第4話 やって来た仲間を、元パーティから追放して仲間にする

 俺が振り返ると、そこにはザードの姿があった。

 

「ザード……」

「お久しぶりです、ディーン」

 彼女はそう言うと、少女の方を向いて、かがみ込む。

 

「傷がひどいですね……マントで隠せますから、街で着替えを用意しましょう――」

 そういいながら、ザードは集中しながら、少女の傷に手をかざす。

 淡い光が掌に集中し、傷がみるみるふさがっていく。

 さすがS級パーティの回復役。見事な魔法の力だ。

「う……う~ん……」

 少女が苦しそうに身をよじる。

 これで大丈夫、とザードは俺の方に向き直った。

 

「何があったんですか? ディーン」

「グレートウルフに襲われていた。間一髪で助けられたが、あやういところだ」

「相変わらず優しいですね」

 笑みを向けるザード。

「こちらこそ、どうも」

 俺は礼を言う。

 

 さて、まずは順番に状況を処理しなくてはならない。

 俺は少女に向き直った。

「君は誰だい?」

 おどおどしながら、彼女は言った。

「……あたし……あたしはマキっていいます」

「どうしてこんなところを一人でいるの?」

「……もともとはパーティーを組んでたんですが……追放されちゃったんです。仲間から」


 追放。

 その言葉に、俺は反応する。

 

「なんで追放されたんだ」

「……役立たずだから」

 彼女は涙声で話し始めた。

「……魔法の技術はいつまでも上がらないし、新しい魔法をいつまでたっても覚えない。役立たずは不要だ……って」

「一人で……か?」

「……はい……」


「ひどい……」


 ザードが言葉を失う。

 こんなモンスターがうろうろしている場所で、一人で放りだされるなんて、魔物に食われろと言っているようなものだ。

 

「……で、でもっ、私が役立たずだから……仕方ないんです……」

 言いながら、ぽろぽろと涙を流す。

 マキと名乗る彼女、どうやら自己評価がとても低いらしい。

「ディーンと似てますね」

 ザードが言う。

 どういう意味だ。

 ひどくおとなしく、自己主張するタイプにも見えない。

 前のパーティとやらは、おそらく彼女のやさしさにつけこんで、やりたい放題やった挙句、追放したのだろう。

 ひどい話だ。


「それじゃとりあえず、街まで一緒に行こう」

「……本当ですか!」

 俺の申し出に、マキの声が明るくなる。

「一人じゃ危険だろう。俺も街にいかなければならないところだ。ご同行願いたい」

「でも、本当にいいんですか?」

「俺も追放された身分だしな」


 俺は笑って手を差し出す。

 彼女ははにかんで、手を握り返した。


 俺とマキの、これから長い付き合いになる、これが出会いだった。


「じゃあ、行きましょう! 仲間も増えたことですし」

 明るい声をかけるザードに、

「おい」

 俺はツッコミをいれる。

「なんですか? 直接攻撃のディーンに、支援役の私、それに魔法攻撃のマキも参加して、バランスばっちりのパーティーじゃありませんか」

「いつ、パーティが結成された」

「私たち、パーティじゃありませんでしたっけ」

「俺は追放されたんだよ」


「あ、そうでした」

 ぽんと手を叩く。

「私、ディーンを追いかけてきたんです」

「はあ?」

「私、ディーンと旅がしたいんです」

 あっけらかんと応えるザード。

「あのひとたちのパーティって、なんか肌が合わないんです。みんないばっているし」

「……」

「ディーンさんも、けっこうがんばってるのに、みんな<剣聖>とか<黒魔法>とか、そーいうわかりやすいスキルとかでしか、がんばりを認めないんですもん。つまんないです」

「……」

「それに、ディーンさん優しいし、もっともっとがんばって、みんなのために働いてくれそうな気がしたんですよねー。だから、ディーンさんが追放されたのを、チャンス! って思って、一緒に出てきちゃんたんです」

「……」

 言葉がでてこない。

 

 俺は追放されてしまったが、俺の所属していたパーティは、世界でも有数のS級パーティだ。

 王族との謁見も可能だし、冒険者のギルドにコネが効く。

 だれもが加入を熱望する、最強のパーティなのだ。

 

 それを、あっさりと出て行った?

 しかも、自分を追いかけて?

 

「戻った方がいい、ザード」

「イヤです。私はディーンさんから離れません」

「元のパーティだって、ザードを探しているはずだ……」


「あ、それじゃ、ディーンさん。私を<追放>してください」

「は?」


 思ってもみない提案に、俺の目は点になる。

「さっきいってたじゃないですか。俺のスキルは<追放>だって」

「……」


「ジーグとのやりとりを、聞いていたのか」

「まあ、あれだけ大きな声で話されれば。それに……」

「何だ」

「好きな人の言葉は、なんだって聞き逃したくないんですよー」


 うふふふと頬に手を当てて、全身をフリフリするザード。

 何を言っているのだコイツは。

 

「だから私も、ディーンさんのチカラで<追放>してもらえれば、もとのパーティに戻らなくてすむんですよ」

 そういうものなのだろうか。

 でも、問題なのだろうか?

 さっきのグレートウルフも、どこかの空間に飛ばされてしまった。

 

 <追放>。

 謎の多いスキルだ。

 今のところは、対象をどこかの空間に飛ばすという能力だ。

 だが、なんだかもっといろいろなことができそうな気がする。

 俺はステータスを開く。

「スキル<追放>。

 効果…あらゆるものを追放する」

 

 曖昧な記述だ。気になる。

 もしも、ザードの言う通り「所属グループから追放する」なんて言うことができるなら、応用範囲はとてつもなく広いことになる。

 試してみたい。

 

「――大丈夫か?」

「自分に自信を持ってください」

 確信を持ってうなずく。

「それに……」

「それに?」

「ダメでも、問題ないです。

 私、亜空間から戻ってくるくらいのこと、できますんで」

 胸を張るザード。

 

 そう。この女、S級パーティの回復役を一手に担う、現役最強レベルの白魔法使いだった。

 魔法学園の頃からのエリートで、すんなりS級パーティに参加して実力を認められた。

 回復役の最高位、アークプリーストに最年少で転職した。

 

 能力の塊みたいな白魔法使いだ。

 どうして俺なんかに関心を抱くんだろう?

 

「それじゃいっちょ、私を<追放>してみてください!」

 どんと胸を叩く。

「いいのか、本当に?」

 俺は躊躇する。

 一回でも多く<追放>スキルを使ってみたい。

 

 これは、またとないチャンスかもしれない。

 心を決めた。

 俺はザードに向き直る。

 

「行くぞ」

「いつでもどうぞ」

 大きく手を広げるザード。


 

「スキル――<追放>!」


 俺はザードに向けて<追放>を放った。


「スキルポイント獲得!」

「<追放>のスキルレベルが10上昇しました!」


 ――。

 さあっと、風が吹き抜けた。

「ざ、ザード……大丈夫なのか?」

 おそるおそる声をかける。

 そっと目を開くザード。

「はい、これで『S級パーティ』のザードは追放されてしまいました。ここにいるのは、ディーンの仲間の、ただのザードです」

 そう言って、いたずらっぽく笑った。

「責任とってくださいね、ディーン」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る