第8話 ケンカを売ってきた脳筋野郎にざまぁする


 ギルド裏の仮説競技場。

 本来はトレーニングなどに使用されるらしい。

 

 そこでいま俺は、ノーキンと向かい合っている。

 周囲には、物見高い連中がぞろぞろと集っている。


「俺、手加減が下手だから、間違って殺しちまっても文句はいうなよな」


 へへへと、下品な笑みを漏らすノーキン。

 

「……」


 俺は黙って、ショートソードを構える。

 

「ショボイ武器だな。笑わせるぜ」

「……」

「何かおかしなスキルがあっても、役にたたねえからな」


 ノーキンは巨大なバスタードソードを構える。

 刀身に何かの紋様が書いてある。おそらく魔力を秘めた代物だろう。

 

「なんと言っても、俺のスキルは<スキル無効化>だ。お前のちんけなトリックなど、効き目はないぞ」


「……」


 俺は、観客席をちらりと見る。

 ザードとマキが、不安そうに俺を見ていた。

 

 *  *  *

 

 先ほどのギルドの受付。

 マキの発言は、俺たちの予想していたものの違っていた。

「<スキル無効化>……って……」

 

 

 俺は黙って、相手を見据える。

 審判の受付嬢が、二人の準備ができたと見て、手を上げた。


「それでは、特別認定試験――開始します。

 あまり血は流さないでくださいね……後の始末が大変だから……」

 

 ザードとマキが、不安そうな面持ちでこちらを見ている。

 大丈夫。俺は笑いかける。

 

「それでは――はじめ!」


 受付嬢の声と共に、

 

「うらあああああああ!」


 ノーキンがバスタードソードを振りかぶって、突進してくる。

 上段に構えた刀身が、陽光に映える。

 一気にたたき潰すつもりだ。

 

 俺は全身をたわめて、ノーキンに向けてダッシュ。

 ショートソードを突きに構える。


「どうした! スキルを使っていいんだぜ!」

 ノーキンが挑発する。

 余裕な態度からして<スキル無効化>の能力は本物なのだろう。


 覚悟を決める。

 試しに他のスキルを発動してみようかとも思ったが、そんな余裕はない。

『切り札』を出すまでだ。


「スキル発動――<追放>!」

 俺は叫ぶ。

「効くか、ボケ! スキル発動――<スキル無効化>!」


 ガッ!

 

「何っ!」


 ノーキンの、驚愕に満ちた声。

 続いて、頭部に衝撃が来る。

 

 俺の頭からの突進は、ノーキンの腹部を激しく打ち、相手を吹っ飛ばす。

 

「――て、てめえ――何を――」


 転倒したノーキンがわめく。

 何が起こったのか、把握できていない様子だ。

 

 当然だ。

 自分に向けられたショートソード。

 それがいきなり『消えてしまった』のだから。

 

 俺は一気に詰め寄る。

 このタイミングなら<スキル無効化>を発動できない。

 

「スキル<追放>!」


 俺はノーキンに向け、スキルを発動する。

 虚空に空いた穴が、ノーキンの武器と防具を吸い込む。

 後には、パンツ一丁の男が一人。

 

「わあああああああ、助けてくれ! 助けてください! お願いします!

 靴をっ! 靴をなめさせてくださいー!!!!!!!! 」


 あっけなく懇願するノーキン。

 先ほどの威勢は何処へか、這いつくばって頭を下げた。

 

 一瞬で勝負がついた。

 だれも状況を把握できていない様子だ。


 沈黙の中で、俺は受付嬢を見る。

 一瞬呆然とした受付嬢が、宣言する。

 

 ――勝者、ディーン!

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