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 東京から持ってきたまま手を付けていなかったダンボールのガムテープをべりべり剥がす。お目当ては、キャバクラで働いていたときに購入し、一度試着して以来二度と着ることはないと思っていた、コバルトブルーのタイトドレス。

 トルマリンで働くときは大体、大学を卒業したときのゼミの謝恩会用に買った、紺色のワンピースを着ていた。

 しかし昨日、そのワンピースの背中のチャックが壊れて上がらなくなってしまったのだ。

 出勤時に着ていたTシャツにホットパンツの姿でフロアに出ようとしたが正誤まママに全力で阻止された。替わりに、山のような肩パッドを装備したショッキングピンクのツーピースを貸すから着なさいと言われれて、今度は私が卒倒しそうになった。

 リュックに例のドレスとハイヒールを詰める。

 着るのは若干抵抗はあるものの、使い道があって良かったと思う。


 今日は小林さんと商店街のお蕎麦屋さんでご飯を食べてから同伴で出勤することになっている。

 店ではタイトドレスを着るのだし、ギリギリまで楽な服を着ていたかったので、サテン生地でウエストゴムのプリーツパンツに、ロング丈のシャツワンピースを選んだ。

 露出の一切ない格好に小林さんは残念がるかと思いきや、「そのズボン、キラキラの生地で可愛いなあ」と言ってきた。オッサンの感覚ってよくわからない。

 よくわからないけど、店についてから裏でタイトドレスに着替えて小林さんの隣に座った瞬間、わかりやすく鼻を伸ばして、私の脚に手を伸ばしてきた。私はすかさずその手を引っ叩いたが、小林さんは悪びれもせず「触りたくなる脚だから」とヘラヘラと笑う。

 やられたらやりかえす。ということで私は、カウンター裏に置いてある名前ペンを取りに行き、再び小林さんのいるボックス席に戻る。名前ペンのキャップを外し、生え際が後退して広くなった額にペン先をあてがう。肉、と書いてやる。

「お? まこちゃん、何してんの?」

「書きたくなるおでこだからさー」

 額に肉と書かれた間抜けな男性は「そっか」と言ってそれ以上何も言わずにニコニコしている。

 小林さんは悪い人じゃない、むしろ良い人だと思う。でも、度々脚や胸を触ろうとしてくるし、指摘しても次来店したときには忘れてしまうのか、同じことを繰り返す。だから毎回こうしてやり返す。

 聖子ママにクレンジングオイルを借りて、綺麗に落として帰るまでの一連の流れを、毎回楽しんでやっているのだろう。どうしようもない。

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