数字の悪魔の試練
一同が固唾をのんで見守る中、意を決してフィオナは試練の扉を開けた。
中に入ると、そこは変わらず白い壁のシンプルな部屋。
最初の部屋よりは狭く、5人が入ると少し窮屈に感じる。
奥には扉が一つだけ……そこにはこの部屋の入口と同じように張り紙がしてあったが、それは警告文ではなかった。
そして扉の取手には錠前のようなものが付いた鎖がかけられ、厳重に封印されているようだ。
「……よし。メイシア、さっそく出番だよ!」
「へ?」
突然名前を呼ばれたメイシアから間の抜けた声が漏れた。
一行の視線が彼女に集まる。
確かに彼女が今回呼ばれたのには理由があるとフィオナも言っていたが……それが何なのか分からなかったので彼女は心の準備はまだ出来ていなかった。
しかし張り紙に書かれていた内容を見て、彼女は自身が必要とされた理由を知る。
「『これは数字の悪魔の試練なり。先に進みたくば以下の謎を解き明かし、キーナンバーを求めよ』……なるほど、これが私を呼んだ理由なのね」
「これは……数学の問題?」
「メイシアさんは数学が得意でしたの?」
納得するメイシア。
その後ろから張り紙を覗き込んだウィルソンが呟きを漏らし、レフィーナが疑問を口にする。
「あぁ……そう言えば確かに学年トップの成績だったな」
教師のフェルマンが思い出したかのように言った。
そう……実はメイシアは、数学に関しては学年トップの成績を誇る。
ディアナの試練の一つにこれがある事を見越して、フィオナは彼女を呼んだのであった。
「でも、何で数学なんですの?」
「魔法学の理論とかだとけっこう必要になるんだけど……ディアナのコレは完全に趣味だね。こう言う問題を考えるのが好きだったみたい。私も数学は得意な方だけど、ディアナの問題は解くのに閃きも必要になるから……数字パズルとか、そういうのもメイシア得意だったよね?」
「うん。分かった、頑張ってみるよ」
そして、彼女だけだなく、全員が張り紙の問題に挑み始める。
「第一問は……」
====================
《設問1》
以下の□に入る数値を答えよ。
/、1、1、2、1、3、1、4、3、5、1、
6、1、7、□、………
====================
「……難しいな」
「ぱっと見では規則性がよく分かりませんわね。それに、最初の『/』は何でしょうか……?」
問題を見たウィルソンとレフィーナは頭をひねって考えるが、やはりすぐに答えを出すことはできない。
しかし。
「解ったわ」
「「早っ!?」」
メイシアの言葉に二人は驚愕する。
ほんの数秒ほどしか経っていないが、果たしてその答えは正しいのか。
「数列の基本的な考え方の一つは、要素の順番nとの関係性を見出すことです」
「ええ、それは分かりますわ」
「『/』というのは、n=1の時の解が存在しないと言うことだと思います。そして次に着目するべきは、『1』が頻出すること」
「確かに、それは気になっていたが……」
「n=2、3、5、7、11、13の時が1です。何か気付きませんか?」
「素数だね」
「そう。素数というのは約数が1と自分自身のみ、と言う数のことだから、n=素数の時の解が1と言うことは『約数のうち自分自身を除いたもの』と言うことね」
「ほう、なるほど……では他の場合は?」
「はい。次に着目するのは、n=偶数のとき」
「nの1/2の値ですわね」
「そうです。そしてそれも『自分自身を除いた約数』の一つですね。素数、偶数以外……例えばn=9の時は3になってるけど、これも同じです。そして自分自身を除いた約数が複数ある場合は、その中でも最大の数が選ばれてます。n=1の時は、『自分自身を除いた約数』が存在しないので『解なし』」
「じゃあ、数列の法則は『nの約数のうち、自分自身を除いた最大のもの』ってことなんだね」
「そうよ。だから、□……n=15の時は、約数が1、3、5、15なので、法則に当てはめると答えは『5』ね」
「「「おお〜!!」」」
感嘆の声が上がる。
答えを聞けばそれほど難しくないので、時間をかければメイシア以外の者も正答を導き出せただろう。
しかし彼女はほんの一瞬で解いてしまったので、数学学年トップというのは伊達ではないということだ。
「いいね〜、メイシア。この調子で他の問題もよろしくぅ〜!」
「フィオナも考えてよ……まあいいわ。さて、次の問題は?」
====================
《設問2》
3✕3のマス目がある。
以下の①〜③ルールに則ってマス目に数字を入れるとき、何通りのパターンが存在するか?
①ひとつのマス目には1〜9の何れかの数字を入れる。
②何れの縦、横、対角線の3マスの数字の合計は同じになる。
③対称形(鏡像、回転)は同一のパターンとみなす。
====================
「あ!これは知ってますわ!いわゆる魔方陣というものですわよね?対称形は同じと言うことであれば……1パターンしかないはず!答えは『1』ですわ!」
自信たっぷりにレフィーナが答える。
そして、彼女だけでなく全員の『合ってる?』と問いかける視線がメイシアに集まった。
しかし、彼女はあっさりと首を横に振った。
「残念ながら……たぶん間違ってます」
「えっ!?な、なぜ……?」
よほど自身があったのだろう。
メイシアに『違う』と言われたレフィーナは、呆然となった。
メイシアは少し申し訳無さそうにしながら、その答えが違うであろう根拠を説明する。
「確かに一見して魔方陣の問題のように見えますね。ですが、それは引っ掛けです。ルールをよく見てください。もしこれが魔方陣なら……大事なルールが足りてないと思いませんか?」
その説明で、ウィルソンは合点がいったらしく、感心した様子で言う。
「なるほど……①のルールだな。魔方陣のルールであれば、『1〜9の全ての数字を過不足なく使う』になるはずだ」
「そうです。このルールの書き方なら、1〜9の範囲の数字を好きに使って良いと解釈できますね。同じ数字を何度使っても良いし、使わない数字があっても良い……と」
その解説に、面々から感心のため息が漏れる。
「じゃあ、そうすると……う〜ん、結構難しいね……。まず魔方陣で1パターン。それに全て同じ数字を入れるパターンを合わせると、少なくとも10通りはあるよね?」
「そうね。そして、それが全て。答えは10よ」
メイシアはフィオナの言葉を肯定し、更にそれが全てだと断言する。
「え、そうなの?他にパターンは無いの?」
「そうね……証明してみましょうか」
メイシアは自分のポーチからノートとペンを取り出し、解説を始めた。
「まず、こんなふうに各マス目に変数を割り当てる」
a d g
b e h
c f i
「魔方陣のパターン以外は、少なくとも同じ数字が2つあるということだから……仮にa = bとすると、こうなる」
a d g
a e h
c f i
「どのラインの合計も同じになるルールだから、a+e+h = a+e+i → h = iが成立する」
a d g
a e i
c f i
「引き続きライン合計のルールを当てはめて変数を置き換えていくと……最終的にはこうなる」
2e-i 3i-2e 3e-2i
2e-i e i
2i-e 4e-3i i
「こうなると変数はeとiの2つだけになって、各ライン合計は3eになることが分かる。各マスの数字は0より大きく、10より小さいことから、『0 < i < 10』かつ『(2/3)e < i < (4/3)e』かつ『(3e-10)/2 < i < (2e+10)/3』という条件が導かれる」
「「「…………」」」
スラスラと説明するメイシアだが、すでに他の面々はついていけてない様子。
それでもなお解説は続く。
「ここで……例えばe = 1とすると、iは『0 < i < 10』かつ『2/3 < i < 4/3』かつ『-7/2 < i < 4』の範囲条件を満たす整数……つまり、i = 1が導かれる。そうすると、こうなる」
1 1 1
1 1 1
1 1 1
「e = 9の場合だと、iは『0 < i < 10』かつ『6 < i < 12』かつ『17/2 < i < 28/3』の範囲条件から、i = 9になる……これをマス目に当てはめると、こうね」
9 9 9
9 9 9
9 9 9
「eが2〜8の場合も同じ。いずれも結果はe = iになって、全てのマスに同じ数字が入ることになるわ。最初の仮定をa = cとかにしても同じ。同じ数字が2つ使われた段階で、全てのマス目が同じ数字になるの」
「「「なるほど……」」」
メイシアの説明に納得する一同。
教師のフェルマンも一緒に感心してるが、彼の専門は魔法実技なので数学は専門外だ。
「というか、地道に考えてけば分かると思うけど……よくもまあ一瞬で答えが解るもんだね?」
「あはは……実は前に同じ問題を考えたことがあるの」
「そっか〜、やっぱりメイシア呼んでおいて正解だったね。よし、じゃんじゃんいってみよ〜!」
そして、その後も設問3、4、5……と、メイシアがサクサク解いてしまった。
「これで終わりかな?。え〜と……答えの数字でコレを揃えていけば……5、1、0、3、7……」
フィオナが扉にかけられた鎖についた錠前……数字を正しく揃えることで解錠されるタイプのそれを操作する。
すると。
「(カチャッ……)よし!開いたよ!!」
「「「おお〜っ!!」」」
鎖が外され、メイシアの答えが全て正しかった事が証明された。
「ほっ……良かった。自信はあったけど、ちょっとドキドキしたから」
そう言ってメイシアは胸をなでおろし、親友の期待に応えられたことを喜ぶのだった。
TS転生大魔導士は落ちこぼれと呼ばれる O.T.I @o_t_i
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