ヴィルキスの三柱
ケルディオン大陸の北部、大破局によって完全な廃墟となった賢人の地には、ノスフェラトゥが起こした国家があった。
その名をヴィルキス。かつて、大破局の中で生き残らんとした者達が集い、作り上げた最後の砦。
大破局が終わった後も存続し、今では立派な国になったこの国家。
そんなヴィルキスには、とある著名な人物が居る。
ヴィルキスの三柱と呼ばれる、三人のノスフェラトゥ達のことである。
「うー、めんどくさいなぁ。ねぇレイズちゃん、私遊んできていいかしら?」
月明りが入り込む巨大な会議室のような場所で、大きな円形のテーブルを囲む二人。
うち一人の、薄い緑の髪をした女性が、だらけた格好で駄々をこねる。
「だったら派閥なんて解散しちまえ。そしたら出なくてよくなるぞ、ラスタ」
レイズちゃんと呼ばれた金髪の女性みたいな出で立ちの男性が、それに嫌味ったらしく答えながら書類仕事をする。
「む、酷い事いうなー。てか、ラミエルちゃんは?遅くない?」
「軍関連が忙しいんだとよ。まぁ待ってればいつか・・・って噂をすればだな」
そう言って、レイズが部屋の窓を見ると同時に、その窓を黒い影が透き通り、そのまま影は室内に入り込む。
「ごめん、遅れた」
その影が徐々に薄れ、黒髪の少女の姿になると、嬉々としてラスタがその少女に駆け寄る。
「遅いわよラミエルちゃん!」
と、同時にラミエルと呼ばれた少女に抱き着こうとするが、ラスタの身体はラミエルの身体をすり抜ける。
「ちょ、影になるのはずる!」
そしてそのまま壁に衝突、鈍い音を立てながらずるずると倒れる。
「誰彼構わず抱き着こうとするからですよ」
ラミエルは呆れたそぶりをしながら、誰も座っていなかった椅子に腰を掛ける。
「遅かったな。手間取ったのか」
「軍事費の為に、ジェネール領から金銀財宝奪ってたら時間かかっちゃって」
「そうか・・・ん?ジェネールって家の派閥の奴じゃ・・・」
「・・・」
「うぅ、誰も心配してくれない・・・冷たい」
痛そうなそぶりをしながら、ラスタも椅子に腰かける。
「ラミエルから衝撃の事実を聞いてそれどころじゃねぇんだ」
「因みに、こないだラスタさんも同じことしてましたよ」
「は・・・?」
ラミエルに売られた事を悟ったラスタは、急に真面目な顔に変わり。
「ま、おふざけはこれくらいにして。ラミエルちゃん、レイズちゃん。始めましょうか、三頭会議を」
場の空気を換える為、突然仕切り始めた。
逃げたな・・・と思いながらも、このまま会議が始まらないのは困るのでレイズは何も言わず、ただ静かにうなずく。
ヴィルキスの三柱たる彼ら彼女らが集う会議は、三頭会議とも呼ばれ、しばしば国のその後の方針を決める重要な会議である。
常に・・・ではない辺りが、彼女達の適当さが出ているのだが。
最初に言葉を発したのはラミエルだった。
「取り合えず状況報告なんだけど、アウリオンの狂信者達が動き出したわ。」
懐から地図を取り出し、テーブルに広げ、各地に指をさす
「エーリオン、アルトゥス、バイエンゲルグの三要塞は既に陥落。ザルツ、フェルー、イゼルも既に交戦中ってとこよ」
「一応、陥落した三要塞の戦力はフェルーに集めてるけど、個人的には帝都に戻したいって所かしら」
説明を終え、ラミエルは椅子に腰かける。
続けて言葉を発したのはレイズだった。
「・・・これまでの現象からして、有象無象集めた所で、連中に化け物に変異させられるだけだろう?ならそのまま要塞においておけばいい」
連中・・・第四の神アウリオンと呼ばれる神を信仰する者達。
大陸各地で既に数えきれないテロを起こし、破壊活動を行っている。
特筆してるのは、その内容は信者でないものを化け物に変え、強制的に信者にしているというものであることだ。
特に、力のない弱いものがそうなりやすい傾向にあった。
「それはそうかもしれないけど、じゃあ帝都は誰が守るんです?私達三人じゃ、全域はカバーできませんよ?」
「いいじゃないの?守らなくて」
そう口を挟んだのはラスタだった。
「国民を見殺しにするというのですか?」
「国民?拉致した奴隷の間違いでしょう?」
「何を言ってるんですか!?それに、私の部下だって犠牲になるんですよ!」
「貴女の部下の国防軍だって、拉致して強制的に兵士にしただけじゃない、何故そこまで心入れ込むのかわからないわ」
ラスタの言っていることは事実だ。
ヴィルキスは吸血鬼の国家。故に幹部クラスを除けばその大半が拉致や、そうして連れてきた者達の家族で構成されている。
奴隷という考えはなにもおかしなことではなく、事ここにいたればラミエルのほうが異常だと、本人とてわかってはいるが。
「彼らは奴隷ではありません!私の大切な同胞です!」
だからといって引き下がれるほど、物わかりのいい子でもない。
「二人ともくだらぬ事を話してる暇か」
「くだらなくありません!」
レイズがそれをなだめようとするも、言葉選びが悪く、逆上を招く。
「もういいです。私達ラミエル家は好きにやらせてもらいます。貴方達も好きにしてください」
そう言って、ラミエルは再び影となり、この部屋から消えていった。
残されるは二人の吸血鬼。
「若いわね、ラミエルちゃんも。私も昔はあぁだったのに」
懐かしむように、ラスタは言う。
「あそこまで純粋な時期がお前に?馬鹿言うな」
「それよりもだ、軍のトップが消えたんじゃ、対策のしようもないな」
やれやれと、お手上げの素振りを見せるレイズ。
それを見ながら、ため息をつくかのような様子で
「対策すれば防げるってなら。私達は50年だか70年だか前に。負けちゃいないわよ」
ただ外を眺めながらラスタは言う。
レイズは、ただ物悲しそうにそれを眺めるだけだった。
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