オッドアイの行方

「じゃあ、私はここで」


「ああ。またな」


 少し騒がしくも感じる昼下りの寮の入り口で俺と深澤は別れる。

 深澤は靴箱に靴をしまうと、こちらを振り返る事もなく、廊下の奥へ消えていった。

 そんな深澤の姿を見送ったあと、俺も靴箱に手を伸ばし靴をしまおうとしていたところ、背後からおなじみハスキーボイスに声をかけられた。


「おかえりー。真中さん元気そうにしてたー?」


 俺は振り返る事もなく答える。


「元気は元気なんじゃないですか?説教してたし」


「説教ー?なんのことー?」


 それはこっちの事だと適当に誤魔化して廊下に踏み出す。話が長引いてもめんどくさいだけだ。さらにお使いを頼まれる可能性すらある。


「あっ、太陽。ちょっと待ちなさい」


 そんな俺の考えを知ってか知らずか寮監は俺を引き止めた。

 はあ……今度は何を言いつけられるんだろうか。


「そんな嫌そうな顔しないのー」


「そ、そんな顔してないですよ」


 図星だが今後のためにも否定はしておいた方が良いだろう。


「本当ー?……それならいいんだけど」


 寮監の疑わしい眼差しが俺に降り注ぐが、適当に笑って誤魔化した。


「で、要件はなんですか」


 面倒事を頼まれるにしても、寮監には借りがある。無下に断る事はできないのだ。

 本来、借りを返さなければならないのは、柵を破壊した張本人である坂井であるはずなのだが、部活を言い訳に手伝いをすることはほぼない。

 いつかあいつにはデカい借りを返して貰う。……関わるのが面倒くさいからやっぱりやめとこう。


「ほら、これ」


 寮監がそう言いながら指差す先には茶色い紙で包まれたデカい荷物が置かれていた。

 これを何処かに持っていけと言われるのだろうか?

 帰ってきたばかりだから少し休憩した後にして頂きたいが……


「なによーこのこー。ぶつぶつ言っちゃって。太陽への荷物ー。太陽が留守にしてる間に届いたのー」


 どうやら考えが口から漏れてしまったいたらしい。

 今後は気をつけていかねばな。


「俺に荷物?」


 近づいて確認してみると、荷物には配達伝票が貼ってある。送り主の欄に見覚えのある名前。山辺桜……


「母さんから?なんだ」


「とりあえずー、ここに置いてあると邪魔だからー部屋にもっていってー」


「はい。わかりました」


 持ち上げて見ると見た目の割にそこまでは重くない。触った感触は柔らかい。なんだろう?


「じゃあ、私は夕食の仕込みがあるからー」


「はい。美味しいご飯をお願いします」


「オッケー」


 両手でダブルオッケーポーズを浮かべ寮監は微笑んだ。

『国によっちゃ侮辱のポーズになるらしいから気をつけて下さいね』と忠告をすることはせずに俺は階段を昇った。


 _______________________


 自室に戻り、荷物を縛っている紐を解くと、中から出てきたのは見慣れた布団だった。


 実家に置いてきた、寝慣れたマイ布団。

 久々に枕に頭を乗せてみると、あまりのフィット感に泣きそうになった。

 今まで感じた事無かったけど、枕変わると寝れない人の気持ちが少しわかった気がした。


「そうなるとだ……」


 部屋の中にあるの布団に目を向ける。

 俺が今週の初め、入寮した時に寮監が用意してくれていた布団。約一週間、世話になったな。

 もはや部屋の景色と同化しかけていた万年床に頭を下げてから畳んだ。


 たしか入寮した時、寮監はこう言っていた。


『布団は部屋に運んでおいたけど、もし使わないならそこの倉庫にしまっておいてー』と


 一字一句合っている自信はないが、たしかにそのようなニュアンスの事を言っていた。


 部屋の中に二組布団があっても仕方がない。誰かが泊まりに来るわけでもないし、もしそのような機会があれば、仕舞った倉庫から再度持ち出せば良いだろう。


「よし」


 昔の偉い人は言った。善は急げ。と。

 俺は布団。抱えあげると、倉庫に向かった。


 倉庫は寮の入り口の正面にある。

 扉を開いて開けてみると、普段はあまり使われていないのか、少し埃っぽい。例えるならば体育館の用具室みたいな感じ。


 寮の備品と思われる物があちらこちらに置かれているが、布団は1番奥に置いてあった。

 見つけるやすぐにその上に布団を乗せると、倉庫から即座の脱出を測る。あまり長居をしたい場所ではないからね。


「なんだこれ?」


 出入り口のすぐ横にプラスチック製の箱のような物が置かれていた。色は黄色でサイズはランドセルくらい。

 深さは15センチほど。何に使うものなのだろうか?スコップのような物が箱の縁に立てかけてあるが、調理道具とか?

 少しばかし考えてみたが、俺の中に答えは存在していない。ならば考えるだけ無駄だなという結論に至って廊下に出る事にする。

 正直言えば、久々にマイ布団でゴロゴロしたかったってのが本音なのだが。


 廊下に出てみると、見知った顔が寮監と話をしていた。

 その人物はこちらに気がつくと、手を振りニコニコと屈託のない笑顔を向けてきた。


「まゆちゃん。もう大丈夫。見つけたから!」


 寮監にそう言うと、妻鳥は背後に従えた真中の手を引いてこちらに向かってくる。


「よ、よう。さっきぶりだな」


「うん。ちょっと大変な事になっちゃってさ。相談に乗ってもらえないかな?」


「相談?」

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