第12話 勇者

皆様、おはようございます、こんにちは、こんばんは、雑貨屋店長のユウです。



それでは本日もはりきって雑貨屋開店しまーす。



ドンッドンッドンッ!


「ユウさん大変だ開けてくれ!」



おや?


こんな午前中の早い時間から誰かが訪ねて来たようですけれど、面倒事の匂いがしますから放っておきましょうか


流行りのライトノベル小説の主人公じゃないんだから、普通の雑貨屋店長の私に出来る事なんて子供の喧嘩の仲裁くらいですからね。




ドンッドンッドンッ!


「ユウさーん、居るんだろう!緊急なんだ開けてくれ!」


「・・・」




「ユウさん」


「何でしょうかミシェルさん」


「私達の大切な雑貨屋の扉を力任せにドンッドンッ叩かれるのは、とても不愉快です。」


「そっ、そうですよね(汗)今すぐ止めさせて来ますので、ミシェルさんは水羊羹でも食べていて下さい。冷蔵庫に冷やしてありますので」


「水羊羹?!分かりました、熱い緑茶を入れますから冷めないうちに戻って来て下さい。そしたらユウさんも一緒に水羊羹を食べましょうね♪」


「はい、喜んで♪」




ふぅー(汗)


今からミシェルさんがお湯を沸かして緑茶を入れるまで約7分、そこから緑茶が適温に冷めるまで約3分


現在、雑貨屋の扉を叩いている方の命運はこの10分にかかっています、急がねば!



ガチャ


「おおっ!ユウさんやっぱり居るじゃないか、緊急事態なんだ」


「あなたは数年前に負ったケガが原因で冒険者を続けられなくなり引退し、現在は冒険者ギルドのマスターをしているスミスさんじゃないですか、ご近所迷惑になりますので扉を叩くの止めて頂きたい。」


「えっ?あっ、あぁ、それは申し訳無い。しかし俺の事をどっかの誰かに紹介するように説明した意味が分からんのだが」


「私は意外と忘れっぽいので確認の為にも必要な事なのです。それ以外の意図など全くありませんけれど何か?」


「いや、そういう理由があるなら良いんだ。」




そう!


久しぶりに登場するキャラはしっかり説明しないといけないのは、誰にも抗えない世界の理ですからね


そう言う私もアニメで3話くらい連続で全く出番が無いキャラの事は、ほぼ覚えていません!




「スミスさん、せっかく来たのですから『ファイアーピストン』を見ていって下さいよ。魔法を使わずに火を付けられる便利道具ですから、新人冒険者の方には役立つと思いますよ。値段は1個銅貨5枚です♪」


「なんだって!魔法無しで火を?!火打ち石じゃ無いのか?」


「空気をギュッと圧縮すると高温になる性質を利用した道具ですね。木の筒に燃え易い物を入れてから、棒を突っ込んでギュッとする道具です。空気が漏れないようにするのが難しいですけど構造は単純なんですよ。コレです、はいどうぞ」


「掌に収まるサイズの木の筒と棒か、本当にこんな道具で火が、、、ってこの木トレントか?!」


「ええ、昨夜ふとファイアーピストンの事を思い出しましてね、たまたまトレント素材が余ってたので試しに作ってみました♪」


「あのなぁ、貴重なトレント素材で試作品を作るなんて普通はしねぇからな!」


「スミスさんは何を言っているのですか、試作品だからこそ完成品と同等の品質にしなければ、不具合があるかどうかの確認が出来ないではありませんか」


「理想はそうなんだろうけど、他の奴がこんな事してたら試作品だけで破産しちまうんだが、、、ってちがーう!俺は雑貨屋の商品を見に来たんじゃねぇよ!」



うーむ


新商品を見せて話題を変える作戦は上手く行きませんでしたか、残念です(悲)



「それでスミスさんの用件は何ですか?」


「冒険者ギルドに勇者が来てる!」


「私は勇者のファンでは無いので教えられても喜びませんし、見に行ったりもしませんよ?三軒隣の宿屋の息子さんのシュミット君は勇者に憧れていますから、教えてあげれば喜ぶと思いますけど」


「シュミットには悪いが勇者なんて面倒な存在は『見ない、聞かない、近付かない』に限る!今来てる勇者も他国から1人だけで来たと言ってやがるんだからな!」




スミスさんの言う通り勇者は面倒なんですよね。


この世界には異世界から召喚した『召喚勇者』と、この世界で産まれ育ち勇者となった『天然勇者』が居ます。


ちなみに勇者を召喚するのは禁止されていますけど、まぁ何処の国もこっそり召喚してるでしょうねぇ


何故ならどちらの勇者も1人で国を滅ぼす力があると言われる歩く兵器ですから、各国『召喚』『天然』問わず2~3人は切り札として勇者を仕えさせているはずです。


なので勇者はそれほど珍しくない存在ではありますが、先程も申しましたように『勇者』は歩く兵器ですから1人で出歩く事などあり得ません。


下手に勇者が動けば他国に宣戦布告と受け取られても文句は言えません、なので勇者が動く時は『公式行事』になります。


そんな勇者が自国の城下町以外でお供も付けず1人で移動するなど異例中の異例!


それが他国の冒険者ギルドに来たですって?


これはもう偽勇者なんじゃないかと疑いたくなりますけれど、早まってはいけません。


なんせ私を含めて『勇者』は変わり者が多いですから(笑)



おっと!


そろそろお別れの時間が来てしまいました。



念の為に言いますけれど


次回


『店長vs勇者』


などという胸熱展開はありませんので予め御了承下さい。


え?


そこは勇者と戦って盛り上げる所じゃないのか?


雑貨屋の店長に過度な期待はしないで頂きたい。


次回は私とミシェルさんが水羊羹を堪能する『ほのぼの回』の予定ですから皆様お楽しみに!





ここまでお読み頂きありがとうございました、次回まで皆様お元気で。


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