オッドアイの秘密4
骨折の影響で居間に座るのは大変だと言う事で、葉子さんは自室で、俺達は居間で昼食を取ることになった。
葉子さんの部屋でみんなで食べようよ。と妻鳥が申し出たが『若い人たちは若い人たちで食べたほうが楽しいでしょう?』とあっさり却下されたことは妻鳥と俺達の心象のためにも付け足しておく。
「私も、手伝うわ」
「はいはい。ゲストはそこで大人しく座っておく!」
大人しく座っているように促された深澤だったが、じっとしているのが性に合わないのか、昼食の準備のお手伝いを名乗り出るも妻鳥に却下された。
「この家の中では妻鳥さんもゲストなのじゃないのかしら?」
「もー堅いなー。アカリでいいよ。アカリ!それにね。私は小さい頃からずーっとこの家に遊びに来てたんだよ。私の第2の家!みたいな?」
「そういう訳にもいかないわ」
妻鳥の静止を振り切り、深澤も立ち上がろうとするが、「いいから座ってて」と妻鳥も負けじと笑顔で制する。
そしてついでだとばかりに、真中に笑顔を向け、「恋は手伝って。家主なんだから」と告げる。
真中はと言えばコクリと一つだけ頷いてスゴスゴと妻鳥の後を着いていく。
「真中」
その背中に呼びかけると、肩をピクリと震わせてこちらに振り向いた。
「トイレ借りていいか?」
「ろ、廊下の突き当りの扉がトイレだから」
「サンキュー」
許可も貰ったことだし、心置きなくトイレに行かせてもらおうと、廊下に出ると、例の白猫がこちらをギロリと見ていた。
「ど、どうも」
まるで蛇に睨まれたカエル状態。俺はピタリと動きを停める。
「こ、こらシロちゃん。ダメだよ。お昼ご飯あげるからあっちいこ」
真中に呼ばれると白猫は俺から視線を切り、ニャーと返事をすると真中の後をトコトコと着いていった。
よく訓練された番猫の後ろ姿が台所に消えるのを見送ってから尿意を思い出し、トイレへと急いだ。
______________________
トイレから戻ると、居間はもぬけの殻だった。
深澤も手伝いに加わっているようで、台所からはキャッキャウフフと楽しげな声が響いてくる。
女子が三人寄ればかしましいってやつだな。
今更俺も手伝うとは言い出しづらい雰囲気だ。
「……」
仕方がないからテーブルの下座に座って待つことにした。……重ねて言わせてもらうが手伝う気が決してないわけじゃないよ?
何もしないというのは退屈なもので、秒針の動きがいつもより遅くなっているとような気がした。間延びする時間。
だけどスマホを触ろうとは思わなかった。人に作業をさせておいて、ポチポチしてるのは人としてどうかと思ったからだ。
年代物の振り子時計がチクタクと時を刻み、天井ではカラカラと音を立ててファンが回る。遠くでは女子三人がはしゃぐ声。
和と洋が絶妙にマッチした空間でまったりと過ごす。これもこれで悪くないかもななんて思っていた時だ。
カリカリカリカリ。
その音は背後から聞こえてきた。
硬いものでプラスチックを引っ掻いたような音。
振り返るとそこは窓ガラス。掃き出しガラスのその向こうにオッドアイの白猫が居た。
俺の顔を見るや、白猫はニャーと鳴いて窓を開けてくれと催促しているようだった。
「あれ?さっきお前、真中についていかなかったか?」
人の家の鍵を勝手にいじっていいものか、少し思案してから鍵に手を伸ばす。
まあ、この家の猫なわけだし、中に入れてからしっかり鍵を締めておけば問題ないだろうと判断したためだ。
「……いやまて」
もしここで中に入れた場合、俺に襲いかかって来るのでは?
さっきまでまでの俺に対する猫の態度を見ていればわかることだ。
躊躇して手を停めると白猫は、うにゃーと鳴いて首を
なるほど、これが猫なで声ってやつの語源か……
こんなの、逆らえる訳がないだろう!
襲いかかられる危険を顧みず、俺は鍵に手を伸ばし、解錠すると白猫を迎え入れた。
すると猫はうーんと鼻を鳴らし部屋に入ってくる。
襲われる覚悟はしていたが、なんの
白猫の方はと言えば緊張感のかけらもなく大あくびをした後、俺の方に頭を向けてそのままこちらに突っ込んできた。
うっ!恐怖から俺は目を背けたが、次にやってきた衝撃は拍子抜けなものだった。
コツンと軽く白猫の頭が膝に当たっただけだった。
「うにゃ」
まるでありがとうとお礼を言っているようだ。そのままトコトコと歩いて行き、今度は
襖を開けてくれという事だろう。
襖の向こうは廊下だ。自らのベッドに向かおうとしているのだろうか?
襖を開けてやると、白猫はキッチンの方へトコトコと歩いていく。
その途中、振り返ってうにゃと鳴いた。
これがツンデレってやつなのだろうか?ツンの部分があまりに強すぎる気がするが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます