オッドアイの秘密3
「ヨウちゃ~ん!あっそびにきったよ!」
猛猫注意の注意書きを気にすることなく、
しかし、返事が返ってくる事はない。
「よし、入っちゃおう」
返事が返ってこないのに、妻鳥はズカズカと家に上がり込んで行く。
「お、おい。大丈夫なのか?」
うん!大丈夫!と妻鳥は俺達にも靴を脱いで上がるように促すと、廊下を奥へ歩いて行ってしまった。
「本当にいいのかね?」
「……さあ」
深澤も俺同様、どうしたら良いものか決めあぐねているらしく玄関に立ち尽くしている。
少しその場で待ってみる事にしたが、妻鳥が戻ってくる気配はない。
「ここに荷物置いていくだけじゃだめかな?」
なんなら住人と顔を合わす必要はないのじゃないか?
「どんな荷物かもわからない物が無断で玄関に置かれていたら、山辺君ならどう思う?」
少しも考えるまでもなくすぐに答えは出た
「嫌だな」
不審な荷物。そんなものが玄関先に置かれていたら手を付けたくもない。
しかも、寮監から頼まれた荷物の中身は食品だ。このまま置いていけば処分されてしまう可能性すらある。
妻鳥が気を利かせて説明してくれる可能性もあるが、面識のない高校生男女2人が訪ねてきて置いていった食品に手を付けるだろうか?
「……仕方がないあがるか」
おそらく深澤も同じ答えにたどりついたようで、頷くと靴を脱いだ。俺もそれに続き靴を脱ぎ上がり框を上がる______
「ん?」
何か白い影が玄関の奥からこちらに向かってくる。
「なんだ?」
「シャーッッ!!」
尻尾の毛を逆立たせ、牙をむき出しにした白猫がこちらに睨みをきかせていた。
「おわっ!?」
めちゃビビって後退りをしようとした俺は、深澤を巻き込んで玄関に倒れ込んだ。
ガシャガシャン!とかなり派手な音を立てて倒れたのに白猫は驚いたそぶりも見せずにウー、と唸りこちらに威嚇を続けている。
「山辺君、重いからどいてくれないかしら?」
こんな時でも深澤は冷静だった。
「のんきな事言ってる場合か!」
まだバランスを崩している俺を払いのけて、深澤は前に出ると白猫と対峙した。そして子供をあやすそうに話しかける。
「大丈夫。怖くないわ」
それがブチギレている猫に通用するのかは定かではないが。
案の定深澤にも白猫はブチギレているようでシャーッと威嚇している声が聞こえてくる。怖い。
「あれ、この子、さっきの子……よね?」
なんとかバランスを立て直して立ち上がり、猫の方に視線を向ける。猫の瞳は特徴的な色をしていた。左目が青で、右目が黄色。つまり______オッドアイ。
「たしかにそうだな」
「あなたが怒るのは無理もないわ。あなたからしてみれば私達は部外者だものね。私達はあなたの御主人様に用事があって来たの」
猫相手に通じるとも思えないが深澤は語りかける。
が、白猫も構わずに威嚇を続けている。
しかし、次の瞬間に均衡は崩れる。
白猫が飛びかかったのだ!
何故か俺に。
「ウニャーオ!」
「ええッ!?」
慌ててなんとか躱したが、二撃目を放つまいと猫が後ろ足を縮みこませる。
次こそやられる。
そう思った瞬間だった。
「し、シロ。だ、ダメ!」
廊下の奥から早足で何者かが駆け寄ってくる。
「シロ。お、お客さんを攻撃しちゃダメ」
相変わらず白猫は唸るのは辞めないが、明らかに攻撃性は失われていた。なんせ耳が後ろにぺたんとたたみ込まれていたのだから。
「ご、ごめんなさい。う、うちのシロがご迷惑をおかけして……も、もしかして、深澤さんと、山辺君……?」
「そうよ。あなたは、真中さんね」
「な、なんで2人がここに?」
そりゃごもっともな疑問だ。クラスメイトとして顔を合わせた事はあるが、今、初めて話した程度の関係性の奴がなんで自分の家の玄関で飼い猫に襲われているのか?
「ちょっとしたお使いを頼まれてきたんだ」
俺達が会話をしているのを見たら興味ををなくしてしまったのか、白猫は廊下の奥へとゆっくりとした足取りで消えていった。正直それを見て俺はホッとした。
「お、お使い?」
「ああ。俺達、高校の寮で生活しているんどけどさ、そこの寮監にこいつを真中葉子さんに届けるように頼まれたんだ」
倒れた拍子に床に置いてしまっていた袋を指さしながら伝えた。
「お、奥野さんからおばあちゃんに?」
真中は袋の中を覗き込んでああと声を漏らす。
「おばあちゃんが怪我したから」
袋の中身は大量のジップロック。その中身は調理済みのおかず各種だ。それだけで説明せずとも真中は全て理解してくれた様子だ。
「お、おばあちゃん呼んでくる」
「俺達が行くから大丈夫だよ」
怪我人を無理やり歩かせた。なんて知られたら後で寮監になんと言われるかわかったもんじゃないからな。
「わ、わかった。あっ、そういえば怪我してない?」
「避けたから大丈夫だよ。だけどさ、飼い猫のしつけはちゃんとしとけよ」
「う、うん。2人ともごめんね」
「無断で入ったのは私達なのだから、番猫の彼からしてみたら正しい行いをしたまでじゃない?
謝るのはあなたの方よ山辺君」
番猫と言う聞き慣れない言葉。番犬の猫バージョンって事?そう考えればたしかに悪いのは俺達の方という事になるな。
「無断で入ったりして悪かった。ごめん」
「だ、大丈夫だよ」
続いて深澤も謝罪するのだろうと待っていたが口を開く気配はない。
「お前も謝れよ」
「ほ、本当に大丈夫だから」
「おばあさまはどちらかしら?」
こいつ本当に謝る気は微塵もないらしい。
「あっ、うん。こっちだよ」
真中は廊下を奥に進んでいく。俺達もそれに続く。途中、猫用のベットが置かれていて、白猫がこちらにはまったく興味がない様子で目を閉じていた。
なぜか深沢は少し残念そうに白猫を見ていたのはなぜなのか。
「おばあちゃん。お客さんが来ているよ」
扉越しに真中は呼びかけた。
すぐに返事は返ってきた。
「あらあら。今日はお客さんの多い日だね。どうぞ」
許可されてから真中が扉を開くと、ベットに横になるおばあちゃんの姿、傍らに立ち談笑をする妻鳥の姿があった。
「えっ?あれ?アカリちゃん?なんでここに?」
「おーっ!恋!お邪魔してるよ!」
妻鳥は悪びれる様子もなく、真中に近づくと、体をワシャワシャとなで回す。
「えっ?えっ?えっ?」
どんな反応をしたら良いのか困ったのだろうか。真中はその場で固まっている。
「恋はちっとも変わんないなー!ん?いや、少しの成長が見られるね……特にむ、アガ!」
「あ、アカリちゃんやめて」
控えな手刀が額に突き刺さっていた。
「ナイスツッコミだね。さすが恋。普段からそんな感じで過ごせば良いのにー。そしたら人気者間違いなし!なのにー」
「わ、私はアカリちゃんとは違って、目立ちたくないの、そ、それに人気者なんて、私には無理だよ」
「アハハハ。そっかそっか。で、そっちの2人はヨウちゃんに用事があって来たんでしょ?」
「あ、ああ。寮監に頼まれて、荷物を持ってきたんだ」
完全アウエーな雰囲気で、どうしたら良いものかと考えていた所に助け舟を出してくれたな。
言いながら寮監から持たされた袋を差し出す。
葉子さんは袋の中身をすぐに確認すると、俺達に言った。
「お昼ごはんはまだ?」
「はい」
「それだったら、うちで食べていきなさいな」
全てを優しく包み込んでくれそうな笑顔でそんなことを言われたら無下に断れるはずもない。
「……良いんですか?」
「ええ。食事は大人数で取ったほうが美味しいでしょう?」
これには反論の余地は無かった。
「そうですね」
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