エピローグ
「ねえフィオナ、実習で何かあったの?」
「え?そりゃあ、色々大変だったよ。あんな大群に遭遇したんだもの」
「いや、そうじゃなくて……何だか上級生たちがあなたの事チラチラ見てる気がするのよね……」
(メイシアは鋭いなぁ〜……)
波乱含みの野外実習は結局のところ中止となり、参加者たちは予定よりも早く王都に帰還した。
魔物の大群については速やかに国軍が出撃して掃討する事になるだろう。
フィオナが殆ど
当然ながら野営地で起こった出来事は学内中で噂になっている。
ただ、フィオナに関してはジョシュアが約束してくれた通り箝口令が敷かれたため、噂話になる事はなかった。
しかし、フィオナが取り残された生徒を救助するため飛び出していった事は多くの者が目撃している。
そういった者たちは口にすることは無いものの、チラチラとフィオナに視線を向けてくるのだ。
(まぁ、それは仕方ないか。あれだけ派手に動いてこの程度なんだから感謝しないとね)
などと彼女は呑気に考えているが……
「フィオナ、ちょっといいかしら?」
「あ、レフィーナ。どうしたの?」
フィオナとメイシアが会話しているところに、
レフィーナが声をかけてきた。
取り巻きの娘たちはいない。
(へえ……実習に行ってから随分と仲良くなったのね、この二人)
お互いに敬称なしで呼び合う様子を見て、メイシアはほんの少しだけ嫉妬する。
とは言っても、友人が他の同級生と仲良くなったのは純粋に嬉しいとも思った。
「それが……ウィル兄様が少し話がある、と。ちょっと付き合ってもらえないかしら?メイシアさん、申し訳ありませんが……」
「あ、私の事はお気になさらず……」
「私は行きたくない。……でも態々レフィーナが呼びに来たってことは真面目な話か」
「そういうことですわ。例の件について……ですって」
例の件……要するに、フィオナの秘密に関する話だろうと察せられた。
「分かった。メイシア、またね」
「うん、いってらっしゃーい」
そしてフィオナとレフィーナは、ウィルソンが待つと言う生徒会室へと向かうのだった。
「おお!我が友フィオナ!!よく来てくれた!今日も美しいぞ!」
開口一番、相変わらずそんな事を曰うウィルソンだが……いつもと少しだけフレーズが異なっていた。
「友じゃ……!いや、『友』は別に良いのか。って、どうしたんです王子!?熱でもあるんですか!?」
「む?あぁ……私はな、今回の件で己の未熟さを痛感した。そんな私がフィオナの婚約者などと名乗るのは烏滸がましい……そう、思ったのだ」
「王子……」
「だからな……『先ずはお友達から』と言う事だ!!」
「そんなに変わってねぇ……!」
「フィオナ、口調が乱れてましてよ」
結局のところ、王子のフィオナに対する気持ちは微塵も変わっていないという事だ。
「まぁ、でも……あの時私を庇おうとしてくれたのは嬉しかったですよ」
倒したと思った暴君竜が攻撃してきたとき、流石のフィオナも死を覚悟した。
ウィルソンが庇ったところでどうにかなるものでもなかっただろうが……命を賭した行動に少し心が動かされたのは確かだ。
「でも、将来の国王となるであろうお方が、あんな軽率な行動をしてはダメですよ」
「うむ、その通りなのだが……咄嗟に身体が動いてしまったのだから仕方がないだろう?私にとっては国と同じくらいそなたが大切なのだ!」
友などと言った割にズバズバとド直球の言葉を投げかけてくるウィルソン王子。
「っ!……大体、私の前世は男なんですよ。それは気にならないのですか?」
「私は今のそなたを好きになったのだ。大魔導士の生まれ変わりだからじゃない」
「!!そ、そうですか」
「む?いま、ドキッとしただろう?」
「し、してません!!それに、王子が気にしなくても私が気にするんです!」
「……もしかして、女性の方が好きなのかしら?だったら私が……」
「そ、そう言う訳でもないけど……え?レフィーナってそうなの?」
「いいえ?でも、フィオナさんならアリかと……」
「いやいやいや……もう、いっぱいいっぱいだよ……」
どうにも収拾がつかないのであった……
「まぁ、私とフィーナのどちらを選ぶのかは追々聞くとして」
「いやいや、何で二択で決まりみたいになってるんです?」
「フィオナをここに呼んだのは他でもない」
「スルーですか」
「今回の件で君がかつての大魔導士アレシウス=ミュラーであることは箝口令を敷いて秘密を守る事になっているのだが……」
フィオナのツッコミは総スルーされたが、真面目な話が始まったのを受けて彼女は黙って聞くことにする。
「流石にな、父王や国の上層部にまで秘密にしておけるものではないのでな……そういう者たちには君の素性は知られている。それを伝えておこうと思ったのだ」
「……まぁ、それは仕方ないです。ですが……」
「あぁ、君の言いたいことは分かるぞ。……今後君の力を利用しようと近づいてくる者はいるかもしれんが……国としては君の意思を最大限尊重する。そう言う方針だ」
「それは凄く有り難いのですが、よくそれで纏まりましたね?自分で言うのも何ですが……アレシウス=ミュラーの魔法の知識や技術は、今となっては凄く貴重なものだと思うのですが」
フィオナの認識は尤もだ。
実際、『無理矢理にでも国に協力させるんだ!』などと過激な事を言う重鎮も居た。
しかし……
「もちろん色々と協力してもらいたいと言うのは偽らざる本音だろうが……結局のところ、君の機嫌を損なうようなマネは出来ないと言う結論に至ったのだよ」
「まぁ、
別にフィオナは、機嫌を損ねたからと言って無闇に力を振るう様な事はしないのだが……相手がそう思ってくれるなら…と思って、何も言わなかった。
だが、何となく気になることがある。
「王子も……そう思ってるんですか?」
まるで腫れ物のような扱い……ウィルソンにまでそう思われるのは何となく嫌だな…と彼女は思う。
「ふっ……言っただろう?私は君が大魔導士の生まれ変わりだから好きになったわけではない、と。それを知った後もその想いは微塵も揺らがないな!もちろん将来国を導く立場として考える事はあるが……君への想いは純愛なのだよ!」
「そ、そうですか」
「む?いま、ドキッとしただろう?」
「してません!」
本当は、ちょっとドキッとした。
打算のない好意を嬉しく思った。
それが恋愛感情なのか分からないが……少なくともフィオナはウィルソンの事は好きである。
(まぁ、取り敢えず友人としてなら……ね)
ほんの少しだけ芽生え始めた感情には、まだ彼女は気付かない。
さて、フィオナが思い描いていた『普通の人生』だが……
やはり今生も波乱に満ちたものになりそうだ。
人生はままならぬもの。
結局のところ、全てが思い通りになる事など無いだろう。
だけど、人生の様々な岐路において後悔することがあっても。
最期に振り返ったときに『悪くなかった』と思えれば良いではないか。
彼女はそう思う。
そして、これからも彼女の長い人生は続く。
その話はまたの機会に取っておこう。
彼女がウィルソンの想いをどう受け取るのか……も。
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