異世界転生したら親に無能と追放されましたが神々に溺愛されて育ったので異世界生活を楽しもうと思います。そのスキル、俺ならこう使うかな

にこん

第0話 あいつが全て壊した


兄貴は俺の自慢の兄だった。


スポーツも出来て勉強も出来て、誰にでも優しくて、何でもできるヒーローみたいな存在だった。


俺はそんな兄貴を目指して1歩1歩前に進んだ。

努力した。


兄貴のやっていることを何だって真似した。

俺にはそれ以外の才能なんてなかったから。


尊敬してたんだずっと兄貴のこと。


なのに


それが起きたのは俺がコンビニに行って帰ってくるまでの僅か数十分の間だった。


「おかえり、やっちまったよ。間違えて全部投与しちまった」


手に持っていたコンビニの袋を落としてしまった。

これは現実なのか?


目の前の現実を受け入れられなかった。


「悪ぃ、お前の彼女死んじまったかもな。まぁいっか。どうでもいいよな」


ちょっと行ってくるよ、とコンビニに行って帰ってきた俺の目に入ったのは衣服の乱れた幼馴染の恋人と下着だけの兄の姿だった。


「ちょっと打ちすぎちまったかもしんねぇわ」


兄はヘラヘラ笑って持っていた注射器をその辺に投げ捨てる。


「なぁ、何でこんな女の子が好きになったんだろうな?俺の方がいいじゃん?」


悪魔のような顔をする兄。

俺はその場に崩れ落ちてしまった。


そんな俺に近付いてくる兄。

自分の服を踏んでいることに気付いていない。


「……す」

「あ?」


踏んでいた服を思いっきり引っ張って兄を転す。


「がっ!」


背中を思い切り強打する兄。

そいつに馬乗りになって1発顔面を殴る。


「がぁぁぁぁ!!!!」

「殺す、殺す殺してやる」


それから、近くに落ちていたダンベルを使って顔面を叩く。


「がはぁっ!」


血をぶちまける兄貴。


「殺すって言ってんだよ何生きてんだよゴミクズ野郎が」


何度も何度もダンベルで頭を殴る。

追撃の手など1度も1瞬も緩めない。


この先のことも考えない。

殺したいから殺す。


「げほっ……てめぇ……普通殺そうとするかよぉ?」


その時チクリと感じた。

俺の脇腹に何か刺さっていた。


注射器だった。

中身は空だ。


「おめぇも道連れだよばーか……致死量の2倍だ。確実に死ぬぜお前……バイバイ【ポンコツくん】」


こいつはバカにしている相手を裏ではポンコツくんと呼ぶ。

最後まで俺をバカにしていたらしい。


兄の腕がだらりと垂れ下がる。

それでもダンベルで殴り続ける。


誰か分からなくなるまで何度も何度も叩きつけた。


「地獄に落ちろ。地獄でもてめぇのこと追いかけ回して何度だって何度だって殺してやるよ……死体になっても殴ってやるよ。原型が無くなるまですり潰してやるよクソ野郎」


視界が揺れる。

言葉の途中で俺も倒れ込んでしまった。


薄れゆく視界の中最後に見えたのは俺と兄の下に現れた光の紋章だった。


地獄行きのマーキングか何かかな?

その時はそんなふうに思っていた。



それにしても俺は兄貴のことこれでも尊敬してたんだけどな。

なんでも出来てヒーローの兄貴。


だから俺はそんな兄貴の背中を追いかけて兄の【ものまね】をするくらいに憧れてたのにな。


結果この人生で上手くなったのは誰かの真似をすることだけだった。

オリジナリティなんてないんだ俺には。


そこで俺は何も考えられなくなった。

きっと死ぬんだろうなぁってそう思う。

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