第27話 ディーン、悪の軍団と接近、武術大会への参加を決める

(ディーン視点、魔法学園二階トイレ)


「――用務員さんですね」


 洗面台を必死で磨いていると、俺に背後から声をかけてくるやつがいた。

「誰だ?」

 そちらを振り返ると、学園の制服にぴっちりと身を包んだ男子生徒がいた。

「魔法学園5回生、ザッシュ・ケーンといいます。生徒会長をしています」

 ぴしりと自己紹介をして、頭を下げる。

 俺もつられて会釈する。

 マキをいじめていたメスゴ・リーラといい、昨日暴れたライ・オーンといい、ろくな学生がいないと思っていたのだが、きちんとした生徒もいるようだ。

 だが……。

 

(何だ?)

 このザッシュと名乗る生徒からは、嫌なムードを感じた。

 ことによると、リーラやライよりも剣呑な雰囲気だ。

「一つお願いがあって参りました」

「俺はただの用務員だよ。初対面の相手に、何かを頼まれるいわれはない」

「私たちは、あなたのことをよく存じています」

「トイレ掃除が評判なのかな」

 俺は奴の様子を探る。

 ――どこまで知っている?

「ライの攻撃を圧倒したそうですね」

「先方が勝手に転んだだけだ」

「生徒が暴走させたドラゴンを、高位魔法で消し飛ばしたとか」

「おおげさに言っているだけだ」

「――武術大会に、出場して欲しいのです」

「武術大会?」

 ザッシュは、一枚の紙を取り出した。

 

『魔法学園、創立祭! 武術大会開催!』


 そういえば、そんな祭りがあるらしいことは皆が言っていた。

 こちらは潜入捜査と雑事が忙しくて、それどころではなかったが。

 

「その大会に出場して、優勝していただきたいのです」

「なぜ、そんなことをしなければならない? 俺は忙しいんだ」

「この学園の暴れん坊、リーラとライがそこに出場します。そこで彼らを完膚なきまでに叩きのめせば、彼らがこの学園で横暴をふるうことはなくなる。学園が平和になるんです」

「君たちがやればいい。俺に頼るな」

「あなたは正義のために力をふるってくれました。今回もそうして頂けたら、この学園で勉強ができずに苦しむ生徒が救われるんです。どうかお願いします」

 深々と頭を下げる。

「我々は非力なんです」

「だからといって、人に頼るのは感心しないな。俺はただの用務員だ。いつクビになるかわからないんだ。俺がリーラやライを叩きのめしても、お前たちが自分でやらなきゃ、結局そいつらはまたいい気になるぞ」

「……謝礼はします」

「帰れ。まだ掃除が残っている」

 俺がじっと見ると、ザッシュはひるんだようだった。

「あなたが引き受けてくれないと、困るんです」

「尻尾を出したな」

 俺は笑う。

 はじめから、裏に誰かがいることはわかっていたんだ。

「あの人が、用務員に出てもらえ、って――」

「あの人とは?」


「私のことだ」


 トイレの入り口の方から、声がかかった。

「――ハイ・エーナ……」

 俺はそいつの名前を呼ぶ。

「用務員、ディーン殿。私からもあなたにお願いしたい。武術大会に出てくれ」

「断る」

「断ってもいいのか?」

 ハイ・エーナの唇が、いやらしく吊り上がる。

 わかっている。

 ザードとマキのことだ。

「ぜひ、出場してほしい。私からも頼むよ」

「……貴様らの思う通りにはならない」

「ディーン、君は武術大会に出場することになるよ」

 背を向けた俺に、そう声をかけて、二人は去っていった。

 

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