撃破2・ヒロインの名は「春木奈々」
「午前11時に銀行強盗が立て込んでから、既に2時間経ちますが未だに人質の方々は解放されていません」
個性を使って怪物から市民を守る「ヒーロー」
それは希望
希望が人の心を救う。
なら犯罪者にそれは無いのか
犯罪者にも「ヒーロー」は存在する
それが社会から悪と言われても。
~銀行内~
人質の人達は目隠しに口も塞がれた状態だった。
窓口の前に集められた人質は、外から聞こえるサイレンの音に希望を持っていた。
自分ちはすぐに助かる。大丈夫。
そう思って光の無い暗闇の中で助けを待った。
死ぬ寸前まで。
銀行強盗爆破殺人事件
強盗団によって奪われた金銭的被害無し
ただし、人質になっていた「一般市民」25人死亡
残された犯人へと繋がる証拠なし。
東都銀行釜原支店
「お前ら騒ぐな、死にたいのか」
「キャー」
「黙れ、もし次に声を出したらこのボタン押して爆破するぞ」
強盗事件発生、その知らせはすぐに近くにいるヒーローに伝わった。
「中の様子は」
「奈々ちゃんか、犯人の人数は不明、まだ何も要求していない」
「そうですか。まずは人質の解放からですね」
春木奈々、18歳にしてB級の実力を持つ
「そうなんだが、奴ら電話に出ないんだ」
困っているのか、額に手を当てながら俯く刑事
「それは面倒ですね」
ニヤリと笑う
「ダメだよ、今回は他のヒーローを待とう」
刑事は春木奈々の前に立ち、行かせない様に立ち塞がる
「えぇ、そんなの待ってたら犯人に逃げられちゃうよ」
「大丈夫だから、ねっ?」
いい歳こいた刑事のおっさんが、若い女の子に気を遣う。
「じゃあ1分だけだよ」
少し不貞腐れた様子でそっぽを向いた
「おいっ、まだ他のヒーローは来ないのか」
焦った刑事は語気を強めて部下に聞く。
「はいっ!他のヒーロー達も早くても、あと10分は掛かるようです」
警察本部からの情報を刑事に伝えた部下は、緊張感からなのか汗を滲ませていた。
「クソっ、このままじゃマズいぞ」
刑事は手を力いっぱいに握り絞め、そのままパトカーの屋根を叩いた。
「もう1分経ったから私行くねぇ」
待たされた分だけ、解放された今、春木奈々は誰にも止められない。
軽やかに向かう足取りは、強盗をこれから相手にする。そんな物では無く、
新発売のケーキを買いに行く。そう言われた方が納得いく程に足取りは軽かった。
強盗が外から様子を見られない様に、降ろさせた防犯シャッターの前に立つと、徐にシャッターを叩いて声を出した。
「すみません、これから5秒だけ時間をあげるので、武装放棄して下さいね」
春木奈々は大きな声で、カウントダウン始めた。
「ふっ!お前に何が出来るんだよ。むしろ人質を」
犯人はシャッター越しの春木に脅すが、カウントダウンは止まらなかった。
「ゼロ~」
そう言うと、シャッターの地面と接地している部分が、徐々に上に上にと変形しながら動き始めた。「ガシャン」閉まっていたシャッターが天井まで開けられた。
まるでティッシュ箱を上から押し潰した様に、変形したシャッターが天井に張り付いている。
「強盗の皆さんお疲れ様です。今日は天気が良いから強盗したくなったんですか」
「小娘じゃねぇか、こんな無茶するバカはどんな奴かと思えば、まだ親に面倒を見て貰っているようなガキかよ」
犯人達は安堵した。自分達に危害を加える者がどんな強面なのか、だが、春木奈々の外見的容姿に緊張の糸が切れ、安心したのだ。
「ガキはアンタらでしょ」
先程までの明るく、高飛車な様子が消えた。鋭い目つきで犯人を見ると、手を前に出して拳銃の様に構えた。
そして・・・・
「バンッバンッバンッ」
声に出して「バンッ」と言う度に犯人の一人が吹き飛ばされ、また「バンッ」と言うとまた次の犯人が後ろに吹きとばされる。
犯人全員を無力化し終わると、指先に口を当て「フッ」っと息を吹きかけた。
「お前は一体」
「私?春木奈々ヒーローよ」
「奈々ちゃんお疲れ、今日はいつもより被害が少なくて助かったよ」
「なぁに、私がいつも暴れまわっている。みたいな言い方ね」
「あっ、いやいやごめんって」
「刑事さんもちゃんと仕事してよ」
ペットボトルの水を飲みながら軽く小言を言う。
「奈々ちゃんに言われると困っちゃうね」
頭を掻きながら困った表情を見せる刑事
二人が外で連れ出されてくる犯人達を見ていると春木奈々が違和感を感じた。
「ねぇ、犯人って6人居たよね」
「え?今出てきたので全員だと思うよ」
春木奈々と刑事は目を合わせた。
「ドゴーン」
次の瞬間、辺りにけたたましい爆発音が響き渡った。
「お前らに捕まってたまるか」
犯人の一人が警官達の目を盗み、逃げ出したのだ。
「犯人を捕まえろ」
刑事が部下達に指示を出したが、犯人は自分の個性を使い、警官達から離れていく。
「オッサンこれ貸しね」
春木奈々は飲み終わったペットボトルを刑事に渡すと走り出した。
「あの小娘さえ居なければ」
犯人の男はパトカーを奪い、ルームミラーに写る、春木奈々が目に入った。
パトカーを急発進させUターンをして、春木奈々目掛けて突っ込んで来た。
「ケガしても知らないからね」
得意げに笑みを見せ、腕を振り上げた。
「なにを調子に乗ってんだよ」
ハンドルを力いっぱいに握った犯人は、アクセルを踏み込んだ。
急加速をしたパトカーはスキール音を、あげながら向かって来る。
「そっちがその気なら」
春木奈々は人差し指をパトカーに向け、空に向かって曲げた。
「何だ、これは!」
犯人の乗ったパトカーが突如、空に打ち上げられた。
「奈々ちゃん!あのままじゃ犯人が!」
空に抛ったボールが天高く、もっと高く。さらにもっと高く。
そんな思いはボールには無いが、犯人は一瞬でもそう思ったに違いない。
「あああぁぁぁぁ」
「もう、自力でどうにか出来ないの?」
そう言うと、落下寸前のパトカーを受け止めるように、空気がクッションの様に受け止めた。
落ちて来た犯人は自ら、這いつくばって出て来たが、周囲を警官とヒーローに囲まれ諦めたのか、ため息と大きく吐き出した。
「奈々ちゃんごめんね、疑った訳じゃ無いんだけど流石にね?」
「人を快楽殺人者と勘違いしているの?」
「ハハハ、奈々ちゃんは優しいもんな」
「オッサン?さっきまで絶対に疑ってたでしょ?」
二人がそんな会話をしていると、赤波新屋が息を切らしながら駆け付けて来た。
「強盗は?」
「もう終わったよ」
「マジで!すごいね」
「何処かの誰かさんみたいに、永久Dランクだったらもっと楽なのにね?」
「ハハハ、はぁ」
泣きたい気持ちになったのか、スーっと涙が垂れて来た。
「って泣くなよ!ごめんって」
静かに涙を流している姿に若干引きつつも、春木奈々は反射的に謝っていた。
「私が悪かったよ、ご飯奢るから行こう?」
「ん?今度にする」
一瞬、耳が「ピクッ」っと動いたが、手で顔を隠していた赤波新屋は、恥ずかしさから
ちゃっかり奢って貰う約束を残しつつ、その日は帰って行った。
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