第7話 冒険者ギルドで受付嬢に推される
「はーい、こちらは冒険者登録カウンターです!」
カウンターにやってくると、受付のお嬢さんが笑顔で迎えてくれた。
メガネのスマイルが輝いている。
「あの……すみません。冒険者登録を……」
「伺っております! こちらへどうぞ!」
ずい、と登録用紙を突き出す。
俺たち三人分が、ぴしりと揃っている。
慌ててペンで記入をしようとすると……。
「あれ、記入してありますね……」
ザードが、怪訝な顔を見せる。
「ディーン様と、ザード様、それにマキ様ですねっ!」
「は、はい……」
あれ、なんでこの受付、俺たちの名前を知ってるんだ?
「あそこでさっき、ノーキンさんと話してらっしゃいましたから」
「ああ」
俺は納得した。
さっきのやりとりを聞かれていたんだ。
「あの……」
受付嬢が顔を近づけて、声を潜める。
「あのノーキンさんって、このギルドのトップ冒険者なんですけど」
「……」
「私、大っ嫌いなんです」
「!」
「同僚とか後輩にセクハラしてくるし、すっごくえらそうだし。
本当にみんな嫌ってますよ。だからさっき、ボコボコに言って頂いて、すごく嬉しくって」
受付嬢が、ザードに笑いかけた。
「……」
「私、皆さんのパーティ、めっちゃ応援しちゃいますから」
ぐっと親指を突き出す。
「よかったですね」
ザードが頷く。
いいんだろうか、それで……。
「はい、それでは最後に、皆様のステータスを見せてください」
「ステータス?」
「スキルなどを記入しておきますので……」
言いながら、手元の水晶玉を指示する。
「ここに手を置いたら、私の方で記入いたしますので……」
「じゃあ俺から」
俺は言って、石版に手のひらを当てる。
「まあ、初めてということで、すぐに記入は終わりますので……え……」
沈黙。
急に、受付嬢の動きが止まった。
「何ですか、この膨大なスキルの量」
「ああ、追放されたのが戻ってきたんだ」
「追放?」
「ああ、えっと」怪訝な目を向ける受付嬢に、俺は笑いかける。
いちいち説明するのもまどろっこしい。
「冒険者になる前から、鍛えていたから」
「でもこのスキルの数……こんなの、見たことない……」
硬直する受付嬢。
「あ、じゃあ私が先にしますね」
ザードが気を使って、手のひらを差し出す。
「そうですね、これを転記してると日が暮れちゃいますんで、先にザードさんのステータスを拝見アークプリーストぶえええええええ」
奇声を上げてひっくり返る受付嬢。
「大丈夫ですか」
俺は慌てて彼女を助け起こす。
「あ、あなたがた、いったい何者なんですか……」
青ざめた顔で、石板を見かわす受付嬢。
「とりあえず冒険者ランクを仮登録しなきゃですけど、この能力だと、軽く冒険者ランクA……」
「ああん、どういうことだ!」
ホールに大声が響き渡る。
さっきのノーキンだ。
「おい、ふざけんなよ! なんでこいつらが、俺と同じランクなんだよ!」
「ステータスが、そうなっていますから」
けんもほろろ、といった様子の受付嬢。
「俺は認められねえな!」
「決定するのは我々です」
受付嬢は、ひるむ様子はない。
あくまで毅然と、堂々と渡り合う。
「そうだ、俺が特別に選抜試験をやってやろう。こいつらが本当にランクAに相当するのか見てやる」
「そんな、勝手な!」
「これは嫌がらせとか、そういうのじゃないんだ。冒険者の先輩が、後輩の面倒を見てやるっていうありがたい企画なんだ」
「……」
「このギルドのトップが、直々にテストしてやるんだぞ……」
「――いいぞ、俺は」
俺は申し出る。
このままでは、埒があかない。
受付嬢も困った様子だ。
「……危険です!」
マキが制する。
「大丈夫ですよ。こんな脳味噌宿便野郎は<追放>スキルでばばーんと吹っ飛ばしちゃえばいいんですから」
「……いえ、そうじゃなくて……」
何か言いよどむ様子のマキ。
それを遮って、
「よし、話は決まった!」
大声を上げるノーキン。
「ギルドの裏に仮説競技場がある。そこで、お前の実力を見てやる」
「……」
「勝ったらAランクでも何でも好きに名乗れ。そのかわり、俺に負けたら金輪際冒険者を名乗るな!」
「それで、満足なんだな」
というわけで、俺はなぜか戦う羽目になった。
「……あの、ディーン……ごめんなさい」
マキが頭を下げる。
「いや、いいんだよ」
とはいえ、内心、勝算のないわけではなかった。
今まで追放されていた俺のスキルが、今大量に取り戻されている。
それらのスキルを、実際に使ってみたいという気持ちもあった。
それに、いざとなったら、ザードの言うように<追放>スキルだってある。
スキルの正体はいまだ不明だが、空間に穴を開けるという効果は、今のところ百パーセントの効果を発揮している。
まさか、ノーキン相手に使うわけにはいかないが、それでもそういう奥の手があるというのが、気分を楽にしてくれる。
勝てるかどうかはわからないが、善戦できるはずだ。
「もし負けても、他のギルドで登録すればいい」
「めんどくさくないですか」
ザードが口をはさむ。
「大丈夫だ。追放されるのには慣れてる」
力強く俺は言った。
「違うんです……あの」
マキがもにょもにょと口ごもる。
「何だ」
「あの、ノーキンさんが持っているスキルが――<スキル無効化>なんです……」
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