第12話 王族とコネができる

「――君たちが、ギルド始まって以来のAプラスの冒険者たちかな」 


 俺たちの前に現れたのは、全身黒ずくめのローブの人物だった。

 

「いかにも怪しそうですけど、大丈夫。怪しい人物じゃありません」


 笑顔で紹介するギルドマスター・レイニー。

 

 はっきりいってむちゃくちゃ怪しい。

 

「あまり人目に付いてしまっても困る立場なのでね」

 

 ここは冒険者ギルドの、奥まった一室。

 かなり豪華な調度がしつらえられている。いかにもVIP専用の応接室といった様子だ。

 こんな待遇をするということは、このローブの人物、相当な立場の人間であろう。

 

「ここならば、ローブを取っても大丈夫ですよ」

 レイニーが言うと、黒ずくめは頷いて、

「そうだな」

 と、周りを警戒しながらローブを脱いだ。

 

「――綺麗……」

 マキが感嘆の声を上げた。

 長身の、豊かな金髪の女性が現れた。

 豪華な身なりと、優雅な挙措。

 ただ者ではないオーラが漂っている。


「紹介します。ビイング王国の第3王女、ワンズ様です」

「王女――!」

 さすがにザードも息を呑んだ。


 その姿に、見覚えがあった。

 以前S級パーティに所属していた時に、国王に謁見する機会が何度かあった。

 S級パーティともなれば、王から直接声をかけられることもある。

 国中の冒険者の戦力を集めなければならない大がかりなレイドなどの、大規模なクエストの指揮を執ることもあるのだ。

 

 まあ、そうした名誉ある仕事をするのは勇者達だけで、俺は隅っこでモブをやっているくらいだったのだが。

 

 そうしたパーティで、たしかに見た覚えがなくはない。

 もともと自分と縁のない世界と割り切っていたので、あまりはっきり覚えていないが。

 まあ、向こうとしても、俺の事など覚えていないだろう。

 

「ザード殿に、ディーン殿かな」


 覚えていた。

 

「知ってたのか、アンタ、俺の事を」

「その節はご叡覧賜りまして、光栄にございます」

 ザードが、慌てた俺をフォローするかのように、ことさら丁寧な口調で言葉をかける。

 ワンズは苦笑して、俺のことを見た。

「忘れるわけはないだろう。特にディーン、君を」


 俺が?

 単にモブだった、俺の事を?

 

「評判だったのだぞ。スキルこそ持たないが、すさまじい力でモンスターを消し去る冒険者がいると」

 俺、評判だったのか?

「普通のパーティを、あっという間にS級パーティにのし上げた実力者……ディーン殿の名は、一部では知らぬものはなかったぞ」


 聞いたことはなかった。

 もとのパーティでは、ひどい扱いだったからな。


「表向きは、勇者とか戦士とか、そういう連中がすごいということになっているからな。なかなか支援職というのは目立たんものだよ」

 ワンズ王女が苦笑する。

「君たちパーティが、我々に招かれたときも、あのなんとか言う勇者とか、そういう連中ばかりが目立っていたな」

 確かに、王や王女と話していたのは勇者ばかりだった。

「私などは、ディーン殿と話がしたくてウズウズしていたのに、あいつらが出しゃばって残念だったのだよ」


「見ている人は、見ているんですよ」

 ワンズの話を聞いて、我がことのように喜ぶザード。

「……すごい、さすがです。ディーン様……」

 マキも笑いかけてくれる。

 自分のいないところで、自分の評判がそんなふうになっていたなんて……。


 

「それで、わかりました。ワンズ王女が以前言っていた『<追放>の戦士』というのは、ディーン様のことだったのですね」

 レイニーが頷く。

「それならば、先ほどのステータスも、ノーキンをやっつけたのも、納得いきます」

「……ステータス?」

 首をかしげるワンズ。


 俺は、これまでのことをワンズ王女に話した。

 ――勇者ジーグたちのパーティから追放されたこと。

 ――ザードもパーティから離反したこと。

 ――マキが加わったこと。

 

 俺のスキルについても、判明している限りのことは話した。

 先方が興味を持っている様子だったし、もし隠したとしても、彼女の権力をもってすれば探ることもできるだろう。

 マキの<暗黒魔法>については伏せておいた。本人もいることだし、隙を見てレイニーさんが話してくれるだろう。

 

「……なんということだ」

 ワンズは頭を抱えた。

「ディーン殿を追放するなどと……そこまで君たちのパーティは思い上がっているのか」

「ダメです。インチキ勇者です」

 もとの仲間のことを、そう断じるザード。

「勇者や、その仲間のことは見させてもらったが、あのパーティがなんとかやっていけるのは君たちがいたからだぞ。

 ザード殿の白魔法の力も卓絶したものだが、それとてディーン殿のスキルがあってのこと」

「当然です」

 なぜか力強く頷くザード。

「なんとなく目立たなくて、まわりの連中にいいようにされそうなやつだ……と思っていたが……」

 

「ということは、あのパーティは今、君たちがいない状態でやってるのか」

「はい」

「そうか……面白いことになってきたぞ」

 含み笑いを漏らすワンズ。

 

 あれ?

 僕たちがS級パーティから抜けたことが、なにが楽しいんだ?

 

「ともあれ、事情はわかった。先ほどのノーキンとの戦いも見させて貰ったよ。

 覚醒させた<追放>のスキルも、順調のようだな」

「まあ……」

 頭を掻く俺。

 こんな偉い人物に声をかけられることなんて今までなかったから、どうしたらいいかわからん。

「それでは、本題ですが……」

 レイニーが水を向ける。

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