第13話 シャテンカーリと秘密の部屋

「そんなこと、習わなかっただろう?」


 グレイシアは初代国王陛下の肖像画を思い出す。確かに輝いていなかった。


「ええ……肖像画も、竜と並んでいる普通の男性の姿でしたね」

「これは僕以外は誰も知り得ない、トップシークレットさ」


 王子は少し皮肉っぽく笑う。

 周りからは「出来損ないのハズレ」なんて言われていた彼が、初代国王陛下と同じ才能だなんて。


「初代国王陛下は己がゲーミングカラーに輝いていた事実を歴史から抹消した。だから皆知らないのさ」

「なぜ、わざわざ……」

「シンプルな話さ。彼はかつて、迫害されていたんだ」

「……っ!」


 王子は冷たい声音で、話を続ける。


「初代国王が危険を顧みず、当時魔物ばかりが住む危険なこの土地に挑んだのも、彼が他国を追放された身だったからだ」

「……ご苦労なさっていたのですね、初代国王陛下」

「さっきも言ったけど、これは王族の誰も知らない、僕だけが知る真実だ。……王家のギャラリールームの隠し通路の奥、厳重に魔術錠がかけられていた書庫に、初代国王陛下の手記があったんだ。同じゲーミングカラーの能力を持つ、僕にしか感知できない場所だった」


 ーー見つけたのは本当に偶然だった、そう第二王子は打ち明ける。


 第二王子は自室とギャラリールームと王立図書館を繋ぐ魔術回廊を構成していく中で、『自分によく似た』別人によって作られた隠し書庫を見つけたのだ。

 書庫の中には壁一面びっしりと、初代国王の手記が収められていた。

 シャテンカーリと全く同じ、七色に輝く肌に苦しめられ、翻弄され、生き抜いた男の苦悩の手記だった。


「……苦労をしてきた初代国王陛下は、ゲートから出現した竜を征服した事実だけを残し、己のゲーミングカラーな秘密を表の歴史から抹消した。けれど、同じ能力を持つ子孫が生まれ、己の能力と人生に迷った時のためにーー彼は、同じゲーミングカラーの子孫しか辿り着けない場所に真実を残してくれていたんだ」


 第二王子の言葉には、初代国王への想いが感じられた。


「人とは違う能力に苦労しながらも、彼は能力をもって、人々が平和に暮らせる国を建国した。僕のようにヤケクソにはならなかったんだ。……立派な人だよ」

「殿下はご立派です、すごいです」

「ありがとう」


 慌てて言う私に、彼は肩をすくめて笑ってくれた。


「ねえグリー。僕も、初代国王陛下のような王族になりたい。そして……そうなることでこそ、ハズレの第二王子を脱却し、正々堂々と、君の夫になれると思ったんだ」


 そのために一年間、必死に努力と研鑽を積んできた王子。

 グレイシアは眩しい気持ちで王子を見つめた。


「……そんなに見るなよ」


 第二王子は照れるように、頬をかく。


「グリー。さっそく僕は竜に挑もうと思うんだが、挑むには僕だけでは足りない」


 強い眼差しで、第二王子はグレイシアを見つめた。


「君の力が必要だ」

「私ですか」

「初代国王も少数の手勢を伴って挑んだという。だが僕は一緒に伝説に挑むならグリー、君と一緒に挑みたいと決めていた」

「でも……」


 グレイシアは戸惑った。

 確かに『氷塊砕きの豪傑令嬢』としては快諾したいが、王子妃としてはいかがなものだろうか。

 剣に目を落として、グレイシアは悩む。

 令嬢として落ちこぼれで、父にも王子妃教育の家庭教師にも迷惑をかけてきた。そんな自分がここで剛腕を発揮することにより、ますます王子妃として不適格だ! と、王子に迷惑をかけてしまうのでは……


「グレイシア」


 気がつけば王子の顔が近い。

 王子の光を浴びてサングラスがギラギラと反射光を撒き散らす。

 王子はグレイシアの手を取り、真剣な顔で訴えた。


「君と一緒に二人で認められなければ意味がない。僕の強みを認めて受け入れてくれたグリーも、また強みを認められて受け入れられなければ僕は嫌だ。君の勇猛さを竜に認めさせて、王宮、王国ーーいいや、世界中に認めさせたい。君も、堂々と君らしい『第二王子妃』になってほしいんだ!」


 熱弁だった。

 グレイシアは嬉しさと、驚きと、ときめきで胸がいっぱいになって、頭が真っ白になった。無色になった心に湧き上がってきたのは、この人に応えたいと思う愛しさと闘志。


 グレイシアは、ぎゅっと王子の手を握り返した。


「私でよろしければ、喜んで王子の剣となります!」

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