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 体が鉛のように重たい。


 両手両足を何かに掴まれているようで、動かそうともがいても、どんどん飲まれていく。大きな波が自分を包み込んでいくようだ。暴れると余計に意識を乗っ取られそうな。


 此処はどこなんだ?

 なんで自分は、こんなところにいるんだ?


 ハルはなんとかして目を閉じないようにだけしていた。

 状況を把握するには少なすぎる情報と、記憶のはっきりしていない前後関係。

 なぜ自分がこんな目にあっているのか、所々記憶が途切れていて鮮明に思い出すことができない。


 一体、どうしたっていうんだ?


何分間、何時間足掻いているか分からなくて、限界も近づいていた。

意識を手放したり、目を瞑ってしまったら最後。きっと自分はもう、戻ってこれないだろうと直感が告げていた。

 なんでこうなったかも分からないし、そもそもどこなのかも分からないし。

 というかむしろわかっていることの方が少ないけれど、これだけは確かに確信を持てた。


 目を瞑っちゃダメだ。

 諦めちゃダメだ。こんなところに、いたらダメだ。


「……ひゃく………の……―」


 ハルは重たい波の中から左腕を伸ばした。肩が思いっきり後ろへと引っ張られる。しかし、腹筋に精一杯力を入れて、体を沈めないように争う。


「……ひゃくの………。ハルは此処だよ…―――」


 光なんて何一つ見えない空間で、瞳には自分の手の甲が映る。


 このままじゃ嫌だ。負けてたまるか。死んでたまるか。


「うわぁあああああああああああ‼︎」


 ハルは雄叫びとともに全身の力を使って重たい波を振り切る。そう簡単にはいかないけれど、体を捻って、引っ張られて戻されて、また自分の体を持ち上げて、骨が軋む音とか、折れる音とか、外れる音とか、もう何が何だかわからない音もするけれど。


「てりゃぁあああああああああ!」


 ハルは、ここから出るんだッ!

 大きな濁流が、再びハルの頭上からかぶさってくる。しかしハルは諦めない。

 野生のような目つきからは、光が見えて、大きく開けた口元からは八重歯が光った。


「邪魔だぁあああああーーー!」


 重たい足を持ち上げてハルは、底のない地面の上に立ち上がった。

 刹那、波がハルを飲み込んだ。


 そして再び真っ暗な空間には静寂のみが残された。



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