勇者に追放された男、何でもこの世から消滅させるスキル「追放」で古竜も一撃で倒し、王家専属のSランク冒険者に成り上がる!〜今まで魔物もダンジョンの罠も全部俺が消していたって、ちゃんと説明したよね?
第15話 [ざまぁ回]元のパーティ、ディーンがいなくなってざまぁされる
第15話 [ざまぁ回]元のパーティ、ディーンがいなくなってざまぁされる
作者です! 応援ありがとうございます! ざまぁ回、普段の3倍あります……。
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「一体どういうことなんだ!」
悲鳴に似た声が、ダンジョンに響いた。
ディーンとザードの抜けた、S級パーティ達。勇者ジーグに戦士ボラン、魔法使いレフ。
彼らは、ずいぶん格下のはずの相手に、すさまじい苦労を強いられていた。
「……これが、S級パーティっすか?」
あからさまにバカにした様子でため息をつくのは、エグザ。
ザードとディーンの穴を埋めるべく補充されたハイプリーストだ。
* * *
時は遡る。
「何だって? ディーンだけじゃなくて、ザードもパーティを出て行ったのかよ!」
大声を上げる戦士、ボラン。
「いいじゃないの、あんなバカ女。どうせ、あたし達の力なら、回復なんて必要ないでしょ」
冷酷に言い捨てるレフ。
「そうだ。俺の言うことを聞かない女は、パーティにはいらない。どのみち、あの女も追放しようと思っていたんだ」
ジーグがふんぞり返る。
ディーンとザード、二人の去った後の酒場だ。
「クソッ! 理屈ばっかりの小生意気なガキだったけど、いい女だったんだよな。とっとと犯して、そのあとぶん殴れば言うことを聞かせられたかもなぁ」
悔しそうなボラン。
この男の、スケベで女性に暴力を振るうクセは、皆が知っていたが、だれもが黙認していた。
なんといっても、彼はディーンとは違う、有能な戦士なのだ。少しぐらい人格が壊れていても、無能よりはマシだ。
「だがまあ、好都合といえば好都合だな。実はディーンの後釜に考えていたのは、回復職なんだ」
そう言って、勇者は一人の少女を迎え入れる。
「どうも! エグザと言いますっ!」
別室のカーテンを開けて、ぴょこんと飛び込んできたのは、快活そうな短髪の少女。
「自分、エグザっていいます。職種はハイプリーストですけど、戦士系のスキルも揃っていますので、何でも言いつけてください!」
頭を下げるエグゼ。
「どうだ。どこぞの無能とは違うだろう」
満足そうな勇者ジーグ。もしザードがパーティにいたら、回復職が二人になってしまうという計画性のないところには触れない。
「けっ、若い女ね。せいぜいアタシの邪魔をしないで頂戴」
自分より綺麗な女の子とみて、一気に不機嫌になるレフ。
あからさまに失礼な態度に、笑顔で答えるエグザ。
「げへへへ。いい女だな。俺、ガキもいけるぜ。こんど一緒にどうだ?」
さっそく陋劣な笑みを浮かべるボラン。
「おい、ボラン。いい加減にしろ。そういうのはまず、勇者が味見をするもんだ」
声を潜めて、下品な事を呟くジーグ。
今後の冒険だのに一切関係のない、私情を隠そうともしない一同。
「――で、こちらの方がディーンさんですか?」
あっけらかんと聞いたエグザに、一同が凍り付いた。
「――ディーン? なんでその名前を知っている?」
「え? 有名じゃないんですか?
私のお兄ちゃんが言ってましたよ。『特殊なスキルを使う、凄腕』って。スキルなんて持っていないのに、謎のパッシブスキルを使いこなすって」
頬を紅潮させ話すエグザ。
「私、兄とか兄の仲間からディーンさんの話を聞くたびに憧れてて! S級パーティに欠員が出たって話を聞いたから、真っ先に手を上げたんですよ。うれしかったな!」
笑顔を満面にする。
「あと、ザード様? 実は私、ザード様の後輩なんですよ。学院で伝説を作った奇跡の聖女――最年少でアークプリーストになった才女ですからね。
いや、二人の伝説がいるパーティに参加できるなんて、私はラッキーです!
……で、二人はどこにいるんですか」
エグザの言葉に、パーティの三人は沈黙を守るしかない。
「なんで、そんな評判が出回ってるんだよ、あの無能に!」
酒場のテーブルをたたき割るボラン。
とりあえず自分の部屋にエグザを引き取らせたあと、三人は今後について話し始めた。
「あれじゃない? 私たちが王族に招かれたとき、ディーンもついていったじゃん」
酒を間断なく飲み続けるレフ。
「俺たちが招かれたのに、あいつものこのこついて行った時のことか」
勇者ジーグがいう。
彼らに都合よく記憶が書き換わっているのだが、むろんそのことを指摘する人間はいない。
「あの時よ。あの時。あることないこと吹聴して、王族とかに取り入ろうとしたんじゃない?」
「成程な。狡猾なやつだ」
「違いない! こんど会ったら、ぶん殴ってやらなきゃな!」
勝手な憶測で、ディーンを悪者にする三人。
実際はあることないこと吹聴して、なんとか自分を売り込もうとしたのは自分たちだったのだが。
「しかし……あのハイプリーストの娘? あれも使えなさそうね」
レフが嫌な目線を送る。
「まあ、そう言うな。だめならまた追放すればいい。とりあえず手頃な迷宮にでもはいって、俺たちのすごさを、思い知らせてやろう。ディーンやザードのことなんか、二度と言葉に出せないようにな」
「もしあの女をパーティーから外すんなら……俺に言ってくれ。ちょっと楽しみたいぜ」
勝手に盛り上がる三人。
そして、Sランク冒険者からすれば、格落ちのダンジョン探索の仕事を引き受けた。
ここでエグザに、自分の立場をわからせて、今後奴隷のようにこき使う。
そういう、勇者の算段だったのだが……。
「敵が多すぎる!」
悲鳴が上がる。
「通用しない――アタシの魔法が!」
驚愕の声が響き渡る。
「どうしたんだ――いったい」
呆然としたつぶやき。
それを見つめるエグザ。
瞳の色は、驚愕から困惑――そして失望、嘲笑へと変わっていく。
ダンジョンレベルは【B】。
そこそこ場数を踏んだ冒険者ならば、なんなく踏破できる難易度である。
「まあ、新入りは最初は見ていろ」
入り口では、勇者は自信満々にそう宣言した。
最初の段階で、力の差を見せつける。
モンスターを圧倒して、エグザをびびらせる。
そういう算段である。
(すごい――私なんて全然かなわない! さすが勇者様!)
(思い知ったか、俺たちの力!)
(ディーンなんて雑魚や、ザードみたいな勇者様になびかない朴念仁なんて、ものの数じゃありません!)
(ははは、お前はあいつらと違って、ものわかりがいいな!)
(勇者様、奴隷にしてください! パーティメンバーなんておこがましい! 私は貴方に全てを捧げる奴隷なのです!)
(そうかそうか、ボランにもいずれくれてやるが、当面お前は俺の世話係だ! 帰ったら俺の好物のプリンを用意しておけ!)
(ああ……なんという幸運、なんという幸せ……勇者ジーグ様、好きにしてください……)
そういった、都合のよい妄想に浸っていた。
だが、初手からモンスターの巣に踏み込んでしまった。
「な、なんだこのモンスターの数は!」
「い、一旦退くぞ」
「後ろも囲まれているわ! 逃げ道はない!」
「ちくしょう!」
普通ならば、罠探知を綿密に行い、危険な巣やトラップは回避しながら進む。
だが、そういった地道な作業は、すべてディーンが行っていたのだ。
スキルのないまま、ただ根性で物理トラップを解除。
魔力の罠は、ザードに協力してもらって回避。
そうやって、勇者達が気づかぬままに、安全にすすんでいたのだ。
実は勇者達がムリに進もうとしたときは、ディーンが無意識にパッシブスキル<追放>を発動させて、罠を吹き飛ばしてもいた。
だが、当時はそんな能力を持っていると知らなかったディーンは勿論、他の勇者パーティも、そんなことに気づきはしない。
ともあれ、ディーン自身も知るよしのない、二重三重の念入りなトラップ解除により、勇者パーティは安全に進んでいたのだ。
ダンジョンレベル【B】とはいえ、それは普通レベルの警戒を払って進むというのは前提。
最低レベルの注意すらせず進もうとした勇者達は、危機に直面することになる。
「くそ、いくらやっつけてもキリがないぜ!」
「呼子、呼子を踏んでる! アラームを鳴らしていると、他のモンスターが寄ってくる!」
「こんなの、アタシの炎魔法で一撃だから……」
「ダメだ! あの<カエンムシ>は火属性攻撃を受けると、パワーアップする――うわぁ!」
勇者のアドバイスに耳を貸さず、レフは火球をぶっ放す。
紅蓮の炎と黒い煙から、巨大な影が揺らめく。
「な、何よ、コイツ!」
本来は取るに足らない雑魚敵の<カエンムシ>は、加減を知らない馬鹿力のファイアーボールによって、巨大な<ワーム>(地虫龍)ほどにも成長していた。
殺戮の歓喜に身を震わせた巨大虫は、愚かにも自らにエネルギーを注入した魔法使いに飛びかかる!
「わあああ……た、助けて……」
「逃げろ、逃げるんだ!」
「待ってください、仲間の魔法使いさんが……」
「そんなのほっとけ、命が大事だろう!」
慌てふためいて逃げる勇者ジーグと戦士ボラン。
どこをどう走ったのかわからない。
気がつくと、ダンジョンのよほど奥まったところまで来ていた。
「くそ、どうしてこうなっちまったんだ!」
勇者が毒づく。
「こうなったら仕方ねぇ。一旦戻ろうぜ」
ボランが呆然として呟く。
彼らにしてみれば、信じられない敗北だった。
これまで連戦連勝の彼ら、こんな手痛い失敗は初めてだった。
ハタから見れば、至極当然な敗北であるが、むろん本人達は気づかない。
「レフと、あの新入りはどうした?」
「もう、死んじまっただろう。レフはカエンムシにボコられていたし、新入りもレフを助けようとしてたから」
「バカだな。自分まで死ぬことはないだろう」
「ああ、いい女だったのにな! どうせ死んじまうなら、一発やってからのほうがよかったな」
「――生きてますよ」
絶対零度の声が響く。
勇者と戦士が振り返ると、レフを背負ったエグザがこちらを見ていた。
「お前、どうして生きて――」
「<防護>の魔法で耐えたんです。ザード先輩の十八番ですよ」
言葉の交わしたくないという様子で、レフをドサリと下ろすエグゼ。
「いやあ、生きていてよかった! 俺は信じてたぞ!」
「もういいですから、ディーンさんに会わせてください」
冷たく言い放つエグザ。
黙り込むザード。
「もう探索は失敗でしょう? とっとと引き返してくださいよ」
「……」
「ディーンさんとザード先輩は、療養しているんですか? これ以上、皆さんと冒険する気はないです。もともと、ディーンさんに会うためにパーティに参加したんですから」
「――あ、あの、それは……」
「まあ、ここで話していてもしかたないですね。街に戻りましょう」
手を差し出すエグザ。
「マップ、見せてください」
「え?」
「地図ですよ。冒険者ギルドで受け取っているんじゃないですか?」
ダンジョンレベル【A】以下の、踏破済みの迷宮は、ダンジョンマップが支給される。
それまでの冒険者たちが手に入れたさまざまな情報が記されている。
当然、ダンジョン踏破には必須のアイテムだ。
だが……。
「ない……」
「はあ?」
すべて、ディーンが用意していた。
勇者達は雑用をすべてディーンに押し付けていたため、そんなものの存在すら知らなかったのだ。
「じゃあ、どうやって帰るっていうんですか……」
「いつもは、帰ろうとすると、一直線のトンネルが開いていた――そこを通れば帰れたんだ」
いうまでもなく、ディーンの<追放>の能力である。
「……」
「そういうもんだと、思っていた」
「じゃあ」
「帰る方法は……ない」
エグザの顔が、絶望と憤怒に彩られた。
彼らS級パーティが、ダンジョンレベル【B】の迷宮からからくも脱出できたのは、それから4時間たっての事である。
低レベルのモンスターを軽くひねって、財宝を手に脱出する初心者パーティに保護されたのが幸いであった。
勇者パーティは嘲笑を浴びながら帰還、ギルドに冒険結果を報告することもなく、酒場で休息をとることにする。
当然、雰囲気は最悪だった。
「くそ! なんでこんなことになったんだ!」
ダンッと、酒の杯を卓に叩きつける勇者。
エグザは自室にこもったきり、出てこない。
「ディーンさんとザード先輩が来たら、呼んでください」と言い残して。
「ああ、エグザたん、いい女だったのに……」
天を仰いで悔しがるボラン。
「あいつよ……あいつが余計なことをするから……」
ひたすら管をまきつづけるレフ。
どうみても、S級パーティの風格などはなかった。
「こんなふうになったのも、ディーンのせいだ!」
勇者が大声を上げる。
「そうだ、あいつが俺たちをハメた!」
「わざとわたしたちをおとしいれようとしたんだ!」
「くそ、ディーン……なんて卑劣な……」
「きっとザードも、ディーンの野郎にコマされて、したがわされているに違いないぜ!」
「あのブタビッチ、好きそうな顔をしてたもの! ディーンみたいな少しイイツラしたガキに、ホイホイだまされたのよ」
「どこまでも汚い野郎だぜ――ディーン……」
自分たちの失敗を棚に上げて、その場にいない人間にすべてなすりつける三人。
「許さんぞ……必ず、この屈辱を晴らしてみせる……」
勝手に他人を恨んで、自分を正当化する。
ある意味で幸せな連中だった。
――その時。
「勇者ジーグどのは、おられるか!」
酒場の扉が開かれた。
「いかにも俺が勇者ジーグだが、何の用だ?」
勇者と呼ばれて、それまでの恨みとひがみに凝り固まった様子を即座に取り繕う。
「命令である! 即刻パーティを連れ、王城に参られよ!」
ひらりと羊皮紙を見せる。
「何だ……いったい?」
怪訝な顔をする一同。
「お前達のS級パーティの実力を見込んで、王族のクエストが発動される予定だ」
それを聞いて、目を丸くする一同。
「おい、王族のクエストだぞ!」
「受けない手はないわね!」
「フフフ――くだらない罠にはまる寸前だったが、やはり勇者は、いつの世も放ってはおかれないということか」
毅然と胸を張るジーグ。
「王がお前達に直々にお会いになると言っている。すぐに準備をしろ!」
「慌てるな。勇者は準備に時間をかけるのだ」
「おい、運気が向いてきたぜ!」
ボランが笑う。
「あのクソ生意気なガキは、置いていっていいかね」
レフが顔を顰めて、エグゼを罵る。
「いや――連れて行こう」
口角をゆがめる勇者。
「こんどこそ、俺たちの力を知らしめる番だ。王に懇意にされている俺たちの姿を見れば、俺たちのことを見直さずにはいられなくなる」
(すごい、王様にこんなに信頼されているなんて! 勇者ジーグ様、なんて素敵な方!)
(ははは、見たかエグゼ。ディーンの妨害がなければ、ざっとこんなものだ)
(ああ、クソ野郎の妨害魔のディーンのことなんて忘れてしまいました! 私は貴方の奴隷! 今すぐ抱いてください!)
またも都合のよい妄想で、薄ら笑いを浮かべるジーグ。
彼らの凋落に、また一段と拍車をかける『王の前で赤っ恥』事件は、こうして幕をあけようとしていた。
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