オッドアイの秘密6
「え、え、そ、それは、ど、どういう意味かな?」
そう返事をした真中だったが、明らかに動揺していた。目は左右に泳いでいたし、普段よりさらに受け答えがしどろもどろになっていたのだから、誰の目から見ても明らかだっただろう。
俺が声は出さずに廊下に続く襖を指差す。
猫がギリギリ通れそうなくらい開いた襖の隙間。
そこには、ギラギラと怪しく輝く2つの光の玉。
「えっ!?シロリンが2匹!?」
その姿を確認した
「あー、アカリちゃん!し、静かにして!おばあちゃんに……あっ」
2つの光の玉の上には人影があった。
スゥ~と襖がゆっくりと開き、2匹目の白猫と微笑んだ葉子さんの姿があらわになる。
「恋ちゃん。どういう事?ちょっと詳しく聞かせて貰える」
「お、おばあちゃん。これは違うの」
「どう違うの?何が?」
「ちょ、ちょっとシロの調子が悪いみたいで、分裂しちゃったみたい」
葉子さんは笑顔を崩さないまま俺達の顔を見回したあと、真中にだけ告げた。
「私の部屋で少しお話しましょう」
「えっ、あっ、うん」
「じゃあ、待ってますから」
不穏な空気を漂わせて、葉子さんは廊下の奥へ消えていった。番猫のシロリンも一緒に。
「み、みんなはどうする?」
「どうするとは?」
俺達も一緒に説教されろという事か?そもそも何に対しての説教なのか?俺達も関係している事なのか。
「ち、違うよ。な、長くなりそうだから、……待ってる?」
ここで帰ると言える奴は存在するのだろうか?
少なくとも俺は言い出せない。
なんと言うべきか言葉の発せられる事のない唇を何度か開け閉じした。すると、妻鳥が口を開く。
「ヨウちゃんああなっちゃうと長いしねー。帰ろっかなー。2人はどうする?」
渡りに船とはまさにこのことだろう。恩に着るぞ妻鳥。
「俺も元々長居するつもりもなかったし、おいとまさせてもらうよ」
「2人が帰るのなら、私もそうさせてもらおうかしら」
「うん。わかった。あっ、片付けは後で私がやるから気にしないで」
真中が視線を向けるテーブルの上には、複数の空の食器が残されている。
「そういう訳には行かない。片付けは私達がやっておく。真中さんは安心して説教されてきてちょうだい」
片付けはしていくと言うのは賛成だが、少しはものの言い方があるのではないかと思わずにいられない深澤の物言い。
しかし、力強い言葉には真中もタジタジのようで。
「う、うん。じゃあお願いしようかな」
と引きつった笑みを浮かべていた。
「じゃあ、私、行ってくるね」
カチコチとおもちゃの兵隊のような動きを見せて真中は部屋から出ていった。
「恋!ファイト!」
妻鳥の激には反応することなく、真中も葉子さん、シロリンに続いて廊下の奥へと消えていった。
「……」
しばし訪れる沈黙。
誰が声を発するでもなく、ただただ時間が流れる。
チクタクと進むアナログ時計の音が鈍くなったような錯覚に陥った頃、
「じゃあお二方、さっさと片付けてデートの続きでもしたらどうかな?」
「「だから、デートじゃない」」
「おーおー。息もピッタリじゃないか」
ニシシと笑う妻鳥とは対象的に、深澤はキリと眼光を強めた。
なんか不穏な空気を感じるぞ。
「よーし。じゃあ片付けて帰ろうかー」
白々しかっただろうか。多分声は上ずっていたと思う。
一応デートをするわけではなく、帰るという事も補足したのだが。
深澤は何も言葉を発っさずに、食器を纏めると黙って台所へと運んでいく。
それに続いて妻鳥も。
「ちょっとした冗談だってー。そんなに怒らないでよー」
パタパタと廊下を駆けていく。
さて、さっさと済ませて帰りますか。
俺も妻鳥に続いて席を立った。
______________________
「じゃあお二方、また学校でね」
妻鳥は深澤にウインクを投げかけるも、深澤はヒラリと躱し、来た道を歩いていく。
「あちゃー。怒らしちゃったかなー。有識者はどう思う?」
「さあどうだろうな。俺もまだ知り合ったばっかりだ」
深澤との付き合いは妻鳥とほとんど変わらない。ほんの一日の事なのだ。
「ははは。そうだよねー。次会ったら謝る事にするよー。じゃあまたね。
「お、おう」
手を振りながら、妻鳥は自宅の扉へと手をかける。
なんだよ。急に下の名前で呼ばれたらドキッとするじゃないかよ。というか俺の下の名前も知ってたのかよ!
1人でそんな事を考えていた、周囲には誰も居なくなっていた。
「ちょっ」
振り返り深澤の姿を確認すると、すぐにその背中を追いかけた。
待っていてくれたのか、歩調はゆっくりとしたしたものですぐに追いつく事ができた。
追いついた俺に深澤は心配そうに伏せた瞳をこちらへ向ける。
「真中さん大丈夫かしら?」
「ああ。大丈夫だろ?妻鳥も頃合い見て様子見に行くって言ってたし」
「そうよね。大丈夫よね」
「ああ」
しばし会話もなく古民家か立ち並ぶ細道を2人歩く。
「ねえ、山辺君?」
「なんだ?」
「私、初めて見たの」
今日あった出来事を振り返る。おそらく深澤が言っているのは、オッドアイの事だろう。そうすぐに推察することができた。
なんせ、俺も驚いたからな。
「ああ。俺もだよ」
「それで、真中さんはいつも目元を隠していたのね」
妻鳥がたくし上げた前髪の先には、オッドアイ_____左右で色の異なる瞳______がのぞいていたのだ。
「本人も気にしているようだし、触れない方がいいだろうな」
「私もそうは思うのだけど__」
深澤は少し考えるように言葉を詰まらせる。
「どうした?」
「いえ。ミステリアスで素敵だと思ったから」
「まあな」
深澤の言うことはよくわかる。でも、真中本人の意志を尊重してあげるのが一番だ。
「残念ね」
深澤の言葉は、心からそう思っているのだと理解できるほど客観的に見ても落胆したものだった。
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