第10話 冒険者ギルドで優遇されまくる
「おまたせいたしました! ディーン様一行は、冒険者ランク『Aプラス』になりまぁす!」
満面の笑顔で、受付嬢が言う。
「『Aプラス』って……聞いたことないですね」
ザードの疑問に、
「はい、我らがギルドの特別ネームになっております!」
おい。
特別なネームを、ギルド直々に与えられるなんて、相当すごいことなんじゃないか?
「本来ならばディーン様ご一行は、Sランクあげちゃってもいいくらいの能力、人格、リーダーシップを兼ね備えていると個人的には思っているのですが、先ほどのノーキンさんみたいなやっかむ人が出てくるとも限らないので、かりにAプラスってさせてもらったんです」
なるほど。
そんなこともありうるのか。
「とは言っても、いきなりAランクってのも、私たちのギルド始まって以来なんですけどねー。まあ、ほとんどは私たちの気持ち、ってことで」
笑いかける受付嬢。
どうもあのノーキンは、ずいぶん嫌われていたようだ。
ご愁傷様である。
「……すごい……いきなり、冒険者ランクAプラス……」
マキが呟く。
「プレッシャーなんて感じなくていいですよ」
ザードがマキの気持ちをおもんぱかって、やさしく声をかける。
「でも、私、なにもしていないのに……」
「私たちはとりあえずディーンに、おんぶにだっこしていればいいんです。回復が必要ならば、私が手助けしますよ」
「……」
「あなたは自分の力を磨いて、立派な魔法使いになってください」
マキはザードと、それから俺を交互に見て、丁寧にお辞儀をした。
「……ザードさん、ディーン様、ありがとうございます……」
おいおい。
「様」が付いちゃったぞ。
「まあ、マキにしてみれば、ディーンはあのノーキンにやり返してくれた恩人ですものね」
ザードがにやりと笑った。
「でもそんな、優遇ばかりしてもらっても大丈夫なのかい?」
俺は受付嬢に、念を押す。
「大丈夫ですって! このギルドの職員達は、みんなディーンさんの味方ですから」
「そうなのか」
「はい、なんだったら私がこのギルドのマスターですから」
「……」
沈黙が支配した。
「――今、何て?」
「あ、ハイ。私が当ギルドのギルドマスターにして、ビイング王国全ギルドの長でもある、レイニーと申します」
手元の書類を記入しながら、事もなげに言う。
ギルドマスターといえば、このギルドすべての仕事を取り計らう、絶大な責任者だ。
新人冒険者の査定もしなければいけないし、トラブルの解決もこなさなければならない。
その一方で冒険者に紹介する仕事も、ドラゴンの討滅など、下手をすれば国家問題に発展しかねない大がかりなものもある。
そういったもろもろをすべて仕切らなければならない。
絶大な仕事量と、それを裁く能力が必要だ。
「……どういう事、でしょうか……」
呆然とマキが呟く。
そんなの、こっちが聞きたいくらいだ。
「あ、ハイ。私が先代からギルドマスターの地位を引き継いだんですが、公式にはあまり知られていないんです。私みたいなひよっこがギルドマスターっていうと、いろいろ問題あるじゃないですか」
「……」
「だから実務は別にして、表の仕事は別の代理の方にしてもらっています」
「じゃあ、あのノーキンが、あんたを脅していたのは……」
「まあ、ああいう人はどこにでもいるので……。ちょっと態度が悪いくらいであれこれ言っていたら、冒険者なんてみんな辞めなきゃならないですよ。
まあ、今回はあまりにも目に余ったので、それなりの処分を取らせてもらいますけど」
「……」
思いもかけない急展開に、俺たちは黙り込む。
確かにさっきノーキンに相対する様子というのは、ただの受付嬢というのとは、風格が違った。
「『私の言葉はギルドマスターの言葉と思ってください』というのは、そのまんまの意味だったわけだ。
「こういうふうに現場の仕事をするの、好きなんで。いろんな冒険者の姿も直に見れますし。
――それに、今日みたいなとんでもない掘り出し物にであう事もできますから」
ニヤリと笑うギルドマスター・レイン。
おいおい、なんだかとんでもない展開になってきたような……。
「……ええと、じつは皆さんに会って欲しい人がいるんですけど……さすがにまだ、お見えになっていないか……」
ぶつぶつ呟くレイン。
なんだよ『会って欲しい人』って。
「それじゃ再登録をお願いしてもいいですか。先ほどはちょっとびっくりしてしまって、登録してなかったんで」
ずい、と石版を提示する。
「先ほどみたく、この石版に手のひらを当てれば、ステータスを読み取って、登録をしてもらえます」
それはさっきやった。
「もう一回登録すればいいのか?」
「念のため、お願いします」
石版が淡く発光する。
俺は手のひらを押し当てる。
石版が唸って、光が瞬いた。
「読み取り終了です……」
レインが手元の水晶玉を覗き込む。
「どうした?」
「ディーンさん、スキル、また増えてませんか?」
あ。
処理していなかった。
「ごめんごめん。大半は使わないスキルなので、あとで消しておくから……」
「それはいいんですけど……またこの<追放>スキル、レベルが上がってますね」
俺は自分のステータスを確認する。
そこには、膨大なスキルに混じって、
「<追放:上級>」
という文字があった。
「<上級>か……」
俺は考える。
おそらく<追放>スキルを多用して、スキル自体が進化したのだろう。
「さっきの戦いでも、いろいろ追放したしな」
「……でも、ディーン様の剣の刃と、あの……ノーキンの鎧だけでしょう……?」
マキが訊ねる。、
「ある種のスキルは、単に回数だけではなく、使い方によってボーナスレベルアップがあるらしいですね」
ザードの補足に、ギルドマスター・レイニーが首を突っ込んでくる。
ギルドマスターと言う職業柄、変わった出来事には興味があるのか。
「極めて興味深い挙動ですね……ギルドでも調査対象に入れたいくらいのスキルです」
「やはり、ギルドマスターでも見たことがないのか」
「先代のころから、たくさんの冒険者を見てきましたが、でも……<追放>なんていうスキル、聞いたことありませんね」
そうか。
やっぱりレアなスキルなんだ。
「……でも、一つ言えることがありますね」
レインが、ピンと指を立てる。
「何だ?」
「このスキル、ディーン様と皆さんに、ぴったりあっているということですよ!」
満面の笑みのレイン。
「……」
言っている意味がよくわからない。
確かに俺は、追放されまくりの人生の男だが……。
「もっと悪用しようとすれば、いくらでも悪用できるスキルを、正しく使ってるってことですよ」
それでこそ私のディーン! と胸を張るザード。
「……さすがです、ディーン様……」
羨望に満ちた目線を送るマキ。
そういうものなのか。
「さあそれじゃ、残りお二人も早く登録してくださ特殊スキル<絶対神のご加護>ぶうううううぅぅぅぅ」
またもザードのスキルを見てぶっ倒れるレイン。
ともあれ、二人の登録を無事済ませて、俺たちは客人とやらを待つことにした。
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