第9話 勝利のからくりを説明する

「す……すげえ……あのノーキンを一発で……」

「一体何が起こったんだ?」

「わからねえ……だけど、ノーキンが倒れたってことは<スキル無効化>が通用しないのか……」

「あの新人、一体何者なんだ?」


 観客席が、異様などよめきで満ちる。

 

「……すごいです! さすがディーン!」

「見事です! 脳筋野郎をぶったおしましたね!」

 観客席から飛び出してきたザードとマキが、俺に抱きついてきた。

「ありがとう。マキが情報をくれたから、勝つことができた」

 俺は二人に笑いかけた。


「でも……一体何が起こったんです? <追放>スキルは無効化されるんじゃ……」

 俺に目をむけるザード。

 先ほどの戦いが、解せないようすだ。

「そう、だから<追放>スキルは使わなかった……ノーキンにはね」

 俺はそう言って、手元の武器を見せる。

「あ……」

 二人が納得する。

 そのショートソードは、柄の部分だけだった。

 刃はない。

 <追放>したのだ。

 

 ノーキンはこちらが剣で刺突しようとしていると思うだろう。

 当然、その間合いを計っているはずだ。

 直前でその刃が<追放>されてしまえば、不意を突かれるはず。

 戦場において不意を突かれることは致命的だ。

 

「ショートソードを投げ捨てるとか、そういった予備動作があれば相手も準備できたんだろうけど、まさか武器が消失するとは思っていないだろうからね」

「まさか……相手の持ち物ではなく、自分の武器を<追放>させるなんて……」

 唖然として、ザードが言う。

 

 まあ<追放>スキル自体が、今ひとつ正体不明なところがあったからな。

 確実に結果の予想出来る、自分の持ち物を追放させたというわけだ。

 

「まあ、これで文句なしの冒険者ランクA認定ですね!」

「おい、ちょっと待て!」

 その時、背後から声がかかった。


「俺は認めねえぞ! 卑怯な手を使いやがって!」

 パンツ一丁の男が、大声を張り上げている。

 

 先ほどの勝負に納得のいかないノーキンが、俺に指を突き付けてわめきたてた。

「別に卑怯な手じゃないですよ。スキルを使っただけです」

「そのスキルが卑怯だろうが!」

「……<無効化>なんて持っている奴が、何を言い出すのか……」

 ザードがため息をつく。

 

「とにかく! 俺は認めねえ! 再戦をしろ!」

 あくまでごねるノーキン。

 

 ――その必要は無いです。

 その時、毅然とした声がかけられた

 

 俺たちは、声の主を見る。

「……受付嬢さん」

「ああん? 下っ端の受付女が何言ってやがるんだ」

 ノーキンが受付嬢をにらみつける。

「先ほどのディーンさんの勝利は、認められるものです。

 我々のギルドは、ディーンさんたちをふさわしい待遇で歓待いたします」

「おい、手前……このギルドのナンバーワン冒険者はだれだかわかってるのか?」

 ノーキンがすごむ。

「たとえ、強力なスキルを持っていたとしても、他の冒険者にリスペクトを持てない冒険者は、我々のギルドには必要ありません」

 決然と言い放つ受付嬢。

 

 ――おお……。

 

 どよめきが起こる。

「そうだ! ノーキン、負けを認めろ!」

「ひっこめ!」

「言い訳するな! 女々しいぞ!」


 あちこちから湧き上がる非難の声に、顔をしかめるノーキン。

 

「てめえ……クソ女! ギルドマスターに言いつけてやるからな!」

「私の意志は、ギルドマスターの意志と思ってもらってかまいませんから」


 あくまで揺るがない受付嬢に、

「……ケッ! 覚えてやがれ!」

 テンプレ通りのセリフを吐いて逃げ去るノーキン。

「それから、そこのせこいスキル使い!

 てめえ、いつかぶっ倒してやるからな!

 マキ、手前もだ! 調子乗ってるんじゃねえぞ!」

 

「――なんで負けてる奴って、ああやって憎まれ口を叩くんでしょうか……」

 ふう、とあきれ口調で肩をすくめる。


 その姿を見送り、一息つく受付嬢。

 にっこりと、此方に笑顔を見せた。

 

「では、冒険者登録を再開しましょう。ようこそ、冒険者ギルドへ!」

 


 

  *   *   *

  

  

 

「<スキル>……追放か……」


 

 そこから少し離れて、様子を伺う黒いローブの人物がいた。

 

「フッ……面白い……」


 かすかな笑みをフードに覆って、ローブ姿は影のようにそこから消えた。

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