第26話 図書館で報告、正義の用務員、さらに噂に


「やりましたね! スカッとしましたよ!」

「……何もなくてよかったです」

 物陰から一部始終を覗いていたザードとマキが、喜んでくれた。

 図書館の準備室。

 ここは他の人間が寄り付かない。 

 昨晩ザードが話していた通り、図書館は学園から独立した組織だ。

 今のタヌーキ学園長や、キツーネ副学園長のやり方を気に入らない人間も多い。

 ひそかにワンズのシンパとして活躍している者もいた。

 そういった連中が、学園での俺たちをサポートするために、この場所を貸してくれたのだ。


「あのクソガキ、親の権威がなきゃ何もできないくせに、さんざん授業を邪魔しくさって!」

 ザードが怒りで顔を真っ赤にする。

 講師の仕事も楽ではないようだ。

「マキはその後、いじめられていないのか?」

「……うん。あのいやな人たちは来なくなった。仲のいい友達もできたし」

 俺はそれを聞いて、胸を撫でおろす。

 友達ができたのか。

 それならば、勉強にも張りがでるだろう。

 

「ところで、さっき図書館員の人から、こんなものを預かったのですが……」

 ザードがぴらりと、一枚の紙切れを差し出す。

 図書館員というと、ワンズの仲間だろうか。

「ワンズ様からの言伝みたいです」

 俺は、紙を開き、中を確かめた。

 

『初日の報告を聞いた。

 だいぶ、学園は荒れているようだな。

 ディーンも派手に暴れているみたいだが、なに、どうせ学園はいちから立て直さなければいけないんだ。

 いまのうちにゴミ掃除をしておいてもらえると助かる』

 

「ですって、ディーン! やっちゃっていいみたいですよ!」

「そういうわけにも、いかないだろう」

 なぜか俺のしたことが、筒抜けになっている。

 おそらくザードが張り切って報告したのだろう。

 

『ところで、何点か伝えることがある。

 1つ、ハイ・エーナという男に気をつけろ』

 

 ハイ・エーナ。

 先ほど俺に因縁をつけた相手だ。

 やはり、ただのキツーネの使い走りではないらしい。

 

『1つ、ハイ・エーナと関連して、生徒達が独自のグループを作って何かをしているらしい。

 そいつらの活動についても、わかっていることがあったら教えてくれ』 

 

 独自のグループ――ライの一味のことが、それとも昨日マキをいじめた連中か。

 だが、そいつらが特にワンズが気にするような、大仕事をしているようには見えないのだが……。

 他にそういう連中がいるのだろうか。

 

『それから、君たちの古い馴染みが、学園に来るらしい。

 どういういきさつか、タヌーキ側に雇われたらしいが……まあ、うまくやってくれ』

 

「ジーグたちが来るんですか?」

 露骨に嫌そうな顔のザード。

 本当に、どういう理由でくることになったのか。

 

 だが、この因縁のある学園で、また俺にかかわりのある人間が増えてくる。

 この学園で、俺は今までの人生の総括をせねばならないのかもしれない。

 

「『以上、君たちの健闘を期待している――ワンズ』だそうです」

 読み上げて手紙を処分するザード。

「大変なことになってきたな」

 俺が呟く。

「……お手伝いできずに、申し訳ありません」

 申し訳なさそうなマキ。

「マキはいいんだ。一生懸命勉強をしてくれ」

 俺は彼女に笑いかけ、そして窓の外を見た。

 離れた高台にある図書館棟、そこからは学園が一望できる。

 この学園には、マキのように勉強に熱意を燃やす人間もいるのだろう。

 ライが暴れていたクラスでも、本当は魔法の研究に集中したい生徒が我慢しているかもしれない。


 それならば、俺は彼らのために手助けをしなければならない。

 用務員としての、それが使命だ。

 

「ディーン、あんまり用務員として使命に目覚めるのも、どうかと思います」

 俺の心を読んだザードが、釘を刺す。


「あ、それと」

「なんだ?」

 ザードがウキウキしながら報告しようとする。

 俺は、嫌な予感を感じる。

 ザードが楽しそうなときは、大概ロクでもないことがあるときだ。


「謎の用務員さん、大分評判が上がっているみたいですよ」

「・・・・・・」

 やっぱり。

「なるべくおおごとにしたくないんだ。秘密の潜入調査だからな」

「でも、小さな子供たちがすごく噂をしていて。

 なんだかんだで、学園長と副学園長はそうとうヘイトを溜めているみたいなんです。

 用務員が、実はどこかから悪を倒すためやってきたヒーロー、なんていう話もあるみたいですよ」

「当ってるじゃないか」

「それだけ、ディーンに期待する人たちが多いってことです」

 うん、と力強く頷くザードとマキ。

「そんなに派手なことはしていないつもりなのだが……」

 俺は頭を抱える。

 早期解決するしかないか――。

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