供だった。


「いいえ、ご主人様。誓います。この子は私とあなたの子……。私はずっとこの屋敷で生活していたでは無いですか……」

「ええい!黙れぇ!!このクズが!」


聞く耳を持たないステファニーは母さんを椅子で殴る。

次第にドロっとした血が頭から流れ出てきた……。


母さんは抵抗もしなくなった。動かなくなった。


幼い俺でも直ぐに死んだんだと思えるような、そんな状態。


「か、母さん……」


絞り出すようにした出た声はそれだけだった。


「ミズキ、貴様は今夜始末する。剣士ではない息子など俺には不要だ。出来損ないのメイドから生まれるのはやはり出来損ないだったか」


そう呟いて俺を部屋から突き出すステファニー。

父親の後ろの窓では雨と雷が激しく降り注いでいた。


ビカッと雷が落ちてステファニーの顔が鬼のように見えた。


「震えて眠れよミズキ。今夜が開けることはもうない。最後の夜だ」


バタン。

閉まるドア。


俺は走った。

こんな家に1秒でもいたくなかったから走った。


「はぁ……はぁ……」


家を出て門を乗り越えて、俺は走った。

森の中を闇雲に走る。


とにかく、あんな家から距離を取りたかった。

その時


「あぐっ!」


ズルッと足を滑らせてしまった。

そうだ。今日はこの大雨。


地面がぬかるんでいて足を取られやすいんだ。


滑っていく俺の体。

待てよこの傾斜。


落ち着いて目を凝らして下を見ると


「地獄穴だ……まずい……」


この近くには永遠に続くと言われている深い、深い、穴がある。


それが地獄穴。


俺が今滑り落ちてる斜面はその地獄穴に続いていた。


小さな頃からこの辺りには近付いちゃダメと言われてから見間違えるわけもない。


誰に言われたっけ。


「母さん」


思い出して爪を立てて斜面にしがみつく。

爪に指に痛みを感じる。


「何、逃げてんだよ。俺は、相手が元剣聖だからって何だよ、ぶっ殺してやるくらい言ったらどうなんだよ」


段々と爪が剥がれていくのを感じる。

それでも斜面にしがみついてよじ登ろうとしたけど、ボコッと土が剥がれた。


「この大雨のせいか」


俺はそのまま態勢を崩して大穴に落下していく。


「もういいか」


どうしようもない。

元々斜面を一定以上滑り落ちたら、生きては戻って来れないと言われてるし。


俺はそのまま無限に続くかのように思える闇の中に飲まれた。


そんな中考えていた。


転生者のジョブやスキルは転生前の人生の影響を大きく受けるって聞いたことがある。


俺の転生前ってどんな人生なんだっけ?

思い出せないや。


それにしてもその結果がモノマネか。

他人の真似しか出来ない奴だったのかなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る