第19話 自宅で豪華な家で温泉と料理を楽しむ

「……わあ――――――!!!!」

 家に入るなり、マキが大声を上げた。

「……」

「……」

 ザードと俺は絶句した。

 家は完璧に磨き上げられていた。天井も壁も、つやつやと光沢を放っていた。

 おそらく木目は塗り直しているのだろう。

 梁も棟も、おそらく完全に掃除されている。

「家具や調度の、歪んだものは調整しておきました」

 メイド姿のBBが、こともなげに告げる。

「それから風呂は、根本的な改築が必要なので、根本的に改築いたしました」

「ディーン! お風呂が! お風呂が!」

 ザードが絶叫する。

 風呂場に入って、俺は驚いた。

 巨大な湯船が二つ。

 サウナ室も完備。

 露天風呂も大型のものが整っている。

「お風呂のお湯は、近くの火山に源泉があったので、引っ張っておきました」

 こともなげに告げるBB。

「火炎竜の住処から直送の温泉やで」

 イズミが得意そうに胸を張る。

「水風呂にジャグジー、電気風呂に薬湯まであります」

「古代文明におけるサナトリウムを忠実に再現いたしました」

 BBがこともなげに告げる。

 こんな豪華な風呂の設備をもっていたなんて――。

 古代人はどれだけ風呂が好きだったんだ――。

「すごい――ととのいますね」

 ザードが目をキラキラさせる。

「うれしそうだな」

「私、お風呂大好きなんです!」

 ぐっと両手を握るザード。

「たまに冒険のない休日などは、朝から晩まで温泉に逗留して、ぐだーっとお風呂につかったり、おいしいご飯を食べたり」

「古代文明『健康ランド』を再現いたしました」

「イェース!」

 こともなげに言うBBに、ガッツポーズを取るザード。

 たしかに、これだけ広かったら、周りの街の人などに解放してもいいかもしれない。

「個室! 個室はありますか、BB!」

「個室も完備してあります。ご家族やカップルで楽しめる小規模風呂、朝までの仮眠を取るのに相応しいカプセルルーム……」

「イヤーン個室なんて! ディーンと私が個室のお風呂でウフフなんて、そんな使い方をする訳ないじゃないですか!」

 BBの肩をどつくザード。

 金属の鈍い音がした。

「――マスター、ご不満な点があればご指示を」

「いや……なんというか、ザードが満足しているんだから、あれでいいだろう……」

「ありがとうございます。食事の用意ができています――」

「助かります」

 ザードが笑いかける。

 料理好きな彼女であるが、さすがに探索直後でいきなり料理を頼むのは心苦しい。

 BBも食事ができて、助かったかたちだ。


「いたただきまーす!」

 BBの用意してくれた料理を囲んで、俺たちは元気に声を合わせた。

 すでに日が暮れている。豪華な晩ご飯である。

「マスター達のお好みがわかりませんでしたので、ありあわせのものしかできませんでしたが……」

 BBが謙遜する。

 食卓には焼きたてのパンと、鍋一杯のシチュー、それから鳥の香草焼きやサラダがおいしそうな湯気を立てている。

 優雅な風呂を楽しんだ後で、俺たちは食欲に溢れていた。

 無我夢中で頬張る。

「……美味しいっ!」

 マキが喜びの声をあげる。

「下味がしっかりついていて、美味しいな」

 俺も素直に賞賛する。

 

 この間ザードの作ってくれたものとは違う、豪華な食事だ。

「ザードの料理は家庭的で、BBの料理はなんというか、レストランで出てきそうなものだな」

「……どっちも美味しいです!」

 マキが笑顔になる。

「野菜が多いので栄養たっぷり、明日からの探索に勢いがつきますね」

 ザードも笑顔になる。

「ザード様のお口に合いますかどうか……」

 謙遜するBBに、

「いろんな料理が作れるのは、冒険者にとっては大切なことなんですよ。

 冒険者なんて、まともなごはん食べられないのがあたりまえなんですから」

 

 冒険者の食事は、どうしても偏りがちだ。

 いざダンジョン探索などになると、食料がまともに手に入らないことも日常茶飯事である。

「それに前のパーティだと、ディーンは食料ももらえなかったりしましたものね」

 ザードが急に思い出したらしく、腹を立てている。

 たしかに、前のパーティで食料が減ってくると、俺は割り当てを減らされていた。

 なんのかんのと理屈をつけられて、半分くらいしか食事のないこともあった。

「別に俺は気にしていなかったが」

「ディーンはそういうところが迂闊すぎるんです。だからああいう連中につけいられるんですよ」

 怒りの様子を見せるザード。

 

 確かに追放される以前から、なんだかんだとちまちま陰口をたたかれたたり、嫌がらせらしきものを受けていた気もしていた。

 だが、もともとあちこちから追放されたりして、人並み以下の処遇には慣れているところがあったので、さほど気にしなかった。

「いちいち腹を立てていたら、身が持たないからな」

「器が大きいのか、鈍感なのか――」

 そう言ってザードは、鶏肉にかぶりつく。

 

「BB、今度一緒に料理しましょう!」

 ザードの提案に、うなずくBB。

「うれしいです」

 わざわざそういって見せるのは、無表情さを取り繕うためだ。

 

「そう言えば、勇者ジーグたちはうまくやってるのかな」

 俺はふと思い出す。

「失敗しちゃえばいいのに」

 さらりと暴言を吐くザード。

 環境が大きく変って、仲間も増えた。

 俺も、今の出来事について行くだけで手一杯だ。

 それでも、S級パーティのことや仲間のことを、なんだかんだで思い出す。

 今回は、過去に追放された学園に潜入することになったし、何だかんだ昔からはそう簡単に逃れられそうにない。


「元気にやってるのかな、ジーグ達は……」

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