第5話 <追放>スキルを手にしたことで、追放されていたスキルが大量に手元に戻ってくる

 東の空が、明るくなりつつある。

 夜明けが近い。

 この分だと、朝方には街に着くことができるだろう。


「スキル<追放>か……」


 俺は自分のステータスを改めて確認する。

 よくわからない、正体不明のスキルだ。

 ナイフや、モンスターを異次元に飛ばすことはできる。

 それから(よくわからないが)ある組織に属している人間を、その組織から<追放>することもできるみたいだ。

 

 とはいえ、このスキルがどれほど有用なのかはわからない。

 異次元に追放した、といってもどこに飛ばしたかわからなければ、いつ戻ってくるかわからない。

 そもそも追放されたモンスターや道具は、どこにいってしまったのだろう。

 詳しく正体がわかるまで、乱用はさけたいところだが……。

 

「しかし、よくわからないな」

「何がですか?」

「スキル<追放>が閃いたのは、昨日ジーグに追放された時だった。

 でも俺たちのパーティはそれ以前から、モンスターをどこかにやってしまったり、ダンジョンの壁に穴があいていたりと、不思議なことがよく起こっていた」

 

「たしかにそうですね。でも、あれもディーンの<追放>のチカラだと考えれば、納得できるかと」

「でもそうすると、俺は<追放>を獲得する前から<追放>のチカラを使っていたことにならないか?」

「ほんとだ」


「白魔法スキルを手に入れる前から、白魔法を使うことなんてできるはずないだろう?」

「まあ、まれに能力を何らかの方法で『暴走』させた人間が、スキルにないチカラを発動させることはあるみたいですが……」


 その話は聞いたことがある。

『エベックス村戦役』または「血の十日間」。

 魔物の急襲にあった村が、たった一人の少女の魔力暴走により、魔物を殲滅させて救われた……という事件。

 その少女は魔法の素養などまったくなかったのだが、人間が行使できないような凶悪な暗黒魔法を使い、片端からモンスターをなぎ倒していった……というのだが。

 

「にわかには信じがたいですが……」

「……たとえば、なんですけど」

 急に話をさえぎって、マキが言葉を挟んできた。

「何か思い当たった?」

 優しくザードが、マキに訊ねる。

「……まちがってるかも、しれないんですけど」

「どんなアイデアでも、聞きたい」

 マキも、本人は非力だと言っているけど、魔法使いだ。

 なにか、気がついたことがあるかもしれない。

 

「……<追放>スキル自体が、自分自身を<追放>していた、とは考えられませんか?」


「……」

 マキの突拍子もないアイデアに、俺とザードは言葉を失う。

「……<追放>って、どっかにぶっとばしちゃうとか、そういうイメージじゃないですか。いままでディーンさんは、その<追放>のチカラを使うことはできなかったんで<追放>自身が<追放>された状態だったですけど」

「――スキルをラーニングすることで<追放>が手元にもどってきた……」


 ザードが真剣な面持ちで頷く。

「なんてことだ」俺は両手をあげた。「突拍子もないことを思いつくな!」

「でも、考えられなくもないです。

 それまで無自覚に発動していたパッシブスキルが、新たに別枠で獲得されることもあります」

 もともと炎属性を獲得している種族が『炎属性付与』のスキルを獲得する。

 自動回復スキルを持つ生物が白魔法を覚える。

 何の問題もない……ザードは説明する。

「でも、スキル<追放>が、スキルを追放するなんて……」


 俺はそう言いながら、ステータスを開く。

 

「うわ、何だこれ」


 そして、絶句した。

 

「獲得スキル:

<黒魔法>level50

<白魔法>level50

<剣技>level100

<体技>level100

<鑑定>

<属性付与>

<ステータス変化無効>

<超速度>

<高次魔法>

<暗黒魔法>

<神聖魔法>

<アイテム精製>

<追放>」


 俺のステータスに、大量のスキルが表示されていた。

 

「すごい……」

 覗き込んでいたザードが絶句する。

「このスキルをみんな……<追放>が追放していたってことか?」

 俺も目を丸くする。

「暗黒魔法まで……姉さんと同じ……」

 マキが呟く。


「そうか」

 俺は叫ぶ。

「俺が今までスキルを獲得できなかったのは、このスキルが<追放>していたからか」

「それなら、平仄が合います」

 ザードが力強く頷く。

「おそらくディーンが、最初に手に入れたスキルが、この<追放>だったのでしょう。そして、ディーンが手に入れたスキルを、かたっぱしから<追放>していたわけです。これでディーンが、何のスキルも手に入れられなかった理由がはっきりしましたね!」

 がばっと、ザードが俺に抱きついてきた。

「やっぱり、ディーンは特別だったんです! 私、信じていました!

 あんなにやさしくで、まじめなディーンが、報われないわけないですもん!」

「ちょ、ちょっと……」

 慌てて、俺はザードを離そうとする。

 マキが見ているじゃないか。

「……よかった! 今までの悩みがなくなったんですね!」

 マキはザードのハレンチ行為にかまわず、俺を祝福してくれている。

 ――でもさっき、何か暗い顔をしていたような?

 気のせいか。

 

「とりあえず街に急ごう」

「少し休んだら、みんなで冒険者ギルドに行きましょう。ここにいるみんな<追放>されちゃってますから、一から冒険者ギルドで登録しなおさないと」

 ザードが笑いかける。

「……おなかすいちゃいました……」

 マキの言葉に、皆が笑顔になった。

 

 

 そして、街にたどり着いた俺たちは、宿で一休みして、冒険者ギルドに向かった。

 そこで、もめ事に巻き込まれることになる。

 

「あ? マキじゃねえか」

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