第23話 スケバン共を撃退する
マキが数人の女子に囲まれていた。
「新入生のくせに、調子にのってんじゃねえよ!」
そのうち一人が、マキを突き飛ばした。
「……あ」
なすすべもなく、マキがよろける。
「あのな、このクラスのボスはアタシ、メスゴ伯爵家の一人娘、メスゴ・リーラなんだよ! どうしてアタシに這いつくばらないんだよ!」
「ご……ごめんなさい」
「よしなよ、メスゴ・リーラ。この新入り、礼儀なんかわかっちゃいなんだからさ」
もう一人の女子が、リーラと言われた生徒を止める。
「でもこの女、なまいきなんだよ」
「リーラ。この女の服を見てみる。ぼろぼろじゃないか。たぶん、下層市民のガキなんだよ」
「くっせえ下層市民のガキ!」
リーラとその周囲の少女たちが、そろって笑い声を上げた。
「ちょっと魔法知ってて、カワイイからって、ハイ・エーナ先生に色目使ってるんじゃねえよ!」
バキッ!
鈍い音がして、マキが吹っ飛ぶ。
「こ汚い孤児のガキに、礼儀を教えてやらなきゃならないな……」
「それくらいにしないか」
「誰だ!」
メスゴ・リーラたちが俺の方を見る。
「――用務員だ」
たまらず、飛び出してしまった。
マキが俺の姿を見て、驚愕の表情を浮かべる。
「見ない顔だね。新入りか?」
リーラが俺の方に、にじり寄ってくる。
「あんた、あたいのことを知らないらしいね。あたいはメスゴ伯爵の娘、リーラ。魔法クラス5年のトップで、この学園のバンを張らせてもらってる」
バンとはなんだ?
よくわからないが、文脈からして「不良のトップ」くらいのものだろう。
「用務員さん、この学園には、この学園のしきたりってものがあるんだ」
「そうなのか」
「あんまり新入りに、好き放題されるわけにはいかないんだよ」
ニタリと、歪んだ笑みを浮かべる。
「あんたも、初日から職を失いたくはないだろう」
「悪いけど、この現場を見過ごすわけにはいかない」
マキは必死でことのなりゆきを見守っている。
俺との関係性をにおわせるようなことはしない。さすがに聡明な彼女だ。
「コイツ、知ってるぜ!」
いじめに加わっていた女子の中から声がかかった。
「コイツ、この学校を追放させられたんだ! 学園始まって以来の、スキルなし野郎だって! 最高の落ちこぼれだって、キツーネの野郎が笑ってた」
「スキルなし野郎か!」
女子が一斉に、下卑た笑い声をあげる。
「用務員さん、悪いけどあたいたち全員スキル持ち、それもそんじょそこいらの男が使いこなせないような、凶悪なスキルの持ち主なんだ」
言うが早いか、リーラの右手に青白い炎がともる。
「這いつくばって許しを乞いな。それで二度とあたいらのすることに文句をつけるな。そうじゃなきゃ、初日から怪我するぜ」
「そういうわけにはいかないな」
「――じゃ、タイマンだな」
リーラの顔が嗜虐の笑みに彩られる。
「やっちまえ! リーラ!」
女子たちがはやし立てる。
「あたいの<火炎魔法レベル20>のシャドウフレアを食らいなっ!」
言うが早いか、リーラは突っ込んでくる。
右手の暗い炎が、一層激しく燃え盛る。
俺は動かない。
デッキブラシとバケツを抱えたまま。
抵抗しないと思ったのか、リーラは無防備にタックルを仕掛けてくる。
俺の間合いで炎の右腕を突き出そうとした、その瞬間――。
――バシャッ!
「なんだ!」
リーラの体が吹き飛ぶ。
俺のバケツからあふれた水が、リーラを弾きとばした。
同時に、彼女の炎も消し飛ばす。
もちろん、普通の水にこんな芸当はできない。
<水魔法レベル50>のウォーターレーザー。
きわめて細い水を噴射したのだ。
水を細くすれば、ダイヤモンドさえ切り裂くことができる。
厳密に操作された水は強力な武器になるのだ。
「はははは、リーラ、びしょびしょじゃないかよ!」
「だせえぞ、リーラ!」
「水、ぶっかけられてるんじゃねえよ!」
女子たちの間から、はやし立てる声が聞こえる。
「てめえ……今、何しやがった……」
リーラが怒りに瞳を燃やして、こちらを見る。
「べつに何もしない。俺はスキルがないからな」
「てめえ……」
「勝手に水に突っ込んだんじゃないのか」
「くそっ!」
再びシャドウフレアを発動するリーラ。
バシュウッ!
その炎が、宙でかき消される。
「な、なんだ?」
空気中に瀰漫した水粒子を魔法で操作して、消した。
無詠唱で発動したので気づかれなかっただろう。
「どうも君の炎魔法は、俺と相性が悪いようだな」
「チッ……」
憎々し気に舌打ちをするリーラ。
「これ以上、この学園でのいじめはやめるがいい。俺はどこでも現れて、君の魔法を無効化してみせる」
「この野郎……」
「君の部下とやらにも言っておけ。そこの新入生に限らず、この学園でいじめをするならば用務員が容赦しないってな」
「畜生! 覚えてやがれ!」
言って、逃げ出すリーラ。
「待っておくれよ!」
追いかける取り巻きたち。
あとに残される、マキと俺。
「……あの……」
「何も言わなくていい」
俺はマキに言う。
学園内では、だれが見ているかわからない。
俺たちが学園内で仲良くしていたら、潜入捜査であるということがばれてしまう。
それは、いろいろと都合が悪い。
だから、学園内では極力他人でいなければならないのだ。
「……」
マキはうなずく。
ルールを思い出したのだろう。
軽く会釈して、走り去る。
張られて、赤くなった頬が痛々しかった。
「――とんでもない学園だな、ここは」
俺は、肩をすくめた。
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