第12話 地位ではなく、名誉が欲しい
「グレイシア! 気張るのよ! そしていい男見つけてきてね!」
「お姉様〜! 目にはお気をつけて〜!」
ハンカチを振る姉妹と父と、父の抱えた亡き母の肖像画に見送られ馬車に乗り込んだグレイシアは、車内で第二王子と二人っきりだった。ずっと会いたかったと思っていた王子なのに、首が90度直角に窓に向いてしまう。
「こっちを見ないのかい」
「……殿下が眩しくて」
「いつものことだろう。それに君、サングラス、つけてるじゃないか」
「……それでも眩しいんです。不思議ですよね。私もよくわかりません」
「相変わらずだな、グリーは」
グリーと呼ばれ、グレイシアは頬が熱くなる。
「ああ、君のその顔、ずっと見たかったんだ」
馬車の中でフードも覆いも取った王子が楽しそうに笑った。サングラス越しでもはっきりと顔は見えないものの、王子殿下は一年のあいだで別人のように様変わりしているように感じた。
背は見上げるほどに高くなったし、体もふわふわの柔らかい部分が削げ、固く厚い騎士に近い体格になっている。声も少し低くなったような気がする。
けれど笑い方や話し方、グリーと呼んでくれる声の甘さは、以前の彼そのままだった。
「さて、突然来てすまなかった。君を迎えに行ける準備が整ったと思ったら、居ても立ってもいられなかったから」
王子は膝で指を組み、説明を始めた。
「この一年、僕がやってきたことについて説明させてくれ。……王家の秘密だから、まだ王妃に正式に認められていなかった君に、先に伝えることが出来なかったんだ」
真面目な空気に、グレイシアは背筋を伸ばす。
先ほど貰い受けた剣をぎゅっと抱いて話を聞いた。
「僕は王宮の地下に眠る竜に挑む」
王子は真剣だった。
「我が国は、大魔導士だった初代国王陛下が竜を征服し契約したところから、歴史が始まっているのは知っているだろう?」
「はい」
王国建国以前、この土地には古代結界『ゲート・ミーティング』の扉が存在した。扉より出でし魔物を恐れ誰も住むことができない土地だったここを、魔物の王である竜に挑み征服したのが初代国王だ。初代国王は大魔道士であり、勇者だったのだ。
グレイシアが最近ようやく覚えた王国史だ。
勉強が役に立った。王子は話を続ける。
「王宮地下ダンジョンを踏破し、竜と手合わせすること……本来、王族であれば自由に挑戦が認められているのだけど、そんな面倒に名乗りを上げる王族なんていなくてね、初代国王以外では、僕が最初の挑戦となる」
「すごいご決断ですね……」
第二王子は居住まいを正し、まっすぐグレイシアに向き直った。
グレイシアも自然と背筋を伸ばす。
「グリー。君と離れていた一年、僕は挑戦の承認を得るために奔走していた。兄の王位継承権を脅かさないこと、あくまで僕個人の挑戦であり、王宮からは攻略に関わる一切の支援の手出しも不要ということを父ーー国王陛下に認めてもらったんだ」
「それで……シャーティー様は宜しかったのですか?」
「ああ。僕は王位継承権もいらないし、資産だって潤沢だ、むしろ王宮に貸し付けている側だからね」
「まあ……」
グレイシアが拍手すると、王子はふふん、と鼻を鳴らす。
自分の力で自立して、王宮に援助する側になっているのが嬉しいのだろう。
「叛意がないことを示すため、王位継承権もさっさと放棄した。……僕が望むのは王位じゃない。お金でもないもっと別の幸福だから」
「もっと別の幸福ですか」
「君と胸を張って、一緒に幸せになりたい。真っ直ぐ、誰になんと言われても堂々と」
「シャーティー様……」
「グリー。君となら、何も怖くない」
彼は微笑んでそう言うと、真面目なトーンに声を落として続けた。
「それに、僕はもう一つ、挑まなければならない理由がある。……僕のこの迷惑極まりないゲーミングカラーに光り輝く魔力は、どうやら初代国王陛下と同じものらしいんだ」
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