けつあな確定マン ~どんな難事件もズボッと壊尻! 凶悪な犯罪者たちに性技の鉄槌を下す迷探偵! 真実と尻穴は、いつも一つ!~

マルマル

保険金殺人事件でズボッ!


 東京都江戸川区のとある住宅の一室。そこには今、複数の男女が集まっていた。その中に一人、ひときわ異彩を放つ男がいた。英国紳士風のシャツとベストにジャケットを羽織り、シルクハットを被った男だ。


 季節は夏である。周りの人間は通気性の高い涼しそうな服装をしているため、その出で立ちはイヤでも目立つ。その彼が、悠然と窓際まで歩いていくと、おもむろに口を開いた。


「小林明日香あすかさんを毒殺した犯人は、この中にいます」


 その場の数人が息を呑む。


「ちょ、ちょっと待ってください探偵さん!」


 被害者の夫である小林修一しゅういちがシルクハットの男―――探偵・尻穴確定男けっけつかくさだおを制止する。


「おふくろは、どう考えても事故死だったろうが!」


 続いて、小林夫妻の息子の健人たけひとが驚きと怒りの混じった声を上げた。


「そうです。あれは事故です。だいいち、私たちだって皆、奥様が口にしたのと同じ毒の入ったものを食べているんですよ?」


 家政婦の美田園恵子みたぞのけいこが同調する。


「ええ、それは聞き及んでいます。明日香さんが趣味の山菜採りでとってきたものの中に【毒草】が紛れ込んでおり、彼女はそうと知らずにシチューへ混入し、皆さんに振る舞ってしまった。その結果、シチューを食べた全員が手足のしびれや腹痛などを起こし、病院へ運ばれた。そして、ここにいる方々は軽症で済みましたが、明日香さんだけは症状が重く、帰らぬ人となった。……一見すると不幸な事故のように思えます。しかし、私の目は誤魔化せない」


 定男の瞳が鋭く光った。


「これは事故に見せかけた殺人です。明日香さんが、採ってきた山菜を用いてシチューを作ることを知っていた犯人は、食中毒を装って彼女を殺害したのです。シチューに【毒草】を紛れ込ませてね」


 彼の言葉が一段落すると、横合いから野太い声が上がった。


「待ちたまえ、定男くん。家政婦さんも言っとったように、みんな同じシチューを食っとるんだぞ? もし君が言うように、この中に毒殺犯がいたとして、何故そんな危ない橋を渡たったんだね? 下手すると自分も死んどったかもしれんのだぞ? 事故を装うにしても、あまりにリスキーではないか?」


 発言したのは警視庁の警部・菅原重蔵すがわらじゅうぞうである。


「いいえ。犯人は絶対に死なないという確信を持って犯行に及びました。毒の特性を知っていたからです」

「毒の特性?」


 健人が首を傾げる。定男はそちらに顔を向け、説明を始めた。


「明日香さんを死に至らしめたのは、猛毒である【アコニチン系アルカロイド】です。実はこれ、長時間加熱すると毒性が弱まるという特性があるんですよ。本来なら、フグ毒であるテトロドトキシンに次いで毒性が強いのですが、1時間ほど熱を加えるとその毒性は200分の1程度まで抑えられます」

「でも、それだと奥様はどうして亡くなってしまわれたのでしょうか? 毒が弱くなっていたはずなのに」


 今度は家政婦の恵子が疑問を口にする。


「なに、簡単なことです。犯人はシチューが完成した後で、明日香さんの皿へ注ぐときに毒を追加したんですよ」

「なるほど、そういうことか!」


 菅原警部が膝を打つ。


「そして、そんなことができたのは、三人のうち一人しかいません」

「誰なんです? 妻を【トリカブト】で毒殺したのは?」


 修一の問いかけを尻目に定男が右手を掲げる。


「まず、家政婦の恵子さんは配膳が整うまで風呂の掃除をしていたのでシロです」


 彼はゆっくりと腕を下ろしていく。


「次に息子の健人くんですが、彼も二階の自室でゲームをしていたので同じくシロ」


 やがて、その人物を人差し指で示した。


「となると犯人は、配膳の手伝いをしていたあなたしかありえないんですよ。明日香さんの夫である、修一さん。あなたしか、ね」


「そ、そんな!? 旦那様が!?」

「親父……」


「ま、待って下さい! 配膳を手伝っただけで犯人にされちゃたまりませんよ! そもそも、証拠はあるんですか!? 私が妻の皿に毒を入れたという証拠が!」


 修一が、ものすごい剣幕で捲し立てる。しかし定男は涼しい表情を崩さない。


「修一さん。証拠ならね、先ほどあなたが提示してくれましたよ」

「な、なにを言ってるんだ!?」

「あなたさっき、『誰なんです? 妻を【トリカブト】で毒殺したのは?』とおっしゃいましたよね?」

「だったらどうだと言うんだ!?」


「たしかに、明日香さんを死に至らしめたものは【トリカブト】です。しかし、なぜ知っているんです? 私は一度も【トリカブト】だなんて単語を使っていないのに」

「なっ!?」


 修一が双眸を見開いた。しまった、という顔をしている。


「そ、そうだ! 思い返してみれば定男くんは、【毒草】とか【アコニチン系アルカロイド】とは言っていたが、【トリカブト】とは一度も言っていない!」


 菅原警部がポンッと手を打つ。


「そう。それなのに、おかしいですよね。どうして知っているんです?」

「そ、それは、病院の医師から聞いて……」

「毒草が【トリカブト】だと判明したのは検死が終わった後。今からほんの少し前です。あなた方が搬送された病院の医師は、その時点では毒物の正体を特定できていませんでしたよ」

「ぐぅ……」


「つまり、この場でそれを知り得るのは、私と警部を除けば犯人しかいないんですよ」

「ぅ……ぐっうぅ……」


 修一は体から力が抜け、がっくりと床に膝をついた。


「……くそっ、完璧だと思ったのに」

「分からん、なぜだ? 20年も連れ添った奥さんだろう? 殺害の動機は何だ?」


 憔悴したようにつぶやく修一へ、警部が詰め寄る。


「保険金ですよ。借金の返済にあてたかったんです」

「借金? なにか高額な買い物でもしたのか?」

「ははっ、ギャンブルですよ。私はパチンコも競馬も競艇も大好きなんです。でも、最近は負けが込んじゃって……。あ〜あ、妻の保険金さえあれば、借金を返せた上にしばらく遊べたのになぁ」

「そ……そんな理由で……。賭け事なんぞのために自分の奥さんを手にかけたのか?」


 悪びれる様子もなく、薄ら笑いすら見せる修一に対し、警部が静かな怒気を発する。ギリギリと拳を握りしめ、今にも殴りかかりそうだ。定男は、そんな彼の肩を叩いていさめた。


「警部、お気持ちはお察ししますが、落ち着いてください」

「……あ、ああ。すまない」

「あとは私に任せてください」

「……そうだな。頼んだぞ、定男くん」


 意味ありげな定男の言葉で冷静になった菅原警部は拳を収めると、恵子と健人を連れて退室した。リビングに静寂が訪れる。が、それもほんの数瞬の間だけだった。


 突然、定男が修一に襲いかかったのだ。うつ伏せに床へ押し倒し、右腕を捻じるようにして背中へ固定した。


「な、なんだ!? いきなり何をする!?」

「動機は不純。後悔の色はないし、情状酌量の余地もない。貴様はどうしようもないクズだ」


 紳士然とした態度は一変。定男は底冷えのする声色で修一をなじった。


「よって、沙汰さたを言い渡す。貴様のようなクズは……けつあな確定!」

「な、何をする!? やめろ! 私のズボンを下ろすな! は!? おい、よせ! 汚いモノを尻に当てるな! や、やめ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……おっ……おっ……おごっ」


「……ふぅ。これにて壊尻かいけつ










 近年、短絡的かつ凶悪な犯罪が増加している。それにともない、犯罪者への厳罰化を叫ぶ国民の声は大きくなってきた。しかし、いまだに司法の体制は十分に整っていない。


 政府は、高ぶった国民感情を抑制する目的で、一人の男に【超法規的懲罰権】を与えた。簡潔に言えば、【犯罪者に対して何をしても許されるという権利】である。


 最強の権利を得た尻穴確定男は、今日も自身の巨大なナニを活用して犯罪者たちを成敗してイクのであった。




「私の名前は尻穴確定男―――人呼んで【けつあな確定マン】! どんな難事件もズボッと壊尻かいけつ! 凶悪な犯罪者たちに性技の鉄鎚を下す迷探偵! 真実と尻穴は、いつも一つ!」

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