オッドアイの秘密2
寮から歩く事20分。
「深澤。本当にこっちであってるのか?」
「……間違いないわ」
語尾は強いが、迷いを感じる答え。俺達は道に迷っていた。
「同じところをぐるぐる回っているように感じるんだが?」
「……気のせいよ。似たような景色が多いだけ」
絶対に気のせいじゃない。
そんなにタヌキの置物がそこら中にあってたまるか。タヌキの置物の前を通過するのはこれで4度目の事だ。
俺が荷物を2つ。深澤が1つ。
だから片手の空いている深澤に、スマホの地図アプリの操作は任せていた。もしかしたら、いや、もしかしなくても俺が操作をしたほうが良いかもしれない。
「深澤。ちょっとだけこの荷物持っててくれ」
「……」
「深澤?」
「……」
深澤の視線は。道路の端に向けられていた。そこには、白い毛むくじゃらの生物がいて、コンクリートに背中をゴロゴロと擦りつけている所だった。
「白猫か」
「……」
深澤は無言のまま近寄ると、ワシャワシャとそのお腹を撫でた。
「引っ掻かれても知らないからな」
俺の心配も他所に、猫は仰向けのまま頭をコンクリートに執拗に擦りつけて、満更でもない様子だ。
「この子、オッドアイよ」
「なんだそれ?」
「ほら、見てみなさい。両目の色が違うでしょ」
「両目の色?……マジか!」
正直とても驚いた。猫の顔を覗き込んでまじまじと見てみると、深澤の言う通り、猫の両目の色は違っていた。右目が青で左目が黄色。
「こんな事ってありえるのか?」
「
「モチもうまい?たしかにこの猫、餅みたいに白いけど」
「……」
深澤はロボットみたいなぎこちない動きで俺から視線を逸らすと、白猫をモフるのに専念し始めた。
「まさかお前、俺のことバカにしたのか?」
「ちょいっとお二人さん。さっきからこんな所をくるくる回ってるかと思ったら急に立ち止まったりして、何をしているんだい?まさか……デートか?デートなのか?入学してまだ間もないというのに、不純だ。不純すぎる!」
「あっ……」
俺と深澤と猫が佇んでいる通り沿いの建物の2階窓から、顔を覗かせた女の子がこちらに向かって嘆いていた。
よく見れば知っている顔だ。
たしかあの子は______
「
クラスでも一際目立つ、明るい女の子だ。話した事はないけど。
「猫ちゃん……」
妻鳥の声に驚き、走り去ってしまった猫を名残惜しそうに深澤は目で追っているようだ。その後ろ姿は哀愁が漂っていた。
「そだよー。そういう君達は、坂井くんのバーターの山辺君と、深澤さんだよね?」
なぜここで坂井の名前が出てくるのか。ところでバーターってなに?よくわからないけど少し腹が立つのはなぜなのか。
「そうだよって返事したくない言い方だけど、そうだよ」
「ほうほう。ここでデートしていたってことはみんなには黙っておいてあげよう。周囲の優しい見守りが若い2人の愛を育むんだよ」
妻鳥は1人でウンウンと頷いているが、全て間違っている。そもそも俺と深澤は付き合ったりしていないし、デートでここを訪れている訳でもない。
そもそもデートにこんな住宅街を選ぶやつがいるだろうか?
「別に俺達はデートしてるわけじゃない。な、深澤。深澤……?」
「……」
深澤は俺達には全く興味がないようで完全に無視を決め込んで猫の逃走先を静かに見つめていた。
「否定しないって事は、やっぱりデートなんじゃないか!」
「だから違うんだって。寮監に頼まれてこの荷物を届けに来ただけなんだよ」
両手に持っている荷物を胸の高さまで持ち上げて見せつけてみる。……結構重いな。
「寮監……?ああ、まゆちゃんの事?」
妻鳥は一瞬考えるようにこちらから視線を外すも、すぐにハッとしたようでニコニコと笑顔でそう返してきた。
まゆちゃん。たしか初対面の時に寮監本人がそう呼んでくれと言っていたような気がするが、本当に呼んでいるやつが存在している事に戦慄を覚えつつ、こう切り返した。
「妻鳥はこの辺りの出身なんだよな?」
「うん。そうだよ」
「家を探しているんだ。真中さんって知らないか?多分この辺りだと思うんだけど」
「あー真中さんねー。知ってるよ」
「本当か!?教えてくれると助かるんだが」
笑顔を崩さないまま、妻鳥は深澤の方を指さした。
深澤の方へ振り返ると、そこには何度も目の前を素通りした、タヌキの置物が置かれている。
「タヌキがどうしたんだよ?」
「う・し・ろ」
「後ろ?」
妻鳥の指摘に従い、タヌキの置物の裏側を覗き込んでみると標識が掲げられていた。
『真中』
「マジか……何回も気が付かずに素通りしてたのかよ」
「
レンってなんだ?名前か?
「誰だそれ?」
「さすがにクラスメイトにその反応はひどい。恋、泣いちゃうよ?」
「と言われてもだな、知らない物は知らない。俺は頼まれて来ただけだし。真中葉子って人にこの紙袋を届けるようにって」
「ああー。まゆちゃんからようさんにお届け物って事ねー。納得。あの2人仲良しだもんねー」
窓の枠に両腕を乗せ、その腕の上に顎を乗せて1人ウンウン頷く妻鳥。そして何かを思いついたかのように笑顔を浮かべ
「ちょっと待ってて私もそっちに行くから」
言うやこちらの返事を聞く間もなく、窓をピシャリと閉めてしまった。
なんかよくわからないが妻鳥も付き添ってくれるという事だろう。話していた感じ、荷物の届け先と面識があるようだし心強い。
無人の窓を覗いていても仕方がないから深澤の方に視線を戻すと、あいもかわらず呆けていた。
そんなに猫に逃げられたのがショックだったのか。
別に深澤は悪くないよ。と声をかけてやろうとして、1つ気がついた事があった。
『猛猫注意』そう書かれた札が玄関横に貼られていたのだ。
「猛猫注意……?」
猛犬注意の札なら何度か見かけたことはあるが、猛猫注意?虎かライオンでも飼ってるのか?
「やっほー!お待たせ。ってどうしたの?そんな顔して」
「猛猫注意ってこの家なに飼ってるの?」
「ああー。シロリンの事だねー」
「……シロリン?」
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