お返事
私は偏屈な女です。
好きなことを率先してやらない。感情を露わにすることが恥辱だと思っているからです。
それは理性というものは進化先の一つだと考えているからです。全ては長生きさせるための道具。人類が長く蔓延るようにするための道具。しかしこの世には目的はなく、全ては因果関係でできていると思っていますから、道具という言葉も間違いでしょう。言うなれば、結果、でしょうか。お湯がどんどん冷めていくように、我々もまた安定地へと辿り着くように変化していく。進化、という言葉を使っているのですから、消極的に我々が動いていることは既に仮定済みと言ってしまえばそうですが。
そしてそれは愛情も同様です。我々が持つ、他の生き物にはない、集団を作る、攻撃を与えない、性行を楽にできるようになるなどなどと効果をもたらす一つの結果。素晴らしいという形容は無理があるでしょう。しかしそれらを幸福である、維持したいと思うのも結局はこれらも結果であろうが、自己完結であろうが事実なのです。蔑ろにするのもおかしな話です。ですから私は誤魔化すことにしていました。人間の脳が直感的に感じることをそのままに感じようと。つまりは考えたいのに考えないようにしてきたのです。
ね、私、天邪鬼でしょう?
しかし私は先日とても驚いたことがありました。それは私の中で直感と真実が逆転したのです。私は常々先に言いました通り、カレーを食べれば美味しいと言い、助けられたらありがとうと言い、みんなの前に立てば緊張し、道路に寝転がる虫に同情する。嬉しいと思い悲しいと思う。嫉妬し、優越感に浸り、退屈になり、楽しくなる。誤魔化して生きてきました。ですがそのような誤魔化しが、クソほどどうでもいいくらいに喜ぶことができたのです。真実のふるいなんてぶち壊す勢いに。
あなたが私に好きだと言ってくれたことです。
私は一つ謝らなければいけないことがあります。私は嘘をつきました。言い訳にも聞こえるかもしれませんが、あまりにも唐突で、素っ頓狂なものだったので自分も素直にはなれなかったのです。もちろんもうお分かりかもしれませんが私には彼氏なんていません。つくりたいと誤魔化して思っていただけです。ごめんなさい。
ですから私がここで言い直すことにします。
…………コホン。私は長らく探していたのでしょうか。一つの見解に辿り着くには、一人では無理です。共に語り合い、同調し、時に反発する必要がある。向きは違えど大きさが同じ人を。
そしてあなたは私に誤魔化すことの馬鹿らしさ、正直になる素晴らしさを思い出させてくれたこれ以上のない良き人です。
付き合ってくれませんか
え、あ……。ん、……んん?えと、あの………は……はい。
よろしくお願いします。
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