もう一つの再会



 メイシアの活躍によって最初の試練を見事に突破した一行は、封印されていた扉を開いて次の部屋に足を踏み入れる。


 そして、その部屋の光景にまた何度目かの衝撃を受けた。



「こ、これは……」


「一体どうなってる?」


「綺麗……」


 彼らの目の前に広がるのは満点の星空。


 ……否。

 自分たちが立ってそこに存在するはずの床も見えず、眼下にも煌めく無数の光が広がる。

 今しがた入って来た扉は、それもまるで空間に浮かんでいるかのように見え、そこから漏れ出る隣の部屋の光を除いて周囲の全てが星の海の中だ。



「ふむ、次はこれか……」


「フィオナさん、ここはいったい何ですの?」


「星海の試練。……まあ、これは魔法で映像を投射してるだけで……」


 と、フィオナが言いかけたところで、何者かの声が響き渡った。


『……ここに誰かが来るのは、いったいいつ以来のことかしらね?』


「「「誰(だ)っ!?」」」


 アレクの時と同様に、声はすれども姿は見えず。

 一行は驚きの声を上げるが、フィオナだけは予想していたかのように落ち着いている様子で姿なき人物に声をかけた。


「ディーネ、やっぱり君も生きていたんだね」


『ええ。私はアレクと違って肉体は持ってないから、それほど支障は無かったわ。それにしても……あのいかめしいお師匠様がホントに女の子になってるとか。マジでウケるんですけど。何それ?趣味なの?』


 アレクより人間味を感じられる声だが、その言動も彼とはかなり違って軽薄そのもの。

 フィオナはその言葉に顔をしかめて応える。


「趣味なわけないだろ。想定外の不可抗力だ。まったく……相変わらず口が悪い」


 懐かしい記憶に引っ張られたのか、普段よりも男っぽい口調で応えた彼女は一つため息を付き、それから皆に説明する。


「この声の主……彼女はディーネと言って、ディアナの人格をもとに作られた魔法生命体だよ(……の割には本人と大分性格が違うけど)。でも彼女が言った通り、アレクとは違って身体を持たない精神体なんだ」


『皆さんはじめまして〜。身体は無いけど、姿はお見せできるわよ。ほら』


 すると、星々の海を背景に姿を現したのは……腰まで届きそうな黒髪の女性。

 意志の強そうな切れ長の黒い瞳に、すっと通った鼻梁。

 ともすれば怜悧にも見えそうな美貌だが、人懐こく悪戯っぽい笑みを浮かべているので、それも大分和らいでいた。


『どう?美人さんでしょ?……まあ、ディアナマスターの姿を借りて映像投射してるだけなんだけど』


「見た目は美人なんだけど口を開くと途端に残念になるのがねぇ……」


『なによ。ただでさえ呪術師なんて陰気臭いイメージなんだから、これくらいが丁度良いのよ。それに……マスターよりはマシだと思うわ』


「……否定はしない」


 憎まれ口を叩きつつも、懐かしいやりとりに嬉しそうな様子のフィオナ。

 しかしそんな彼女たちのやりとりに、他の面々は呆気にとられてポカン……となっていた。


 それを見てフィオナは脱線しかけていた話をもとに戻そうとする。


「ディーネ、今回私たちが来たのは……」


『アレクから聞いたわよ。マスターの作った解呪の魔道具が欲しいのでしょ?』


「そうそう。で、結構急ぎなんで、出来れば……」


 王太后の呪いの進行はかなり進んでいる。

 今直ぐに……と言うほどではないものの、可能な限り急ぐ必要がある。

 出来れば面倒な試練など回避できるならそうしたい状況だ。

 なので、この研究室の管理権限を持っているであろうディーネならば何とかしてくれるのでは……と、フィオナは彼女にお願いしようとする。

 そして、フィオナが言い終わる前にその意を汲んだディーネは応えた。


『分かったわ。試練の幾つかは免除してあげる。でも、私の権限だと……ここと、あともう一つだけは無理ね』


「いや、十分だよ。ありがとう!」


 ダメ元と思っていたので、むしろ儲けものと思ってフィオナは礼を言った。

 しかしそれを受けたディーネは、どこか投げやり気味に応じた。


『いいのよ。どーせ、ここ・・にはマスターいないんだし』


「ディーネ……」


 変わらずの軽い口調の中に、隠しきれない彼女の寂しさのようなものを感じ取ったフィオナ。

 ディアナの人格より創られたディーネであれば、完全に無から創られたアレクよりも、より人間に近い感情を持っているはず。

 だとすれば……千年もの間の孤独感とはいかばかりのものか。


 そう思ったフィオナは、ことさら明るい口調で言う。


「ずっと、ここには誰も来なかったけどさ……これからは賑やかになると思うよ。だから、色々よろしくね」


 アレシウスの転生者であるフィオナが、研究棟の調査許可を出せば……否が応でも多くの人が訪れることになるだろう。

 それが何らかの慰めになるのかは分からないが、それで少しでもディーネの寂しさが紛れれば……と、彼女は思うのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TS転生大魔導士は落ちこぼれと呼ばれる O.T.I @o_t_i

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ