第3話 少女を救うため、モンスターを<追放>してみる

「しかし……いったい何なんだ―――スキル<追放>って……」

 夜の街道を歩きながら、俺はひとりごとを呟いた。

 

 たしかに俺は無能。

 スキルもまともに取れなかった。

 

 しかし、スキル<追放>なんて、聞いたことはない。

 このよくわからないスキルだけで、これから一人でやっていかなければいけないのだ。

 

「ああ……でも、本当に所属パーティがなくなっちゃったんだな……」

 改めて、そのことに思い至る。

 冒険者パーティから追放されたというのが本当なら、俺はもう、どこのパーティの所属でもない。

 言ってみれば、完全に素人の冒険者と同じ状態だ。

 

 パーティの再登録から始めなければならない。

 いやその前に、冒険者ギルドへの申請が通るかどうか。

 仲間もいない、前のパーティから追い出された、マイナスからのスタート。

 もう、なにもかもが嫌になってきた。


 ――その時。


「キャアアアアアアッ!」


 悲鳴が響き渡った。

 

「何だ?」


 反射的に、俺は悲鳴の方へダッシュする。

 街道から外れ、草むらを掻き分けて、森の深い辺りに……。

 

 ――いた。

 そこには、狼形のモンスターが一体と、少女が一人。

 モンスターは一体のみ。

 他に仲間を連れていないのが、救いか。

 

(グレートウルフか……)

 大型の狼のモンスター。

 無論、敏捷さも凶暴性も、普通の狼とはくらべものにならない。

 まともに組み合うとすれば、上位の戦士だって手こずるだろう。

 まして俺のような弱小ノースキルならば、極力ことをかまえるのは避けたいモンスターだ。

 逃げる。

 それしか、まともな策はない。

 

 だが……。

 俺は、少女の方をチラリと見る。

 

 冒険者らしい軽装だ。しかし、その姿は痛々しい。

 泥まみれの服はズタズタに裂かれ、ところどころ血で汚れている。

 ひどい傷が目立ったところにないのは救いだが、なにより完全に戦意を喪失している。

 グレートウルフの犠牲になるのは、時間の問題だ。

 

 おびえたようにこちらを見る。

「……た……助けて……」

 か細い声が漏れた。

 

 ――仕方ない。

 俺は覚悟を決めた。

 

 どのみち、冒険者ならば何処で野垂れ死んでも仕方ない。

 ならば、ここでグレートウルフを引き受けて、少女を助けて死ぬ、なんて言うのも悪くないだろう。

 

「……上出来、上出来の人生だ」

 俺はショートソードを抜き放つ。

 月光が、刃表をギラリを跳ね返す。

 

「グルルル……」

 グレートウルフがこちらを向く。

 

 獲物を変更したのだ。

 

 俺は剣を構える。

 

 こちらから襲いかかるのは愚の骨頂。

 相手が突っ込んでくるところでカウンターを食らわせる。

 そうすれば……。

(生き残りのチャンスが、マイナスがプラマイゼロくらいにはなるさ)


 自嘲が漏れる。

「さあ、来い!」

「グルアアアア!!」

 影のように、グレートウルフが跳躍する。

 

 こちらの反応を圧倒的に上回る。

 凶悪な顔が、俺の喉笛に食らいつこうと、真っ正面になり――。

 

 その時。

 

「スキル<追放>を使用しますか?」


 そんなメッセージが、脳裏に閃いた。

 

 瞬間、全ての世界がスローモーションになった。

 狼は目の前。

 今にも俺にかみつこうとしている。


「つ――<追放>ッ!」


 無我夢中で、俺はスキルを発動させる。


 バシュゥウウウウウン!


 瞬間、虚空に黒い罅が走り――。

「ガアアアアっ!」

 狼の姿が、一瞬で消え果てた――。


「嘘、だろ」


 気がつくと、俺は森の中。

 闇は、まだ深い。

 

 少女が、唖然とした目でこちらを見ている。

「だ……大丈夫?」

 俺が声をかけようとすると。

 

「……ふえ……ふええええええ……」


 そのままくたくたと崩れ落ちてしまう。

 全身に力が入らないようだ。

「と、とにかく助かったから……うわっ」

 彼女に近寄ろうとした瞬間、俺は思わず声を上げた。

 血の、ぬるりとした感触。

 思った以上の深手だ。

 やはり夜目では、正しい判断ができなかったようだ。

 

 早急になんとかしないと、命に関わる。

 

「……傷を癒やさないといけませんね」


 その時、聞き覚えのある声が背後からかけられた。

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