第13話 王族のクエストを受ける

「ああ、そうだ。

 君たちAプラスランクの冒険者に、我々王族から直接に下されるクエストを受けて欲しい」

「王族のクエスト?」

 ザードが声を上げる。

「そうだ」

 ワンズが頷く。

「王族直属のクエストといえば、S級パーティでさえそうそう受けることのできない貴重なクエスト」

 聞いたことがある。

 王族のクエスト。

 王の権力や、国の秘密に関わるような重大な内容があるという。

 そんなものを、俺たちが受けるのか?


 

「そう、かたくならなくてもよろしい」

 ワンズが笑う。

「私は第三王女の暇な身分なのでな。退屈にあかせて、いろいろな探索などに首を突っ込んでいるのだ」

「そう。それで、君たちに特にお願いしたいクエストが二つあるんだ。

 一つ『マニシュ遺跡の探索』。

 そしてもう一つ『魔法学院の調査』」

 

「――ッ!」

 ザードが言葉を失う。

「……ザードさん、なにかご存じなのですか?」

 マキが訊ねる。

「『マニシュ遺跡』と言えば、古代文明の大規模な遺跡の一つ……いまだ探索の手が届かない危険極まりない場所と伺っております」

「新たなフロアが、調査により見つかった。その探査をお願いしたい」

「――私たちに、できるのでしょうか……」

 ザードが不安そうな面持ちをあげる。


「君たちにしか、できない」

 ワンズが、きっぱり言い放った。

「先ほどの試合を見て私は確信した。この仕事、君たちだけができる」

 

 俺は考える。

 そうまで信頼してもらえるのはうれしかったが、何の知識もなく向かうには危険すぎる。


「――他の情報はあるのか?」

 俺の言葉に、ワンズは暗い表情を見せた。

「ない。調査隊は『遺跡に新たなフロアを見つけた』との報を最後に、連絡を絶った」

「……」

「その後、何組かの冒険者に当ってはいるものの、帰還者はゼロだ」

「……」


「強制はしないぞ。危険極まりない任務だ。

 だが同時に、君たちでなければできないものでもある。

 遺跡のフロアで手に入ったものは、基本的に君たちのものでよい」

「貴重なものは、ギルドと共有してもらえるとありがたいですよ~」

 レイニーが口を挟む。

「……危険な任務ですね」

 ザードが、ぐっと両手を握った。

「王族のクエストだからな。だが、君たちならやってくれると信じている」



「――引き受けない訳にいかないだろう」

 俺の言葉に、一同が振り向く。

「王女様が、そこまで言ってくださってるんだ」

「助かる。さすがはディーン。そう言ってくれると、思っていた」

 ワンズが笑う。

「そして、あともう一つのクエストは……」

「それも、後で話そう。こちらも危険な任務だ……あとはレイニーから説明させる」

 そう言って、ワンズは席を立った。

 

「……ワンズ様は、いろいろ大変なのです」

 ワンズが去った後、レイニーが話し始めた。

「ビイング王国の現状についてはご存じですか?」

「――さあ、一般の方が知っている以上は、あまり――」

「王族が、少々もめているのです」

 レイニーが声を潜める。

「王家なんて、もめるのが普通じゃないのか?」

「ワンズ様のお兄様――フィールズ殿下と、嫡男のが……」

 

 それは何となく聞いたことがある。

 本来正統な後継者であるフィールズ殿下に、嫡男の派閥が難癖をつけているとか……。

「まあ、ありがちな争いではありますね」

 ザードが評す。

「このところアックニン様の動きが急に過激になっていて、派閥を作って暗躍しているらしいんです」

 レイニーが言葉を選ぶ。

「ワンズ様はもともと王位継承者の本筋から離れたところにいますし、ああいう性格ですから、王国の民の平安と、ご自身の好奇心を満たすことしか考えてらっしゃらないのです。

 ――王国の国民としては、それがいちばんありがたいのですけど。

 というわけでまあ、あのお方も、ある意味王家から<追放>されているんですよ」

 俺に笑いかけるレイニー。

 

 成程。

 ここでも<追放>された人間が関わってくる、というわけか。


 追放された人間が、追放された相手に仕事を依頼する。

 奇妙な縁というところか。

 

「とはいえ、王族のクエスト――皆さんには『相手にとって不足なし』のクエストだと思われます。

 最下層には、見たことない古代のアイテムが眠っているかもしれませんよ!」

 

 そう言って、鼓舞するレイニー。


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