5-1
真琴がトルマリンの扉を開けたのは、大阪に帰ったその当日だった。
荷物を置きに家に帰ってから、お土産の紙袋を両手に提げて店に出向く。
聖子ママが開店準備を始める十八時半、真琴はいつもより軽々と扉を開ける。
「おはようございまーす。聖子ママ、長らくお休みいただきましてありがとうございました」
「まこちゃん!お休みはもういいの?もう帰ってきてくれるの?!」
聖子ママはカウンター後ろに並べてあるボトルにはたきをかけていたのを止めて、文字通り手放しで喜んだ。カウンターからパタパタと足音を立てながらかけより、真琴をまじまじと見つめる。
「あら?なんだか……一段と綺麗になったんじゃない?」
聖子ママの言葉に、真琴は髪を耳にかける素振りをしながらしなをつくり「まあ、色々と」と答えた。
その日来店がわかっている客のボトルを用意したり、氷を割ったりと開店準備を手伝う真琴に、聖子ママは切り出した。
「あのね、まこちゃん。永瀬さんのことだけど」
眉根を寄せ、顎を引き、先ほどとはうってかわって落ち着いた声色に、真琴はグラスを拭く手を止めて聖子ママの目をまっすぐ見返した。
「ひとまず、待ち伏せというか、出待ちというか、ストーカー、みたいなの……については、私から釘を差しておいたから」
聖子ママの形の良い口は横に引き結ばれているが、目元はいつもと変わらず柔和で穏やかだった。
「まこちゃんがお休みに入った初日、またお店の前にいらっしゃってね。『女の子が怖がるから出待ちのようなことはやめてほしいです』って、まこちゃんの名前は出さずに言ったの。そしたら永瀬さん、次の日お店に来てくれて。いつものお土産より豪華な菓子折り持ってきてくれてね。永瀬さんも、悪い人じゃないのよね……」
「律儀な良い人ですね」
しかし聖子ママは少し目線を落として、でも、と付け加えた。
「だからちょっと、厄介というか。ねえ」
真琴にはあまりピンとこなかったが、聖子ママは目線を落としたまま口をへの字にしていた。
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