第10話 ゲーミングカラー白豚第二王子殿下の決意
僕はシャテンカーリ。
馬鹿にされるのに慣れていた。疎まれるのだって慣れていた。
僕を産んだせいで母は死んだ。
父である国王はゲーミングカラーに輝く我が子を持て余し、メイドたちは気味悪がって遠巻きに世話をした。
もちろん第一王妃は出来の良い我が子である兄を大切に扱い、僕とは会話すらしてくれない。
兄は、僕のことをすっかり忘れて暮らしている。
「お可哀想に。殿下は何も悪くないのですよ」
そんなふうに丁寧に扱ってくれる人ほど、目を悪くして王宮を去っていく。
迷惑をかけないように、僕は部屋に閉じこもって勉強した。
自分なんかに国費を使うのは嫌だろうからと、自分の食い扶持は自分で稼いできた。
そして引きこもってぽっちゃりになれば、トラウザーズの上に乗った浮き輪を笑われるようになり、精悍かつ美しい兄と比べて出来損ない、みっともない白豚王子と陰口を叩かれるようになった。
あてがわれる婚約者候補は皆、僕を見て悲鳴をあげて逃げるか泣くか震えるか、全身を隠してぽっちゃりした自分を見てがっかりするか、兄を紹介してほしいと露骨に言ってくるかで。
どいつもこいつも表情にありありと、僕をバケモノ扱いした感情が露骨に滲んでいて。
僕だって最初は歩み寄ろうとした。清潔感のある服を着てみたり、話術を磨いてみたり、婚約者候補の令嬢の事をよく知ろうとしたり。
デブが高そうな服を着ていると馬鹿にされ。話の内容はちっとも聞いてもらえなくて。
相手をよく知ろうとすれば、気持ち悪いだの、怖いだの言われて。
けれど結局、僕はバケモノ扱いかできそこないの王子扱いだ。
ーーそっちが僕をバケモノ扱いするなら、僕だってもう適当にやってやる。
馬鹿にされ続けるのが嫌になって、婚約者候補としてやってくる令嬢たちを、下着一枚で輝く体で圧倒するようになった。
そうするとこちらが不愉快になる前に、相手が光に怯えて来なくなるから。
相手にとっても、さっさと話が破談になった方が楽だろう。
ーー馬鹿にされるのは慣れていた。
ーー避けられるのも慣れていた。
ーー見目麗しく、将来を期待されて生きるのは兄の役目。自分はただ、引きこもって自分で稼いで、ひとりぼっちで生きていくと思っていた。理解者なんていらないと思っていた。
けれど。
グレイシアは光にも怯まなかった。
ただ冷静に僕がブリーフ一枚だったことを指摘した(今思うと本当に失礼すぎた。僕もどうにかしていたんだ、恥ずかしい)
婚約解消もせず、僕が邪険に扱っても平気な顔をしてまた会いにきてくれる。
最初は親の言いつけだから仕方なく義務で来ているのかと思っていた。
兄との縁を期待して、媚びているのかもしれないと思っていた。
しかし彼女は、僕を見るためにわざわざサングラスをつけて、ちゃんと僕の顔を見て、僕の蔵書を見て、僕の仕事を見てくれた。
『なんだかわからないですが、すごいですね』
彼女の言葉には嘘がない。
嘘のない微笑みを浮かべながら、素直な敬意を向けてくれる彼女に、僕は初めて恋を覚えた。
彼女は僕が生きやすいように知恵を絞ってくれた。
彼女は自分自身を頭が悪いという。
……確かに、計算ができない子なのはわかるよ。計算高い賢い子なら、僕なんかと真正面から接してくれないよな。
でも違う。
君は計算ができないかもしれないけれど、頭は良い。そして優しい。
すとんとした銀髪も、飾り気のないまっすぐな瞳も、性格も、時々どきどきとするほど綺麗に笑うところも、僕はグレイシアの全てを愛していた。惹かれていた。
ーー僕は馬鹿にされるのに慣れていた。
けれど人生で生まれて初めて、馬鹿にされたことに怒りが収まらない。
僕が馬鹿にされるような王子だから。だから僕の愛しい人さえ、馬鹿にされてしまう。
悔しい。
グレイシアを守れないなんて、悔しくてたまらない。
「僕は、強くならなければ」
僕は夜、王宮のギャラリーへと足を運び、歴代王族の肖像画を見上げた。
初代国王陛下は、竜と一緒に描かれている。
僕は覚悟を決めた。
「次は僕が、グレイシアの力になる番だ」
そして僕は空間魔法を展開する。
ーー王家の隠された通路に入るために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます