第18話 新たな王族のクエストを受ける

作者です! 今日は14:00にもう1話公開いたします!



 ――ビイング街、冒険者ギルド。

 

「ひゃああああ! 何なんですか一体これエンシェントドラゴンどわあああああぁぁぁ」

 建物から飛び出してきたレイニーが、俺たちの姿を見てひっくり返る。

 ノーキンと戦った競技場が広かったので、発着エリア替わりに使い、俺たちはギルドにもどった。

 周りの連中が、びっくりしたようすで俺たちのことを見ている。

 それはそうか。いきなり街中に竜で乗り付けた訳だしな。

 

「イズミ、小さくなりなさい」

 BBの命令に、あいよっと小型化するイズミ。

「ではマスター、私たちは先にマスターの家へ戻り、掃除と洗濯、それに家事を遂行いたします」

 びしっと敬礼のポーズを取るBB。

「ちょっと……ギルドの仕事で得た貴重品は、ギルドのものになるのがルールで……」

 かろうじて意識を取り戻し、抗議するレイニー。

「『メイド・モード』に突入した私は、マスターにご奉仕するのが最優先」

 そういうと、BBの太股が開いた。

「推進機(スラスター)、起動!」

 バアアアアッッッ!!

 腿の穴が激しく光輝いたかと思うと、すさまじい熱が噴き上げた。

 BBは空に向けて射出される。

 白い軌跡を描いて、ドラゴンとBBは空の彼方へすっ飛んでいった。

 

「――とにかく、報告をお願いします……」

 かろうじてレイニーが、俺たちに言った。

 

 ギルドの応接間には、ワンズが座って待っていた。

「見せて貰ったよ。なかなか面白かった」

 笑いながら、俺たちに拍手を送る。

「未探査の遺跡を軽々と乗り越えて、エンシェントドラゴンを部下にして、古代のパペットゴーレムまで仲間にするなんて……まったくあなた方は、非常識すぎます」

 レイニーがぶつぶつ文句を言う。

「こちらは頼まれた王族のクエストをこなしただけだ」

「しかしまさか、ここまでの成果があがるとは……!」

 ワンズが感に堪えたように、うんうんと頷く。

 

「ちなみにBBの正体について、なにかご存じだったりしますか?」

「えーとですね」

 ザードの質問に、レイニーは検索石版を操作する。

「マニシュ古代文明における、最強兵器の一つだそうですね。

 全八体作られた中の一体だそうです。

 一体で、ひとつの国の軍隊に相当する戦力を保持していたのだとか」

 むちゃくちゃなことを言うが、BBのテレポートや飛行の能力を見せられた後では、納得できてしまう。

「マスターと認定した者の言うことは、絶対に聞くそうです」

「ということは、ディーンは一国の軍隊と同じくらいの戦力を保持してしまったわけですか」

 ザードが唖然として呟く。

「ディーン……本当に貴方は、私たちの想像の遙か上を行きますね」

「……ディーン様、凄い……」

 二人が羨望のまなざしを送ってくる。

 

「ち、ちなみにBBさんは、八体のパペットゴーレムの中で特殊な機体で、エーテル空間での継続作戦行動、自己回復治癒能力などの作戦遂行能力に特化した代物だそうです」

 レイニーが検索石板を読み上げてくれる。

「でも本人は、自分は追放されたって言ってたぞ」

「あまりに強力すぎる存在は、追放されるんじゃないでしょうか……はあ、ギルドの所属になってくれればいいのに……」

 ため息をつくレイニー。

「まあしかし、ここまでやってくれるとは思わなかった!」

 ワンズが手を叩いて、カラカラと笑う。

「BBは君たちの所有物ということでいいだろう。ドラゴンともども、君たちの自由にしてくれ」

「一国の軍隊に匹敵する兵器、ワンズ様は脅威に感じないのですか?」

 ザードの質問に、

「私はあまり、この国の行方など興味がないんだ。兄上や叔父上と違ってね。私と、私の好きな国民が平和であってくれればいい」

 軽く答えるワンズ。

 満足そうに頷くレイニー。


『興味がない』というワンズの答えだが、レイニーの話と綜合すると、彼女は生臭い政治的なやりとりからあえて距離を取っているらしい。

 王宮にこもって、策謀の道具になるよりも、あえて冒険者たちと交流して自分の道を探す。

 高潔な彼女に相応しい態度だ。

「ワンズ様は、国民の評判もすごくよくて、お兄様やおじさんよりも彼女に国をついて欲しい、なんていう話もあるくらいなんですよ」

 ザードがこっそり耳打ちする。

 

「――では、ディーン。王族のクエスト、二つ目を受けてもらいたいのだが」

 ワンズの目が細まる。

「内容を聞いてからにしてもいいか」

「勿論。今度は古代遺跡探索のようには行かないぞ。


 ――『魔法学園に潜入して、その裏でうごめく策謀を暴け』!」

 

 学園?

 

「学園に……潜入するのか?」

「そうだ。君たちしか、この任務を果たせるものはいない」

「……学園……」

 マキの瞳が輝く。

「ディーン、学園だったら私が案内できます! 知り合いもいっぱいいますし、とっても有利ですよ」

 ザードが俺の腕を捉え、ぶんぶんふる。

 だが……。

 

「申し訳ないが……この王族のクエストは、おろさせてもらう」


「「「「何故ッ!???」」」」


 俺の返事に、一同の声がキレイにハモった。

 

「何で受けないんですか、ディーン! 学園なんて、私の庭みたいなものです! ぺぺっと解決して、ディーンの名前をもっと世界中に広めるチャンスじゃないですか」

「……学園、行ってみたい……」

「ギルドマスターとして命じます! キリキリ働いて、名誉、栄光をこのギルドにもたらしてください! ディーンさんならできます! ささっ!」

「――わけを聞かせて貰ってもいいか、ディーン」


 詰め寄ってくる四人に、俺はこう答えた。

 

「いやな思い出しかないんだ。

 俺は――あそこも『追放』されている」

 

 ビイング魔法学園。

 魔法使いを養成する学校。

 大陸でも最大規模をほこり、あちこちから極めて優秀な魔法使いの卵がやってくる。

 6年間の修練の後、優秀な成績を残した者は、王国の主要な地位や学園の研究者など、華々しい未来が用意されている。

 

 俺がノースキルであることが判明したのは、学園で三年間を過ごした頃のことだ。

 14歳になると、スキルの神殿でスキルが覚醒し、魔法の才能を開花させるものが増えてくる。

 それまでは魔法の勉強といえば、テキストを読み、実践すること。

 努力によってみなが達成できる。

 だが、才能の差は残酷だ。

 それまで何の努力もしてこなかった、サボりの生徒がスキルを覚醒させ、まじめにこつこつ取組んでいた人間をあっという間に抜き去るさまを、俺は何度も目の当たりにした。

 教師たちが、こぞってスキル持ちの生徒を褒めそやし、持ち上げる様。

 スキルを覚醒できなかった優等生たちが、見捨てられる様。

 そうした残酷な姿を、まのあたりにさせられたのだ。

 

 ――そうして、ノースキルの俺も、家から追放されるとともに、学園から追放されることになったのだ。

 

「――あそこには、いい思い出がない」

「ディーン、でも今の貴方は、あのころとは違う! <追放>のスキルも、高度な魔法のスキルも持っている!」

 ザードが俺の両肩をがっしりと持った。

「……」

「リベンジしましょう! あのころ自分を辱めた相手を、見返しましょう! クソ野郎どもに、自分の立場を思い知らせましょう」

「悪いけど、興味はないな。俺は復讐のために、自分のスキルを使う気はない」

 そうだ。

 きっと今頃、俺を追放した勇者たちのS級パーティも、俺の代わりを見つけてよろしくやっているのだろう。

 俺は、俺のスキルを磨きながら、悠々自適のスローライフでやっていきたい。

「クエストの内容が、学園潜入じゃなければ、人助けもやぶさかではなかったのだが……」


「……学園……」

 その時、マキのつぶやきが聞こえた。

 俺は、はっとした。

 マキは、学園に行ったことがない。

 いや、おそらくまともな境遇で教育をうけたことがないだろう。

「マキは、学園に行ってみたいか?」

「……うん。そういうところいったことがないから……ちゃんと勉強してみたい、です……」

 おずおずと自己主張する。

 普段おとなしく、あまり自分の事を言わないマキが、こうはっきり自分の意思を主張するのはめずらしい。

 

「私たちには、学園に通ったり勉強することは普通のことだったりしたのかも知れませんが……」

 ザードがこちらを見る。

「考えてみれば、とても恵まれたことだったのかも知れませんね」


 俺も、貴族の子供として学園に行くのは当然のことと考えていた。

 結局のところどちらも追放されてしまったが、そもそも通えていただけ凄いことなのだ。

「学園に通えない子供達に、私塾を国が援助して開校しよう、なんていう動きもあるにはあるのだが、なかなか実現が難しくてね」

 ワンズが、マキにすまなそうに言う。

 王族の一人として、責任を感じているということか。

「兄たちも、自分のことばかり考えず、もう少し市民の幸せのために力を尽くしてほしいものだが」

 

「――わかった。『学園潜入』の王族クエスト、受けよう」

 俺が宣言すると、皆が驚いた顔をした。

「その代わり、マキは学園の生徒として潜入してもらう」

「なるほど!」

 ザードが頷く。

「……私が、生徒になれるんですか?」

 マキが怪訝そうに聞く。

「成程。潜入捜査か――私やギルドの名目で捜査するよりも、学生になって入り込むほうが、より実情が鮮明になる」

 ワンズが頷く。

「すごいです! さすがはディーン」

 ザードが賞賛する。


「これでマキも学園に通える」

「……ありがとう……ございます……」

 目を潤ませて感謝してくれる。

 こんなに喜んでもらえるとは思わなかった。

「……でもそうすると」

 ザードが手を上げる。

「マキは学生でいいと思います。でも私やディーンはどうすればいいですか?」

「せっかくだから君たちにも潜入してもらおう」

「どういう形で潜入するかは、ちょっと調べてみますねー」

 レイニーはそう言って、石版を操作しながらチェックを始めた。

 

 魔法学園は、外部とあまり交渉がない。

 閉鎖的な空間なのだ。

 だが年に数回は、たとえばベテランの冒険者を招いて講演をしたり、魔法研究会を開いたりする。

 そういうきっかけが作れれば、学園に入ることは可能だろう。

 だが、がっつりと内部の人間になれるのなら、より行動の自由は増す。

 クエストの遂行もしやすくなるだろう。

 

「――では、明日またギルドに来てくれ。より詳しい内容を伝える。

 潜入の方法も、その時に伝えられるだろう」

 ワンズが言った。

「じゃあ、今日は家へ帰るか」

「BBが掃除や家事をしてくれてるそうですよ。たのしみですね!」

 ザードが明るく言う。


「古代遺跡での君たちの活躍は、信じられないほど素晴らしいものだった。今回の魔法学園に関する王族クエストも、君たちでなければ達成できないだろう。

<追放>の冒険者達、君たちの名をあげるチャンスだぞ」

 ワンズが笑顔を見せる。

 あまり俺としては、自分たちの評判が高まるのは好きではないのだが……。

 まあ、必要としてもらえるのなら、力を尽くそう。マキのこともあるし。

 

 そうして俺たちは、ギルドを後にしてBB達の待つ我が家に向かった。

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