第16話 遺跡の奥で古竜と激突

――古代遺跡マニシュ、最下層。

 

「割合とスムーズに進みましたね」


 マップを見ながら、ザードが言う。

 ギルドから借りた、自動書記モードの地図は、俺たちの進む通路を勝手にマッピングしてくれる。

 いちいち書き取る必要のない優れものだ。

 

 遺跡を探査するにあたって、可能な限りの準備はしておいた。

 地図の入手、モンスターの情報、罠の分布……。

 罠の種類や分布は、そのダンジョンの性格により大きく異なる。

 特に探索されない古代遺跡などは、とんでもない仕掛けの魔法罠などが存在することがある。

 用心するに越したことはない。

 普段冒険者ならだれでもするような準備のほか、念には念をいれて、体力回復のエリクサーなども大量に用意しておいたのだが……。


「結局無駄になっちゃうかもしれませんね」

 ザードが、ちゃぷちゃぷエリクサーの瓶を振りながら言う。

 考えて見れば、回復力なら最高レベルのアークプリーストがいるのだ。

 自分も、大量に<追放>から戻ってくるスキルのなかには回復系のものがある。

 この上で、体力回復のアイテムはやりすぎだったかもしれない。

 

「……今までの探索者が、だれも帰ってこないって言っていたのですから、準備をしすぎてしすぎることはないですよ」

 マキがフォローしてくれた。

「そうだね。ありがとう」

「このエリクサー、飲んでもおいしいんですよ。シュワッとして」

 赤色のエリクサーをふりふり、ザードが楽しそうに言う。

「地上に戻ったら、お酒で割って飲みましょう!」

 ご陽気な様子のザード。

 前人未踏の遺跡、その最下層だというのに緊張感がまったくない。

 料理好きな彼女、エリクサーの美味しい飲み方も詳しいのか。

 

(いや、ダンジョン最下層にたどり着いても、緊張せず普段の平常心を忘れないようにしよう。

 そういうことが言いたくて、おそらくおちゃらけているんだ。

 そういうことにしておこう……)

 

 

「マキ、疲れはないか」

「……大丈夫です!」

 マキが快活に答える。

「このパーティになって初めての本格的なクエストだもの。緊張してない?」

 ザードの問いに、

「……こんなにいろいろなことを任されるの、初めてだったから……」

 素直に答えるマキ。

 今回の遺跡探索、中盤からはマキを主戦力に使っていった。

 最初のうちこそ、王族クエストの超難易度ダンジョンということで、俺とザードが前衛を張っていたのだが、<追放>とアークプリーストの防護呪文を使ってバトルをしていった結果、それほど苦労せずとも進めることが判明した。

 なので中盤からはマキが主体となって攻撃をしかけ、俺とザードは彼女を助ける方向に回ることにした。

 やはり彼女は、まだまだ戦闘に慣れていない。

 単純な経験値にしても、俺たちに比べまだまだ少ない。

 なるべく多く戦闘を経験して、魔法使いとして成長して欲しかった。

 

「リップルレーザー!」


 マキの手のひらから放たれる光の条が、人型ゴーレムを貫く。

 レーザー。火力を集中させて、相手を貫いて倒す魔法。

 大爆発を起こす派手な魔法ではなく、見た目はそれほどでなくても状況に適応した魔法で相手を倒していく。

 魔法を使い分ける能力も、魔法のバリエーションも、成長が著しい。

 マキの努力のたまものだった。

 

「よく頑張ってるな!」

「……えへ、えへへ……ディーン様のお役に早く立ちたくて……」

 頬を赤らめて笑うマキ。

 

 そんなわけで、探索はとても順調に進んでいた。

 

「どうやら、ここが最深部のようですね」


 ザードがひとつの扉を指示する。

 マニシュ遺跡の奥に、ついにたどり着いたのだ。

 

 ちなみに、なぜはじめてやってきた遺跡で、最下層だとか最深部だとかわかるのかという疑問もあるだろう。

 あからさまだからだ。

 それまでは細い道の入り組んだ道だったのに、急に開けた石造りの道になった。

 魔力による間接照明が辺りを照らしている。

 ところどころレリーフの彫られた通路は、それだけで美術品と呼んでもよいほどの豪華さ。

 どう考えても、最下層だ。

 

 そこに、巨大な象龕のしつらえられた大がかりな両開きの門。

 どう考えても最深部。

「ボスモンスターが待ってますよ、といわんばかりですね」

 ザードが呟く。

「どうします?」

「行くしかないだろう」


 手で触れると、扉は音もなく開いた。

 門から中に入ると、そこは巨大なドーム。

 暗い部屋の奥に、巨大な影がうずくまっている――。

 

「「「ドラゴン」」」


【種族名:エンシェントドラゴン】


 いつの間にか習得していた俺のスキル<モンスター鑑定>が、相手の名前をはじき出す。

「エンシェントドラゴン……竜系の最強。千年単位で生きる、神にも等しい力を持った竜……と言われています」

 ザードが解説を入れてくれる。

 

 ドラゴンはこちらの気配を感じたのか、ゆっくりと鎌首をもたげ、両の瞳をギラリと光らせる。

 その周囲に、電光が走る。

 

「竜語魔法! 気をつけて!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る