事務所襲撃
「新屋、お前書類終わったら、コーヒー入れて」
眉間にシワを寄せながら訴える。
「大鐘さんまた寝てないんですか?」
「あぁ、ちょっと忙しくてな」
「忙しいってモジャモジャ、アンタのは自業自得でしょ」
大鐘響、男は忙しい日々を送っていた。
ヒーロー事務所「BBB」の代表を務めつつ、朝まで眠れない戦いが続いていた。
推しのバーチャルアイドルが、ゲームクリアまで耐久配信をしている為だった
そして、今も事務所には来ているが、配信から目が離せない状況が続いていた。
「大鐘さん、俺の推しも今度ライブやるんで、休み欲しいんですけど?」
コーヒーを入れる為に、席を立って近くに置いてある「全自動コーヒーメーカー」
税込み、4万2千円
「休み?おいおい、社会人が簡単に仕事休めると思っているの?1か月前に言わないと無理だよ、常識だろ?」
すぐ近くに置いてあるリクライニングチェアに腰を掛け、赤波新屋に社会常識を教える。
リクライニングチェア税込み、7万8千9百円
「職場で仕事もしないで、配信見てるアンタが言うなよ」
コーヒーを渡して、自分の席に戻った。本部から送られて来たメールに目を通す。
パソコン大手「オレンジ」の最新モデル税込み、29万9千円
「なにを言ってるのかね、これも立派な推し事だろ?」
「って待ちなさいよ!アンタ達二人の会話に、ちょくちょく出て来るこの金額なによ!」
「え?先日春木さんが強盗を捕まえた時に出た「報酬」ですよ?」
当たり前のように平然と答える赤波新屋
「いや~久しぶりに纏まったお金が入ったから奮発しちゃったよ」
笑顔で嬉しそうな大鐘響
部屋の空気が変わった。明らかに変わった。決して良くない方向に変わった。
後に赤波新屋の「負けないヒーロー」という自伝の中で「あの時は死を覚悟しました。人を怒らせたらダメって誰も教えてくれないんだもん」
「誰が勝手に使っていいって言った」
般若もビックリな表情を見せる春木奈々
「春ちゃん落ち着こう!ここは事務所だ、皆の憩いの場所だよ」
椅子の上で必死に休戦を申し込む
「その呼び方は止めろって言ってるでしょ」
両の手の平に小さな竜巻を作り、ゆっくりと歩んでくる。
「春木さん、それはマズいって」
そう言いながらも、扉の方に徐々に逃げていた。
「ドンドンドン」
赤波新屋の背後の扉を強く誰かが叩いている。
「うわぁ」
思わず声が漏れた。
「新屋、アンタはなに逃げようとしてんのよ」
般若がターゲットを変えて向かって来る。
天国へのカウントダウン。なんて言うお洒落な言い回しが頭の中を高速で過り、辺りを見渡して、危機的状況を打開できる「何か」を求めた。
「ドンドンドン」
後ろからは更に強く叩かれる。
「うっ」
「ドンドンドン」
更に強く叩いて来る
「うっせいよ!こっちは命に関わる状況なんだよ、空気読め馬鹿が!」
後ろに向かって言ったつもりだった。
「新屋~アンタ私に向かって馬鹿ってよく言えたね?」
黒く染まった瞳は深淵を覗いて来たかのように、全てを理解した。そう言いたげだ。
「春木さん?違うよね、君はそんな勘違いをするタイプじゃ無いよね」
手を前に出して、近づいて来る事を拒もうとするが・・・・
「ドンドンドン」
「だからうっせいって言ってんだろ」
扉を開けて文句を言おうと、身体を反転させドアノブに手を掛けようとした瞬間、扉が凍らされた。
一瞬の出来事だった。
後ろにジャンプをしていた赤波新屋。それが良かったのか、事務所の中が氷で覆われてしまったが、無事だった。
春木奈々と大鐘響は床と接地していた事で、全身が凍らされてしまった。
「赤波新屋ってお前のことか、テレビで見たぜ?凄い活躍だったな」
凍ってしまった扉が高い音を立てながら開いた。
背丈が赤波新屋と変わらない男が入って来た。
「誰だ、お前」
白い息を吐きながら問う。
「俺のことなんてどうでも良いだろ」
戦う気なのか、構えを取る男
この瞬間、赤波新屋の個性が発動した。
構えを取り男が何かを投げて来た。それは氷で出来た投げナイフの様なものだった。
連続で投げられ、距離を縮めることができない。
だが、躊躇をしている余裕も無い為、無理やり突っ込んで行った。
その動きは見透かされていた。
安易に突っ込んだ所を、いとも簡単に攻撃された。
そして、赤波新屋が倒れ込んでいると頭の中で声がした。
——完全パーフェクト勝利クリア——失敗。
「だからうっせいって言ってんだろ」
驚いた。訳では無い。
赤波新屋の個性「タイムリープ」言葉だけでは羨ましいこの上ないが、事本人からすると迷惑な個性であった。
個性を発動するには限定条件が存在する。
例えるなら、個性発動中は声を出せない等である。
だが、赤波新屋の条件はユニークだが、運が悪い事に気が付いてしまった。
・個性発動は「自動オート」
・個性発動解除条件「完全勝利」」
解除内容、三分以内に敵を傷1つ負わずに倒す、残り時間を残して負傷した場合でも、三分終了まで戦闘は継続される
・未達成時は戦闘十秒前に戻される
・条件クリアの「敵を倒す」は赤波新屋が最後の攻撃を加えれば「完全勝利」となる
神の悪戯が存在するならば、この男は見事に選ばれた「世界一不幸」な男。
神が福笑いでもしていたのか?そう言いたくなる程のトリプル役満ぷりだからだ。
「大鐘さん!今から敵が来る、これは2回目だ」
赤波新屋、春木奈々ともに急いで大鐘の背後に身を隠した。
その瞬間、扉が凍らされた。大鐘は手に持っていたメガホンで大声を出した。
音圧によって、凍らされた扉が壊れた。
背後で爆音に耐えていた二人だが、余りにも大き過ぎる音量に加え、背後とはいえ近くで受けた音圧のダメージが大きく意識を失った。
ポツン、ポツンと液体が赤波新屋の頬に垂れて来た。生ぬるい液体に目を覚めさせられ、思い出した。自分達が襲撃を受けていた事を、そして目に入って来た。
「——大鐘さん?」
氷の槍に貫かれ息絶えている姿、血が自分の頬に垂れて来ていた。
「ああああああ」
普段、個性を発動させないようにする為に平常心でいる事を心掛けていたが、トリガーが外された。怒りが込み上げる。
——完全勝利——失敗
「あああああ」
「うわぁ!急に叫ばないでよ」
戻って来ていた、目に入る2人を見て安心感に浸る余裕はなかった。
「大鐘さん3回目」
その言葉を聞いた大鐘がメガホンで個性を使おうとした。
「それじゃダメです。それでさっき大鐘さんは死にました」
「えっ!僕死んでんの!」
「えぇ、奈々!」
「ちょっと急に呼び捨てしないでよ」
「ごめん、でも今は俺と大鐘さんを空中に浮かして」
春木奈々の個性で三人とも風の力で浮いて待った。
そして、その時が来た。
一瞬で室内は凍り、寒さが体に突き刺す様な痛みで襲って来る。
なんの反応もない事に、敵は油断したのか、自ら扉を開けて来た。
「なんだ?ここはヒーロー事務所じゃないのか?」
男がゆっくりと入って来た。
「君は!」
大鐘は驚いた様子だった。寒さで汗は出ないが、その様子からただ事ではない
何かを知っている様な口調の大鐘に赤波が問う。
「誰ですか」
「冬堂凍とうどうれい都と。A級ヒーローで最強の氷雪使いだ」
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