第14話 街はずれの別荘で一休み
Aプラスランクの冒険者の特権として、街の離れに別荘を用意してもらった。
「とりあえず、今日はここで休み、明日出発するようにしよう」
「わーい、ディーン! 一緒に寝ましょう!」
ザードがはしゃいで、枕を持ってくる。
「女子の部屋は別に用意してある」
「マキはそっちで寝ましょうね」
「戯れ言は明日でもできるだろう――マニシュ遺跡は手強い。ゆっくり身体を休めるべきだ」
「ぶうー」
ザードはむくれて、自分の部屋にもどる。
なんだか、もとのパーティを抜けて、急速に子供になっているような気がする……。
「簡単な炊事場がありますね……」
ザードがかまどの方に立って、火を起こす。
「……料理できるんですか? ザードさん……」
興味深そうにのぞき込むマキ。
「明日も早いんだから、簡単にパンと干し肉でいいぞ」
「料理、してみたいんですよ」
どこからか取り出したエプロンをまとって、ザードが笑う。
「前のパーティだと、なかなか披露する機会が無かったので……」
へえ。
俺は感嘆する。
ザードが、料理が得意だったとは。
「長い付き合いになるけれど、ザードが料理ができるなんて、知らなかったかな」
「食べてほしい相手が、いましたから」
なぜか恥ずかしそうに言う。
「干し肉の古くなったのを削ぎ落せば、だしになりますね……」
ナイフを器用に使って、肉片を鍋の中に投入する。
良い香りが漂う。
「……わあ」
マキの顔に、笑顔が広がる。
「実はこんなこともあろうかと、市場で野菜と木の実を買ってきたんです」
手際よく野菜の皮を剥いて、みじん切りにする。
トントントンと、心地よい音が響く。
「……すごい。お母さんみたいです」
マキが呟く。
確かに、ザードの手際のよさは、どこか懐かしい感じがした。
材料も、設備も整っていないので、凝った料理ではない。
それでも、残り物を使って、工夫をこらしていく。
食べる相手の事を考え、一生懸命作る。
ザードの料理は、家族に対する愛情のこもった料理を思わせた。
「はい、召し上がれ!」
皿に出されたのは、これでもかと具の詰め込まれたスープ。
あたたかい湯気が立っている。
「「「いただきまーす!」」」
俺たちは三人で手を合わせる。
「……美味しい!」
マキがスプーンで口に運んで、驚愕の声を上げる。
「素朴な味だな。でもうまいよ。
なによりこの短時間で、これだけのものを仕上げるのがすごい」
「え、えへへへ」
ザードが顔を真っ赤にして、照れる。
「なんか、回復魔法を褒められるより、うれしいですね」
ザードの言葉に、皆が笑う。
「じゃあ、マニシュ遺跡を攻略して、報奨金でもっとすごい食材を買おう」
「調理器具も、もっといいのがあれば、いろいろ作れます」
「……ザードさんの料理、もっと食べたい……」
思わぬところで、意気が向上した。
料理の力は、すごいものがある。
「ただ……私は冒険者が本職ですからね……」
ザードが呟いた。
たまに趣味程度で腕を振るうのならまだしも、毎日料理の準備をするのは大変なのかも知れない。
「……私も、手伝います……」
マキが呟く。
「何らかの、家を管理したり食事を作ったりしてくれる人は必要かも知れないな……」
「じゃあ、食事も終わったので、一緒に寝ましょうか、ディーン!」
「あっちが女子の部屋だ」
「軽いジョークじゃないですか、ひどい!」
笑いながら去っていくザード。
「……失礼いたします」
上目遣いで頭を下げて去っていくマキを見送って、俺は自分のベッドに横になった。
天井に開けられた天窓から、俺は星空を見る。
この数日で、いろいろなことがあった。
今までは、勇者の命令に従うのが精一杯だった。
ザードが、食事なんて作ったことが無かったなんていっていたが、たしかに休暇なんてなかった。
こんな心が落ち着いて、冒険に臨むことなんて初めてだ。
(元のパーティか……)
天井を眺めて、俺は以前の事を思い出す。
そう言えば、元のパーティの連中は、どうしているのだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます