第16話 元ゲーミングカラー白豚王子との、幸福な結婚
アルジーベ公爵家には美しい三姉妹がいる。
長い赤毛と意志の強い黒瞳が麗しい長女レヴェッカ、金髪青瞳が鮮やかな三女ベラドナ。
そして真ん中、二番目の公爵令嬢の名は銀髪灰瞳のグレイシア。
社交界では頭文字と家名をかけて、RGBの三姉妹と呼ばれている。
次女グレイシアは一度婚約破棄をされた出戻り令嬢だ。
彼女がついに幸せになる日が訪れた。
今日は王国第二王子、シャテンカーリ殿下とグレイシアの結婚式だ。
王宮内の大聖堂、その控え室にて、父であるアルジーベ卿は目元を赤くして鏡の前で何度も目元を押さえていた。
「うう……グレイシアがついに……」
部屋には屋敷から持ち出した、巨大な亡きアルジーベ公爵夫人、つまりグレイシアの母の肖像画が置いてある。娘の晴れ舞台を前に、肖像画もニッコニコだ。
「しっかし、ゲーミングカラー白豚王子がゲーミングカラー辞めちゃうなんて、知ってたら私がモーションかけたのに」
真っ赤なドレスで唇を尖らせながら化粧直しをする長女レヴェッカ。
「光ってないならベラドナの青い瞳でも全然お嫁に行けたのにぃ」
隣で髪を巻きながら唇を尖らせるのは三女ベラドナ。
「私たちもいっそのこと娶ってもらえないかしら」
「RGBの三姉妹ですもの、三人セット売りバラ売り不可ですって言ったら行けるかもしれませんわ〜!」
「流石RGB三姉妹の才女枠、ベラドナ頭いいじゃない」
「いえ〜い」
「こらこら、お前たち、少しは素直に祝いなさい……」
鏡越しに、娘たちをたしなめる父。
対して、二人はキッと眉を釣り上げる。
「だってお父様、ずっとグレイシアのことばっかり気にしてたじゃない」
「そうですぅ」
「そ、それは……」
実は父アルジーベ卿も三人兄弟の真ん中で、色々苦労した身だった。なのでつい、自分と同じようなグレイシアに感情移入してしまうところがある。
また、主張の強い長女と三女に挟まれて、いつも黙って流されて我慢してくれていた、グレイシアがようやく幸せになると思うとホッとする。不器用でポンコツな子ほど気になる、とでも言おうか。
「すまん、お前たちも愛してるよ」
アルジーベ卿は立ち上がり、二人を両腕で抱き締める。
「ちょっと、ファンデがつきますわよ」
「きゃー」
抱きしめられる二人も、父に優しく微笑んでいた。
その時控室がノックされる。
「時間です。どうぞ大聖堂へ」
◇◇◇
ーーそして、結婚式本番。
父と腕を組み、大聖堂に現れたグレイシアの姿に、来賓は目を奪われた。無駄な装飾の一切ない、真っ白なドレスを纏ったグレイシアは時代に左右されない、ただただ清純で普遍的な美しさを放った花嫁だった。
シンプルなドレスはグレイシアの要望だった。
グレイシアはシャテンカーリに「食パン」と評され誉められたことが嬉しかったから。飽きのこない、シンプルな姿で嫁ぎたいと思ったのだ。
愛を誓い合う祭壇の前で待つのは、正装を纏ったシャテンカーリ第二王子。
フェイスラインで切った髪の毛先と、長く伸ばした尻尾髪の毛先が、柔らかく光を放っている。
隣にグレイシアが立つと、グレイシアの銀髪にその輝きが映り、眩いプリズムのような髪となる。
来場者は感嘆を漏らした。
「なんと……なんと美しい……」
シャテンカーリの隣に立つには、レヴェッカもベラドナも、他の令嬢たちも華やかすぎた。
白磁の皿にサラダの色が映えるように、食パンに塗るジャムの色が鮮やかなように。華やかな光を放つ王子と、真っ白なグレイシアはお似合いの二人だった。
「引き算の美ね……グレイシア綺麗よ」
「お姉さま素敵ですわ……ベラドナもウエディングドレスは虹色に輝くリフレクションの魔法をかけた布地でキメたくなっちゃう」
「こら、黙りなさい、沈黙魔法をかけるぞ」
そんなアルジーベ家の声は、主役の二人には届かない。
二人は大神官の見守る前で署名をした。
シャテンカーリはわずかに震える手でこわごわとヴェールを上げる。グレイシアの真っ白な肌に、染まった頬が鮮やかだった。
「グレイシア。……幸せにする」
「私も……ずっとお傍におります。どこまでも」
二人の誓いの口付けに、空から咆哮が響く。
◇◇◇
式が終わった二人を出迎えたのは竜だ。
手を取り合い竜に乗った二人は、パレードがわりに街を飛び回る。国民は大歓声を上げて二人の結婚を祝福した。
「ゲーミングカラー王子万歳!」
「白銀妃様万歳!!」
「はくぎんひ…とは…?」
「美しいって褒めているのさ、手を振ってあげなよ」
「そうですね」
二人で竜の上で微笑み合い、手を繋ぐ。
青空の下、二人を祝福するような虹が七色に輝いた。
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