オッドアイの行方4

 スマホの画面に表示された時計を確認して、すぐにスリープした。これで3回目だ。


 登校前のしばしの安息の時間のはずが……


「はーい、シロリーン。かわいいねえ。うんうん」


 制服に見を包んだ深澤が、制服に毛がついてしまうことを全く気にする素振りもみせず、白いモフモフを全力で撫でている。


 猫の目線に合わせるためか、四つん這いでお尻をこちらに向け、際どいポーズをしているもなだから目のやり場に困る。見るつもりはないのに、油断すると勝手にそっちを見てしまう。

 なんなんだろうね。この現象?


 2日前から同居することになった白猫もまんざらでもない様子で、ゴロゴロと喉を鳴らし、腹を見せ完全に心を許しているようである。


 にしても深澤さん、キャラ崩壊しすぎじゃない?自室ではモフモフとした、可愛らしい部屋着を着ている事を俺は知っている。だが、それにしても普段とのキャラとの乖離がとても大きいものに感じる。



 俺の考えている事が深澤に伝わってしまったのかは分からないが、一瞬だけこちらを見て睨んでいるような気がした。

 気のせいですよね……?


「山辺君」


「ん、み、見てないよ?」


 どちらにせよ深澤に咎められてもしかたない事を考えていたせいか、条件反射にそんな言葉が飛び出していた。


「見てない?何を……あっ」


 深澤は自身の姿勢に気がついたようで、恥ずかしそうにスカートの裾を地面につけ。ペタンと座った。

 照れ隠しの恨めしい視線が俺に向く。鋭い視線だ。



 どうやらさっき目があった時は睨んでいたわけではなく、ただこちらを見ていただけらしい。

 普段から目つき悪いからね。勘違いされても仕方ないね。


「……今は何時かしら?」

 


 先程確認したばかりの時間を告げる。


「8時かな」



「そう。……今何か余計なことを考えていなかった?」


「……いえ、なにも」


 思わず敬語になってしまったが、この子、まさか心を読める!?


「それならいい」



「シロリン。私と山辺君は学校に行ってくるわ。いい子にしているのよ」


 白猫は深澤の言葉を理解しているのか、理解していないのか、ゆっくりと伸びをしながら立ち上がると、深澤を見上げうにゃっと鳴いた。


「もう行くのか?」


「シロリンの様子を真中さんと妻鳥めんどりさんに報告することになっているから」


「別に放課後とかでもいいんじゃないの?」


「山辺君は夏休みの宿題をギリギリまでなかなかやらなくて、新学期初日に忘れてきましたって言い訳するタイプかもそれないけど、私は初日に終わらせてしまうタイプなのよ」


「はあ」


 なんかナチュラルにディスられた気がする。さすがの俺だって嘘はつかないよ。素直に居残りして終わらせるわ。


「ここで無駄な話をしていると登校する時間が遅くなってしまうわ、行きましょう。山辺君」


「おう」



 少し引っかかる所はあるが、飲み込んでカバンに手を伸ばす。言い争っててもしょうがないしな。決して口じゃ勝てないから、とかそういうことじゃないよ。うん。



 2人して廊下に出てから扉を閉める寸前まで、白猫は俺達を見送るように扉の前に座っていた。


「本当に可愛い子ね。このままここで飼っても……」


「これ以上無茶言うなよ。今だって無理してるんだから。お前の部屋で飼うってんなら止めはしないけどな」


 言いながら部屋の鍵をしっかり締めてから振り返ると、考え込むように顎に手を置く深澤の姿があった。


「検討する価値はあるわね」


「あの子の幸せを考えるなら、最後まで面倒見れる人に飼ってもらうのが一番だろ」


「……そんなこと、山辺君に言われなくてもわかっているわ」


「どうだかな」


 深澤と連れ立って階段を降りていくと、普段の朝とは違う昇降口の姿があった。


「なんか今日静かじゃね?」


 静かと言うか、人の気配を感じない。と言うか俺達以外誰もいない。


「……」

 

 深澤は考えるように周囲を見回してから、何かを思い出したのか、あっと言う言葉が漏れる。


「どうした?」


「月曜日は、全校朝礼だから、登校時間8時15分だわ」


「マジ?」


 深澤は声は出さず、大きく一つ頷いて見せた。


 昇降口に設置されているアナログ時計は8時5分を示している。

 ここから学校までは歩いたら10分はかかる。


「ヤバい。走るぞ!」


 学校指定のローファーを靴箱から取り出し、すぐに履き替えると俺と深澤は走る体制に入る。


「あっ、太陽!ちょっと待ってー!さっき言いそびれてたんだけどねー」


 時間の無いときほど誰かに呼び止められる物だ。

 声のした方に振り向いて見れば、このゆうゆう寮の名物寮監、奥野真由美の姿があった。


 寮監が俺に話しかけてくる時はたいてい俺にとってろくな話ではない。


「寮監。悪いんですけど、お使いなら後にしてもらえますか。急いでるんで」


 深澤は俺の事を待つつもりはないようで、玄関を飛び出して行った。


 俺もモタモタしているわけには行かない。


 深澤の背中を追いかけて走り出した。



 寮監は背後から何か言っているが、独特なしゃがれ声なせいで、何を言っているのかは聞き取る事はできなかった。

 まあ、後で謝ればいいでしょ。

 入学式初日に遅刻してるから、こっちも余裕ないのよ。


 結局の所、必死に走ったおかげで深澤も俺も、遅刻はギリギリ免れる事ができた。


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こんなのがラブコメだなんて、俺は絶対に認めない。(仮) さいだー @tomoya1987

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